第26話 断罪の魔女王

 うららかなお城の午後。私はディルク様と食後のお茶を楽しんでいました。お膝抱っこですよ。幸せー。聖獣様をなでなでもふりつつ、至福の時を過ごしていました。




「うにゃ!?」




「へ?」




 ディルク様のお膝でうとうとしていたら、足に何か…ディルク様の尻尾が絡み付いてました。触っていいってこと?




「ごごごごめん!!」




 焦って尻尾を隠すディルク様。なんで?




『ロザリンド、尻尾を絡ませる行為は豹獣人の求愛行動だ。よかったな』




「よ、余計なこと言わないでください!」




 あ、ディルク様は聖獣様の加護も精霊眼もないけど、何となく言ってることがわかるらしいです。 求愛?私、求愛されてるの?




「ディルクは私が好きなの?」




「は、あ、うー」




 コロコロ変わるディルク様の表情。あー可愛い。涙目ですよ、真っ赤ですよ。




「私はディルクが大好きだから、求愛されるのは嬉しいな」




「…っ!やめて、心臓に悪いから!」




 しかし私をお膝に乗っけているため、逃げられない。


 聖獣様もニヤニヤしてるし。ディルクをからかうの好きですよね。




「そういえば、明日は騎士団の全部隊合同公開演習だよね」




「え?うん」




「私、見に行くから」




「わかった」




 休憩が終わり、私はお仕事。ディルク様は訓練です。ディルク様を見送ると、聖獣様は声を潜めて私に聞いてきました。




『…首尾は?』




「上々です。今夜の仕込みはお願いしますね」




『任せておけ』




 私と聖獣様は共犯者の笑みを浮かべた。本当に明日が楽しみだ。
















 さて、翌日。私はウキウキと家族全員でお出かけ。家族全員である。マーサとアークも一緒。




 母、お出かけ出来るようになりましたよ!




 訓練所はそこそこ賑わっていた。私達は貴賓席に通される。




「もう全部隊揃っておるぞ」




 王様、疲れて何かを諦めた瞳をしておいでです。諦めてください、私の意志は変わりません。




『待ちわびたぞ』




「おはようございます、聖獣様ー!」




『だからマッサージもどきはやめよと言うに』




「ひ、久しぶりだな!」




 あ、バカ殿。実はあれから毎日兄に追い払われています。




「おひさ「行くぞ、ロザリンド」




 兄…挨拶ぐらいいいじゃないか。涙目ですよ、バカ殿が。気にしてないのに、私は。


 兄に促され、バカ殿から遠い席に座らされる。




 兄の隙をついて、第一王子が話しかけた。




「正式に挨拶するのは、はじめましてですね。ロザリンド嬢、アルフィージ=クリスティアです。」




「いつも兄がすいません、ロザリンド=ローゼンベルクですわ」




「こうしてお話するのは初めてですね」




「兄上、ずるい!おれもロザリンドと話したい」




「…苦労しますわね」




「…分かってくれますか」




 あのね、バカ殿や。このお兄さんはね、アンタと接点作るためにさして興味も無い私に話しかけたんだよ…




「…正直、殿下には同情しています。どうしようもない下を持つと苦労しますよね」




 兄、さすがにバカ殿と一緒にすんな。巻き込んで悪いとは思ってますけどね。でも、兄だってノリノリだったくせに!




