第34話 婚約の許可ともふもふ

 さて、帰ってきました。ディルク様、緊張しまくっているご様子ですな。




「大丈夫ですよ、落ち着いて」




「う、うん」




 駄目だ。緊張しまくっている。右手と右足が同時に出てますよ。




「お帰りなさいませ、お嬢様」




「ただい…ま。マーサ、私が悪かったからアークを放してあげてくださいお願いします」




 全力で頭を下げました。即座に回復魔法を展開。アークはボコボコにされてました。




「いえ、お嬢様とディルク様にしてやられるだなんて、護衛として失格です。お嬢様は何も悪くないのです」




 優しい声のマーサ。やめて、せっかく治したのに踏まないであげて。




「マーサ…お願い」




 秘技!幼児の涙目おねだり!!裾をちょっと掴んで、上目遣いがポイントです。




「お嬢様…仕方ありません、今回だけですからね」




「マーサ、大好き!」




 満面の笑みでマーサに抱き着く。なんとお優しい…とか言ってるけど気にしない!明らかに私のせいで折檻されてるのを放置できるほど鬼畜じゃないから!




 アークにここは任された。私が囮になるから早く逃げろとアイコンタクトする。口が「礼はいわねぇぞ」と言ってたけど、いりませんよ、原因私ですから。




 ところでディルク様は…固まっていた。すいません。しょっぱなからこれは厳しいよね。




「まぁ、ようこそいらっしゃいました。ディルク=バートン様。お噂はかねがね。初恋のお嬢さんに気持ち悪いと言われるわ、騎士団では獣人部隊あがりと勘違いされて嫌がらせをうけた挙げ句お嬢様にフォローされるわ、大変ですわね」




「は、はい…」




 マーサ!マーサ!いきなりとんでもない爆弾投げつけないで!ディルク様繊細だからめちゃくちゃショック受けてるよ!




「確かに俺は頼りないですけど、ロザリンドを守れる男になりたいと思います。ロザリンドにとって、貴女は大切な方なのだと聞いています。いつか認めていただけるよう精進します」




「…及第点ですわね」




 マーサは微笑みを浮かべた。




「無礼をお許しください、ディルク=バートン様。旦那様の元にご案内致します」




 マーサは優雅に礼をとると、私達を案内してくれた。いや、びっくりしました。


 マーサが私を心配してくれるのは嬉しいんだけど、ディルクを傷つけたら駄目だと後でしっかり話しておこうと決意する私だった。




 我が家の応接間には、既に両親と兄が待っていた。




「ようこそ。ディルク=バートン候爵子息」




「お久しぶりです、ローゼンベルク公爵」




「あれ?知り合い?」




「彼が幼い頃に何度かな。彼の父とは学友…悪友だったからな。最近は忙しくてご無沙汰だが、たまに酒を酌み交わす仲だ」




 知らなかった。そうなんだ。




「ちなみに赤子のロザリンド…ロザリアは会ったことがあるはずだ」




「覚えてたら奇跡ですよ」






「だろうな」




 父、無茶言うな。流石にロザリアも覚えてないって言ってるよ。




「さて、ディルク=バートン候爵子息殿。我が家に何用かね」




「ロザリンド嬢との婚約の許しをいただきに参りました」




「却下」




 兄!いや、この場にいたことで予想はしてたけど、反対ですか!




「理由を伺っても?」




 相手が年下でも丁寧な姿勢で対応するディルク様。真面目なお顔が凛々しいです。




「まず、獣人なのがありえない。しかもハーフ獣人なのに獣化できる異端。あんたといるせいでロザリンドが傷ついたり誹謗中傷を受けたらどうするつもりだ?さらに、この間の件。あんたのためにロザリンドは悪役になり、あんたが危険だと思ってロザリンドは危険な場所につっこんで行った。あんたはロザリンドに相応しくない」




「そう、かもしれません。今の俺では彼女に何もかも、釣り合っていない」




 ディルク様は目を伏せた。




「でも、それは私が勝手にやったことでディルクが望んだわけじゃないでしょう!」




「ロザリンド」




 ディルク様は首を振る。




「それでも、釣り合わなくても俺は彼女がいい。彼女の隣に立てるならなんでもしてみせる」




「それに、この婚約は必要だ。これはロザリンドの運命を変える一手だ。そうだな、ロザリンド」




「あ、父様!私それ2人に話してません!」




「…そうなのか」




 そうなんですよ、父!私は大人にしか話してなかったんですよ!兄とディルク様には機会があったら話すつもりだったんですよぅ!




