第69話 貴族とお茶会

箸休め的なショートストーリーです。



 貴族といえば、夜会。まだデビュタント前なんで、基本は出ません。今日はお茶会にディルクと出席です。お茶会は子供と貴婦人の社交の場。わりとお呼ばれしたりします。今回は我が家の庭での開催です。




 今日は年相応の可愛い感じでまとめられています。私の希望で鈴蘭のヘアピン付きです。




「あ、それ…」




 ディルクがそっと私に…というかヘアピンに触れました。




「よく似合ってますよ、奥さん」




 耳元からのからかう声音に背筋が震えるが、私も負けませんよ!




「大好きな旦那様のプレゼントですもの」




 ど、どうだ!嬉しいから使いたかったのは本当だもんね!


 背後から女の子達のキャーという声が…何事?




「ロザリンド様、ディルク様からのプレゼントなんですか?」




「なんだか以前より親密ではありませんこと?」




「お話、聞きたいですぅ!」




 招待されてた女の子達が口々に聞いてくる。その中で面白くなさそうな女の子が言った。




「よくそんな安っぽいモノを喜べますわね」




「はい。ディルク様が私に似合うと選んだ品ですから。私はどんな豪華な宝石より、これが嬉しいですわ。私にお店で色々とあてて選んでくださいましたの…それに、買った日にディルク様が私につけてくださいましたのよ」




「え、ちょっと…」




「それに、それに」




「あああああもう!のろけるなら他の令嬢になさいませ!」




「えー、ミルフィリア嬢、かまってくださいませ」




 嫌そうに私に文句をいうご令嬢はミルフィリア=ローレル。ローレル公爵家のご令嬢である。私に直接嫌みをいうのだが、小細工せず堂々と言うので気に入っている。




「なんで私が貴女にかまってやらなければなりませんの!」




「そんなの私がミルフィリア嬢を気に入っているからですわ」




 他の令嬢達も最初はこのやり取りに怯えていたが、最近ではまたかー的な感じである。




「はぁ…好きになさい。そのピンも確かに安っぽいですけどお似合いですわ」




 私に何を言っても無駄と悟り、最近は多分、仲がいい。多分。




「うふふ、ありがとうございます」




「ところでロザリンド様、先日ディルク様に靴屋で抱かれていらしたとか」




「えふ!?」




 抜かった。むせた。いや、まさか見られてた!?そういやあの店、貴族御用達だったわ。




「あ、あれは私が靴擦れをしまして…お恥ずかしい話しですが背伸びしてヒールが高い靴をはいておりましたから…」




 ミルフィリア嬢も含め、皆が意外…という表情をしている。いや、私は結構抜けてますよ?やはり履き慣れない靴は可愛くとも実戦投入してはダメですよね。




「貴女もそういう失敗をなさるのね」




「年上の婚約者ですから、少しでも…こ、恋人に見えるようにしたかったのです」




 他の令嬢達がきゃぁぁ!と盛り上がる。え?今の盛り上がるとこ?若い子にはついていけないな(注・同い年です)




「さらにさらに、ディルク様が怪我をした足を拭って、靴まで履かせてらしたと聞きましたわ!」




「きゃぁぁ!ロザリンド様!詳しく教えてくださいまし!」




 さすがにあの羞恥プレイについてはちょっと…視線をさ迷わせ、ディルクと目が合う。




「うう…ディルク…」




 涙目でヘルプを求めるとディルクは近づいてきて…抱っこされました。




「へ?」




「ごめんなさい、私の婚約者を少し借りて行きますね。少し気分が優れないようだ。ね、ロザリンド嬢?」




 にこりとディルクは笑うと、さっさと私を抱きなおして屋敷に入った。背後から令嬢達の楽しげな叫び声が聞こえた。




 た、助かった。ディルクに体を預ける。しばらくは、お茶会出ない!と心に決めた。ディルクは私を自室に運んだ。下ろすつもりはないらしい。




「ロザリンド、ロザリンド」




 ディルクはご機嫌なご様子。私にキスをいくつも落とす。




「お化粧がとれちゃうよ。どうしたの?」




「ん?嬉しくて」




「…何が?」




「無意識かもしれないけど、ロザリンドが俺を頼って、助けを求めてくれたのが嬉しくて」




「そっか。助けてくれてありがとう、ディルク」




 ちゅ、とキスをした。




「俺、少しはマシになれた?ロザリンドに頼ってもらえるかな」




「私からしたら、ディルクは充分頼もしいんだけどね。暗殺未遂の件でも頼らせてもらったし」




「そうなの?」




「私が安心して頼れる数少ない相手だよ」




「そっか」




 首筋に顔を埋めるディルク。耳が扉に向いた。うん、嫌な予感。無言でそっと私をベッドに下ろすとディルクは素早く扉を開けた。




「「「きゃあぁ!」」」




 予想通り、ご令嬢達が扉から倒れてきた。




「皆様、何をしておいでで?」




「あはは、ばれちゃいましたぁ」




「わ、私は止めようと…」




 ミルフィリア嬢は往生際悪く言い訳をする。




「言い訳無用ですわ!」




 全員捕獲して、くすぐりの刑に処しました。覗き、ダメ!絶対!!




 母と私の布教活動の成果か、獣人への差別意識が貴族女性・子供を中心に改善されたのはよかった。よかったけど、最近私の恋愛に興味津々なのはどうにかならないかな…と思う一日でした。




後書き編集

 ミルフィリア嬢はツンデレです。本人は否定していますが、かなりの仲良しだと思われます。




 獣人の忌避意識が無くなれば、恋愛ごとは年頃の女の子にとって興味があるお話。しかも年上騎士様とのコイバナとか、聞きたいのが普通。当面ロザリンドは自分の恋愛事情を聞かれて困るでしょうね。

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