第33話 息子さんを私にください

 バートン邸は落ち着いた雰囲気で、地味すぎずとてもセンスのいいお屋敷だった。


 失礼かもしれないので魔法は解除して4歳の姿になっておく。




 ディルク様はお母様が獣人、お父様は人間でハーフ獣人なんだとのこと。それでも獣化出来るってすごい。獣化はできない獣人もいる。


 お母様は既に亡くなっているらしい。ウルファネアの令嬢だったらしく、ご存命なら話が聞けたのに、と残念でならない。




 そんなことを考えていると、執事さんが出迎えてくれた。




「お帰りをお待ちしておりました、ディルク坊ちゃま」




「ただいま」




「はじめまして。ロザリンド=ローゼンベルクですわ」




「おお、これは可憐なご令嬢ですね。旦那様がお待ちです。どうぞ応接間に」




 執事さんが私達を案内してくれました。


 応接間には既に候爵様がいらっしゃいます。


「お忙しい中時間を作っていただきましてありがとうございます。はじめまして、バートン候爵。ロザリンド=ローゼンベルクと申します」




「ああ、堅苦しいのは苦手なんだ。2人とも、座りなさい」




 ディルク様はため息をついて座った。あれ?不機嫌?もしかして仲悪い?


 バートン候爵様は金髪に緑の瞳であまりディルク様には似ていないが、なかなかに美形でフレンドリーなおじ様だった。




「父上、単刀直入に言う。俺はこちらのロザリンド嬢と婚約する。承認してくれ」




「うーん、彼女が私の質問に答えてくれたらね?」




「なんなりと」




「うちの息子のどこが好き?」




「先ず、外見が好みですね。艶やかな黒髪、柔らかなお耳、しなやかな尻尾…もはや芸術です。普段の優しげな表情もさることながら、照れるとその破壊力は計り知れません。その可愛さに何度悶えたことでしょう。更に最近は男らしい表情も見せてくださいましてもう…心臓が壊れるのが早いか私がおかしくなるのが早いか「ストップ!恥ずかしい!俺が恥ずかしいから!!」




 ディルク様からストップが入りました。涙目です。はう、可愛い。今まさに可愛い。




「でも、嘘は言ってませんよ?」




「可愛いのはロザリンドで俺じゃない!」




 私は首をかしげて考えた。




「私の可愛い人は貴方だけよ。私が一生かわいがってあげるわ。私の世界で一番可愛いディルク」




「あ、うう」




 顔を真っ赤にして口をパクパクとさせているディルク様。ツツッと首に手をやると身をすくませる。なんて可愛い生き物なのだろうか。




「じゃ、外見以外は?」




 なかなかマイペースなバートン候爵様。いや、恋人の父親の前で堂々といちゃついた私が言うことじゃないけども。




「そうですね…真面目で誠実で優しくて、いじりがいがあって、染まってないところがとても「ストップ!なんか後半変なの混じり出したよ!?」




「ふはは、面白いご令嬢だね。流石はディルクが選んだ子だ。しかもディルクがこんなに素直に感情を出すなんてね」




「はい?」




 私は首を傾げた。




「ディルク様はわりと最初からこんな感じでしたよ?お家では違うんですか?」




「え?」




 私なんか変なこと言いました?執事さんまでポカーンとしてますが。




「いや、ディルクは昔から無表情な子でね。妻が亡くなってからいっそう暗さに磨きがかかってそのうちキノコでも生えるんじゃないかってぐらいウジウジジメジメしててね「父上!」




 そういや、最初の頃は私にめちゃくちゃ動揺してたなー。話しかけるなオーラ出してたから、構われ慣れてなかったとか?




「しかも小学部で獣化したら阿鼻叫喚でさぁ、更に暗く「父上!!」




「はつこ「黙れ馬鹿親父!!」




 バートン候爵、ディルク様により強制終了。ディルク様のげんこつ入りました。痛そう。初恋の子に獣化をビビられでもしたかな?傷をえぐりそうだから黙るけども。




「バートン候爵様、今度その辺りも聞きにきます。小さなディルク様のお話とか色々色々聞きたいです」




「なんでうちの親父に聞くの!?しかも色々多いよ!どれだけ聞く気!?」




「面白い話が出そうだから」




「真顔で答えないで!」




「特に初恋とか」




「黒歴史を掘り返さないで!」




「じゃあ好みのタイプ教えて。胸は大きいのと小さいの、どっちが好き?」




「だから、なんでそこに着地しちゃうかなぁ!だから俺はロザリンドの胸ならどっちでも…」




 途中から自分が何を言ってるか気がついたらしく、口をおさえるディルク様。




「私の胸ならどっちでも?」




「と、とにかく」




「私の胸に興味がおありで?」




 いや、幼児ですから見ても何も面白くないですよ?特殊性癖でない限り。




「す、好きな子に興味があるのは仕方ないでしょ!俺は他に興味はありません!」




「ぶはっ若いからしかたないよねぇ」




 何やらツボだったらしく、爆笑してるバートン候爵様。


 あ、ディルク様が丸くなった。拗ねたようです。からかい過ぎたかな?ディルク様によしよしと優しく撫でると涙目で睨まれた。怖くないよ、可愛いよ。




「ロザリンドの意地悪」




「好きな子ほどいじめたいものです」




「いや、もう本当に仲いいね。いいよ、婚約許可するよ。よろしくね、ロザリンド嬢」




 涙目でひぃひぃ言いながら、バートン候爵様は許可してくれた。




「こちらこそ、よろしくお願いいたします。息子さんは責任もって私の一生をかけて幸せにする所存です」




「君はそれで幸せ?」




「笑顔のディルクが居るなら、それだけで勝手に幸せになれるので問題ありません」




 私は笑顔で言いきった。




「うちの息子は本当にいい嫁さん連れて来たなぁ…ディルク、横から掻っ攫われないよう気をつけなさい」




「言われなくとも」




 当然、と言わんばかりのディルク様。私を抱き上げ、すっぽりくるんでしまう。




「もう絶対離さない」




 切なく響いた少し低い声は、私の胸をしめつけた。


 ディルク様、かっこよすぎて私がやばい。




「上等。幸せになりなさい」




 バートン候爵はとても優しいお父さんの瞳で笑っていた。私達は既に用意されていた調印済みの婚約申請書を受け取り、バートン邸を後にした。


後書き編集

 次は公爵家ですねー。




 候爵様は奥様似のディルク様がなんだかんだ可愛いのではないかと思いますが、ディルク様本人にはいかんせんうざがられているようです。

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