 ほっぺたをぷうっと膨らませた私にアルフィージ殿下は苦笑していた。




 各部隊が整列し、訓練が開始する様子である。さてさて、これから楽しいショータイムですよ。




 ふわりと立ち上がり、無邪気に兄に手を伸ばす。兄は私の手を取った。




「なんだ!?」




 強烈な魔力を感じ取ったのか、バカ殿が叫んだ。




 繋いだ手から、互いの魔力を増幅する。共鳴する。謡うような、魔法詠唱。




「心優しき緑の君よ、僕の呼びかけに応えよ」




「心清き虹色の友よ、癒しをたたえし緑の友よ、この私の唄に寄り添え」




「この願いが」




「この祈りが」




「「聴こえたならば、我らに力を!!」」




 訓練所に魔法陣が出現した。実はこれ、あらかじめ聖獣様が昨晩描いて光の屈折で隠蔽していたもの。もう隠蔽不要だから魔法を解いたのだろう。気が付いても、もう手遅れだ。


 私達の魔力が注ぎ込まれ、高速で回転を始める。




「「我らが敵をその腕に閉じ込めよ!封印の翠玉!!」」




 陣から緑の触手が現れ、ターゲットのみを陣に吸い込んだ。




「わー、お嬢様と坊ちゃんで緑の最上級捕縛封印陣ですか。スゲー、初めて見たわ」




 アーク半ば呆れているみたい。


 父はよくやったって感じ?母は拍手して喜んでます。


 マーサは私達の成長に感涙してる。


 王様、顎はずれちゃうよ?バカ殿も同じ感じかな。第一王子は面白そうにしてる。




 まだまだショーはこれからですよ!!




「ハル!」




「おうよ!」




 私の声に、ハルは即座に拡声の魔法を展開する。貴賓席の会話が、訓練所全体に届くようになった。




「こーんにーちはー!!私はロザリンド=ローゼンベルクと申します!今日の全部隊合同公開演習は中止とし、代わりに余興を見せたいと思います!今回の件は国王陛下から許可はいただいております!」




「うむ…」




 王様が遠い目をしているけど気にしない!


 わはははは、裁きの時間だ馬鹿野郎共め!




「それでは、今回は公開処刑を実施したいと思います。罪状は、職務放棄隠蔽、私の愛するディルク=バートン候爵子息への誹謗中傷、殺人未遂等など、多岐に渡ります。」




「ち・な・み・に、お家に責任を負わせない代わりに、該当者は全員死ななければ何をしてもかまわないという念書を保護者あるいは配偶者様からいただいてまーす」




 きゃはっと無邪気に言っちゃう母は今日も可憐です。


 母に協力を仰いだのは私だけど、普通そんな念書全員分持ってこれないよね?母怖い。確実に敵にしたらいけない人だね!








 あの騎士3人事件から私は頑張りました。まず、デキる従者姉弟に諜報活動を依頼。


 兄を拝み倒し、父におねだりし、母に協力要請し、王様を脅し…げふん。王様と取引をしました。


 さらに、精霊さん達は私の味方です。




 負ける気がしませんよ!




「ではでは、余興を開始します」




 空間を繋ぎ、一人の青年を拘束したまま呼び出した。




「ご機嫌よう、ロスワイデ候爵子息」




 彼は私に怒鳴りつける。




「こんなことが許されると思っているのか!?」




「許されますよ?貴方、私の話を聞いてなかったんですの?国王陛下がこの余興をお認めになり、貴方のご両親からも許可をいただいています。ご自分の犯した罪が大したことないと仰せでしたら、耐えることなど造作もないでしょう」




 闇様の濃厚な気配。このショーに彼も是非!と参加を申し出た。私と彼の魔力が混ざり合う。




「悪夢の霧」




 力ある言葉に、ディルク様をおとしめた首謀者の男は眠りについた。




 私は男が魔法にかかったのを確認すると、訓練所に魔法でテレビもどきを出現させた。




「今回の件は、ロスワイデ候爵子息が騎士団入団試験の際に、ディルク様に負けたのが始まりでした。同じ爵位でありながら、獣人だからとディルク様に自ら加害をするだけではなく、他者を巻き込み多数でいたぶり、殺害未遂まで引き起こしました。罰として私の調査結果を元に、ご自身の行いを強制的にふり返っていただきます。私の魔法でやられた側の追体験するのです。せっかくなので皆様にも同じモノをお見せします。どうぞ、お楽しみくださいませ」




