第17話 私の新しい誕生日
優しく頭を撫でる手が心地好い。
「あら、おはよう。お寝坊さん」
母、寝起きに見てもかわいらしい。アップで見ても完璧な美貌ですな。
「かあたま、おはよう…」
ん?あれ?私、泣いて寝落ちしたよね??別室に運び込まれたの?母、膝枕してるけど(体力的な意味で)大丈夫か!?
「どのくらいねてたの?」
「1時間くらいかしら。皆の前で蝋燭ふーして、誕生日おめでとうをしましょう」
「わたし…ロザリアのたんじょうびはちがいますよ?」
「うふふ、ロザリンドの誕生日だもの。今日ロザリンドになったんだから、お祝いしちゃいましょ」
「…うん」
母に手を引かれ、素直に私は食堂へと向かった。母、1ヶ月で本当に丈夫になりましたね。玄関で力尽きてた人とは思えません。
「お、来た来た。主役来たぞー」
アークが私に気がつき、ダンにケーキを運ぶよう指示する。
「こっちにおいで」
兄にエスコートされる。いわゆるお誕生日席に着かされ、ケーキの蝋燭を吹き消した。
「おめでとう!」
口々に祝いの言葉が告げられる。
「ロザリンド、僕からはこれ。急にだったからこんなものしかないけど、誕生日プレゼント」
兄がくれたのは鈴蘭の花のしおり。手作りかな?
「ううん、とってもうれちい。だいじにつかうね」
満面の笑みで贈り物を抱きしめた。
「私からは、これ」
「可愛い!かあたまありがとう」
母からは新しいリボン。赤に白い鈴蘭の刺繍入りだ。とても手のこんだ品である。しげしげと見つめる私に、母は照れながら告げた。
「恥ずかしいからあんまり見ないでね。母様頑張ったんだけど、いびつな部分もあるから」
「え?かあたますごい。リボンのちちゅうきれいだからみてたんだよ。だいじにするね」
「僕からはこレ」
スイからは、柔らかな光を放つ花の鉢植え。確か、これってレアモノの魔法植物では…
「まさかマグチェリア?」
「正解」
呪いを無効にする浄化の花だ。だ、大事に育てよう。
「育て方教えてね」
「任せテ」
スイは快く引き受けた。あ、兄羨ましそう。兄も一緒に育てようね。トムじいさんも仲間になりたそうですね。み、皆で世話しましょう!
「俺はこれ!」
ハルがくれたのは綺麗な青い石だった。男の子って、綺麗な石とか好きだよね。
「ありがとう、ハル」
私の手の平をアークが覗き込む。
「…見ていい?」
私が頷くと何やらルーペ的なモノで鑑定を始めた。石を私の手に返して、アークは言った。
「お嬢様、これサファイアの原石だわ」
マジか。石は後日アクセサリーに加工することになりました。
「俺からは、これな。精霊達に比べたら、しょぼくて悪いけど」
アークからは辞書。実用的ですな。
「ありがとう。がんばってはたらきます」
そういう意味じゃなかったと笑われました。てっきり働けという無言のメッセージだと思いました。すいません。
「私からはこれを」
マーサからは…キラキラした石。魔力が凄いんですが。
「インシェントタートルの魔力石です」
Sランク素材!!
魔力石とは、魔物の体内で魔力が結晶化したもの。魔道具に使われる。
「ふおお…だ、だいじにちます」
し、しまっておこう。こんなでかいのいくらになるかも解らない…。使い道も今は思いつかないし。
「俺からはこれだ」
ダンからはお菓子の詰め合わせ。
「わー、だいじにたべます」
後で精霊たちと食べよう!聖獣様に分けてもいいかも!
「わしからはこれです」
トムからは綺麗な花束だ。ちゃんと鈴蘭が入っている。後でお部屋に飾ってもらおう。
「ありがとう」
「はいはーい、私からはこれですよー」
マーニャからは…まきびし?と暗器一式…マーニャにアーク&マーサのげんこつが入りました。
「痛いです!何するんですかー!ちゃんと未使用ですよ!」
いや、使用済は困る。ううん未使用でもちょっと困るけど、女子力(物理)的にはあった方がいいのだろうか。
「お嬢様がヤバい方向に進化したらどうすんだ!」
「そうです!主だけでも手に余るのに、私の癒しのお嬢様が汚れたらどうするのですか!」
マーニャはマーサに引きずられて行きました…強く生きなさい。
父が私の目の前に立ち、土下座をした。
「すまない、ロザリンド!」
うん??土下座??
「うぇぇぇぇ!?」
「あなた!?」
「父様!?」
父の乱心にビックリする家族。アークはさりげなく部屋の隅で痙攣するほど笑っている。あとでお仕置きだ。
なんとか父に土下座をやめさせると、父は悲しげに語った。
「すまない、初めての誕生日だというのに何を贈ればいいか解らなかったんだ。言ってくれれば、なんでも用意する。不甲斐ない父を許してくれ」
いや、父よ。そんなにへこまなくてもいいよ。気持ちだけでお腹いっぱいだよ。
「ものでなくて、ふたつでもいいですか」
「構わない」
「じゃあとうたまがおやすみできるようになったら、ピクニックにみんなでいきたいです」
「約束しよう」
「きしのくんれんけんがくがちたいです」
「すぐに手配する」
「やったー、ありがとう!とうたま!」
手を叩いて喜ぶ私に、首を傾げる父。
「そんなものでいいのか?宝石でも、ドレスでも、好きなものを言っていい」
私は首を振った。
「わたしのプレゼントをとってもがんばってかんがえてくれたとうたまのきもちが、いちばんうれちかったんです。これいじょうは、ばちがあたります」
父は柔らかく微笑んだ。欲のない、という呟きは聞かなかったことにした。
これ以上高額なプレゼントとか要りませんよ。一部とんでもないのが混ざってるんですから。庶民だから高額な品は落ち着かないんですよ。
この世界初めての誕生日は、とっても素敵なものになりました。
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