「「ロザリンド?」」




 息ぴったりですね!もう仲良しなんじゃないですか?


 私はゲームの事は伏せて、ロザリアの天啓を中心に話しました。




 兄に言わなかったのは大人と違い引き際の判断が難しいから。信頼してるし能力もあるのは解ってるけど、無茶して欲しくなかった。


 ディルク様に言ってなかったのは純粋にタイミングの問題。今言っちゃうと未来を変えるために婚約するとか勘違いされても嫌だったから。




 運命は私のせいで今はどう転ぶか解らないけど、なるべく違う道を選んでおきたい。


 それに現時点で私、多分王子どっちかの婚約者候補なんですよね。家格と能力双方から、私は王家に有用な人材ですし。でも、私はディルク様以外と結婚したくない。だから今、婚約して打診できないようにする必要がある。




「ロザリンド、そんな大切な事をどうして僕に言わないんだ!僕はそんなに頼りないか?」




 兄を傷つけてしまったようで、泣きそうな瞳で私を見据えた。




「兄様が頼りになるのは解っていますが、私も兄様も子供です。巻き込むのをためらったというのもあります。でも、いつかは話して協力していただくつもりでした」




「ロザリンド、よく覚えておいて。僕はもう、置いて行かれるのはごめんだ」








 ドラゴン事件の事を言っているのだろうか。兄の瞳に揺らがない意志を認め、私は頷くしかなかった。




「わかりました。もう隠し事はしません。兄様にも相談します。代わりに、無茶はしないと約束してください」




「わかった」




 兄は頷いた。話は終わったと判断したのか、今度はディルク様が話しかけてきた。




「ロザリンド、どうして俺には話してくれなかったの?」




「純粋にタイミングがなかったからですかね」




 いや、実際ね。その一言につきるんだよ。




「あと、婚約が未来を変えるためだけだとか思われたら嫌なんでしばらくしてから話そうかなとは思ってました。私は純粋にディルク以外と結婚したくありません」




「ロザリンド…今度から俺にも相談してくれる?」




「もちろん。ディルクにも協力してもらうからね」




「わかった」




 ディルク様も頷いた。結果的にはいまばれたのはよかったのかもしれない。




「話は戻るけど、婚約は今じゃなくてもいいだろう。僕はディルクを認めない」




 兄が話を戻してきました。いや、今じゃないとダメなんですよ。母が困った表情で兄に言いました。




「うーん、今しとかないと、王妃教育があるから王様から王子殿下との婚約を打診されちゃうかもなのよね。なにせうちのロザリンドは最有力候補だから」




「「え」」




 兄もディルク様も母の言葉に固まる。そんなに意外?それもあってバカ殿はしつこく私に関わってたんだと思うけど。




「私優秀ですし、囲いこもうとするのは当然かと。私も母と同じ考えですよ」




「う…」




「ルー、諦めろ。我が家の家系は愛する者を見つけてしまえば最後、他と結婚することは絶対ない。ロザリンドも反対したら駆け落ちしかねん」




「確かに」




 兄!絶対しないとは言い切れないけど、納得しないで!