 テレビもどきから映像が流れる。誹謗中傷から傷害。やめてと泣き叫ぶロスワイデ候爵子息。




「やめて!ロザリンド!!」




 王様の護衛を振り切るとは、流石はディルク様。


 私はつん、と振り返らない。




「嫌です。私、怒ってますもの」




「な、何に」




「ディルク様に嫌がらせした奴、全員に」




「いや、俺は獣人だし仕方ないよ」




「仕方なくない!」




 私の怒声に固まるディルク様。




「私の大事なディルクを傷つける奴なんて、八つ裂きにしたいぐらいです!この程度のぬるい仕置きで我慢した私の忍耐を褒めてもいいぐらいですよ!」




「でも、ロザリンドが手を汚す必要はないし、酷いことしてほしくない」




「いいえ、私はディルクがこんなこと望まないことくらい理解しています。これは私の自己満足です。私がしたくて復讐するんです」




 テレビもどきには泣き叫ぶロスワイデ候爵子息。許して、と言っても誰も助けない。さらに責められる。そんな苦しさに、慣らされた彼が悲しい。




 彼の傷をえぐる映像をなんとも思わないぐらい傷ついた彼を思うと苦しい。




 彼を傷つけた者にまで優しい彼がどうしようもなく愛おしい。




「上手くやるから、今は許して」




「…分かった。ロザリンドに任せるよ」




 そして、映像は最後の場面になり




…バイオ○ザード風になった。阿鼻叫喚です。廃墟でゾンビに独り追われるロスワイデ候爵子息。




「…俺、ゾンビに追われたことはないけど」




「これは調査内容を私の妄想力で補完して作成しました。これ作ってたらムカムカしまして…」




「…うん」








「魔がさしました」








「こらぁぁぁ!やめなさい!止めなさいぃ!!」




 ディルク様は必死です。しかし私も譲れない。




「だってだって!許せなかったんだもん!ちなみにこれ、苦痛は本物みたいに感じる設定だよ!」




「もっとダメじゃないか!」




「さらにこの後、地獄の責め苦が待ってるよ!拷問で精神崩壊手前まで苦しめばいいんだ!」




「よくない!よくないから!俺、なんでもするからやめてあげて!!」




「…なんでも?」




「する!だからやめて!」




 ロスワイデ候爵子息はゾンビに足からがりがりかじられて悲鳴をあげてる所だった。パチンと私が指を鳴らすと映像は止まり、ブラックアウトした。




 ロスワイデ候爵子息は涙と鼻水まみれで床にはいつくばり動けない。




「温情は、今回だけ。次はないから」




 父仕込みのブリザードスマイルをかましてやった。




「さて、残りの該当者にも同じ体験をしていただきます」




「だから、やめてってばぁぁ!!」




 ディルク様の叫び声に聞こえないフリをする私だった。




「あ、該当されてない方は予定通り演習を行ってください。ディルク、いってらっしゃい」




「可愛くいっても騙されないよ!こんな状況で演習なんか出来ないよ!!」








「ディルクのかっこいいところが見たいなー、惚れ直しちゃうかも」




「う…だ、ダメったらダメ!魔法を解きなさぁぁぁい!!」




 結局、ゾンビ手前での終了になりました。


 実は団長のルドルフさんも共犯者なんですが、きちんとディルクの境遇を知りたい、上司としてのケジメだからと該当者に混じってました。実はゾンビはやろうと思えばステージクリア出来る仕様だったのですが、彼はゾンビをクリアしてしまい訓練にいいな!といい笑顔をかましました。脳筋め。次はクリア出来ないのを作ってやろうと思いました。


 ちなみに、私はこの一件で騎士団から恐れられ『断罪の魔女王』というなんとも厨二感ただようあだ名をつけられました。


 悪役令嬢より極悪な気配がするのは何故。解せぬ。

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