「大丈夫、ロザリンドは家族が大好きだから、駆け落ちなんてしないしさせません。駆け落ちしたらロザリンドは本当の意味で幸せではないですから」




「ディルク…」




 ぎゅうっとしがみつくと優しく撫でてくれる。はぅ、幸せ…


 うっとりした私にため息をつきつつ、兄は折れてくれた。




「心配は尽きないけど、ロザリンドがこれだけあんたを好きなら仕方ない。泣かしたら潰すからね」




「…肝に銘じておきます」




「…それに、このお転婆娘を他に制御できる適任がいるか?あの断罪の場でロザリンドを踏み止まらせることができる者は、そういない」




「………確かに」




「…が、頑張ります」




「え、そこ納得するとこ!?」




 兄とディルク様の中で私がどうなっているのか問い詰めたい!確かにあの場で私を止められるのは、ディルク様だけだったけどね。


 私の異議を遮り、母が手を叩いてにっこりした。




「じゃ、オッケーってことで、お祝いしましょ」




「うむ」




 父はディルク様の持ってた婚約申請書にさっさと署名捺印して返した。母はよろしくねーとディルク様と握手している。




「おめでとウ、ディルク、ロザリンド」




「おめでとう、よかったな」




「おめでとう、お姉ちゃん、黒いお兄ちゃん」




 スイとハルの魔法か、花が舞い散る。




「わぁ、ありがとう」




 私の精霊さん達からの祝福だ。コウは私の頭に乗っかる。すっかり定位置になっている気がする。




「うむ、めでたいな」




『ようやく婚約か。長かったな』




 何故いる。闇様と聖獣様までいました。




「どうしたんですか?」




「我の加護を与える予定の者の祝い事だ。祝いに来た。前回の誕生日は参加できなかったしな!」




 そういや悔しがってましたね、闇様よ。




『我等は汝を祝いたいだけだ。気にするでない』




「いや、無茶言わないでください」




 存在感がありすぎる。そしてさりげなく聖獣様をモフる私。




『だからマッサージもどきは…仕方ない。今日だけだぞ』




 聖獣様がお腹を見せてごろりと寝転んだ。今日はお祝いだから特別ですね?デレ期到来ですか?


 私に身を委ね、ゴロゴロと喉を鳴らす聖獣様。可愛いなぁ、癒される。肉球マッサージもしちゃうぞっ!素敵な揉み心地ですな。幸せ~。




 私の側に明らかに拗ねた表情のディルク様が来ました。獣化すると、私にスリスリしてきます。




「今日だけ特別。好きなだけいいよ」




 なんと!マジですか!遠慮なくモフります。はう…サラサラしっとりな毛並みが素晴らしい。ぜひともブラッシングしたい。




「幸せ…」




 兄が残念なモノを見る目で見ていますが、気になりません。最近普通にいちゃついていたんで、もふってなかったなぁと思いつつ、ディルク様のモフ心地を堪能します。




 座りこんだディルク様の膝に乗りスリスリしていると、背中からふわモフが…聖獣様が私の背中からスリスリしています。もふもふサンドとか、どんなご褒美ですかね!




「はう…もふもふ…」




 闇様がいらついた声でいいました。




「我もモフモフしておるぞ、かまうがよい!」




 滑らかなフォルムに、鳥の翼。漆黒の鱗に覆われた細長い身体。




「…ケツァルコアトル?」




 漆黒の翼ある蛇がそこにいた。サイズは10メートルぐらい?蛇部分だけでも結構な大きさ。そっと手を伸ばすとスリスリしてきた。滑らかな手触り。少しヒンヤリしている。


 翼部分はふわふわで、柔らかい。毛皮のモフモフとは違うモフ心地である。




「ロザリンドは、我が怖くないのだな」




「はい?そりゃあいきなりこの姿で襲いかかられれば怖いでしょうけど、闇様だってわかってますから怖くないですよ?」




「うむ、流石は我が見込んだ娘よ」




「ロザリンド、普通はそれ怖いと思うよ!」




 おや、兄ドン引きですね。私、闇様にわりと今までぞんざいな扱いしてたから、今さら怖がるとかないですね。




「あー、4つに頭から裂けて臓物撒き散らしながら触手とか出てきたら怖いかも」




「「それは誰でも怖い!!」」




「我も幻なら出来るが、現実には無理だな」




「しなくていいです」




 闇様は天然ですよね。うん、蛇も意外に可愛いかもしれない。ちなみにツッコミは常識人な兄&ディルク様。父はふむ…と考えてる。母は…何考えてるかわからん。笑ってる。




「た、たまになら撫でてよいぞ!」




「あ、じゃあお願いします」




『それにしても、ロザリンドは本当に異端に好かれるな。集めておるのか』




「違います。たまたまです。ああ、でも自身が異端だからか、異端は嫌いではないですね」




『ふむ。汝は異端を疎まぬ。それゆえ居心地がよいのであろうな』




「だから、結果的に集まる…ということですかね」




 またしてもさりげなく聖獣様をモフる私。ふかふか…




 この後も3つのモフモフを堪能し、コウも撫でてと参戦してカオスになりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る