第16話 祝福と私の新しい名前

 あれからボロ雑巾みたいになったアークと、更に血まみれになったマーサが帰ってきました。




 遠くにクレーターやら煙が見えますが、全力でスルーの構えです。




 マーサに支度してもらい、普段より豪華なドレスを着て、ちょっぴりお化粧もしてもらって、準備完了です。




 食堂で兄とも合流しました。私と同じく、いつもよりおめかししている兄はいつもより可愛いです。




 さて、食堂は見事に飾り付けられ、豪華な料理が並びます。前回より豪華なのは獲物のおかげなのか、マーサが一応遠慮したからなのか…




 テーブル中央に父と母が居て、父はルミナスという植物で編まれた冠を持っています。




「我らが愛し子、加護をおめでとう。我が子の精霊よ、我が子をどうかお守りください」




 父がルミナスの草冠を私と兄に。小さなものをそれぞれの精霊達に。そして母がそれぞれにキスをすると冠に花が咲いた。




「我が子、我が子の精霊に祝福を」




 ふわりと何かが体を巡る気がした。




「にいたま、ふちぎなかんじ」




「うん、僕も」




 これが本当に加護を得るという事なのかもしれない。




 その後は無礼講ということで、パーティーになりました。ダンのご飯めちゃうまです。スッポンもどきはスープやらステーキに化けたようですが、とろけるお肉はまさに有り得ないほど美味しかったです。


 料理もあらかたなくなり、お腹がいっぱいになったころ、ウェディングケーキ並に立派な誕生日ケーキが運ばれてきた。


 この国でも誕生日はケーキでお祝いする習慣がある。今日誰かお誕生日だったっけ?ろうそくは3本。名前は…ロザリア&と書かれ空欄となっている。




 父は膝をついて目を合わせ、私に問いかけた。




「君の名前は?」




「…ロザリア、です」




 真っ直ぐ私を射抜くその瞳が怖い。


『私』を見透かしているようで怖い。




「そうじゃない。怖がらなくていい。贈り人よ、君も私の娘だ。名前を教えておくれ」




「…え?」




 ばれてます?ばれてたの?え?ええ?いつから??




「ご、めんなたい。いつから?」








「別に謝る必要はない。君がロザリアに害意がないのは理解している。いつからとは…君が来たのは多分1ヶ月前ぐらいだろう。確証を得たのは今日の謁見の間でだ。聖獣殿に名前を教えでもしたか?存在が固定化されたようだ」




 父、エスパー!?


 結局、父が言うには私の魔力が変化して明らかに2種類になってたから贈り人かなって思ってたそうな!!




「贈り人は神の加護だ。ロザリアが望み、君が応えた」




「こたえた…」




 そう、応えた。


 泣いてた女の子。




 私と同じ願いを持っていた。だから応えた。




「君たちは時間をかけて同化していく。よって、君も私の娘だ」




「とうたま…」




 涙が溢れた。優しい瞳は私を責めてはいなかった。どこまでも慈愛に満ちて私を見守っていた。




「急に喋るようになったからね。解らない方がおかしいよ」




 兄は苦笑した。ああ、最初の頃に苦笑してたのは、私が贈り人だって気がついてたから?それでも『私』に優しくしてくれたの?




「そうねー、いろんな面白い知識もあったし、気がつかない方がおかしいわね」




 母はいつも通りニコニコして、宥めるように私を抱き上げ膝に乗っけて抱きしめた。




「お嬢様の頑張りはこのマーサ、ようく存じてございます」




 マーサの瞳も穏やかで『私』を認めてくれている。


 アークはあまり本来のロザリアと関わってないせいか挙動が不審。


 トムじいさんとダンもマーニャも頷いている。なんとなく解ってたってことかな?






「さあ、心優しき贈り人よ。君の名前は?」




 父が再度問いかけた。今度は迷いなく答えることができた。偽りはないと、きちんと父の瞳を見て言った。




「凛。ファミリーネームはもう要らない。わたしはここで生きるから、ただの凛でいい」




「リン。いい名前だ」




 父はバースデープレートに私の名前を書いた。


 そして、もう一枚バースデープレートを出した。




「片方だけが名前を呼ばれるのは不公平だろう?二人の名前を足して『ロザリンド』はどうだ?」




 いたずらっぽくウインクする父。もう限界だった。




「ふっ…うっ」




 さっきから、涙は零れていたけど、もうだめだ。




「うわぁぁぁぁぁん!!」




 私は大号泣した。前世でここまで泣いたことは多分ない。余命告知された時も、ここまで泣けなかった。やっぱり、と諦めていたから。




 ここに居ていい、私を認めてくれる家族がいる幸せ。前世にも無かったもの。




 表情は大して変わらないけど泣いている私にオロオロする父。


 ニコニコと変わらず私を宥める母。


 苦笑する兄。


 優しい眼差しのマーサ、アーク、トムじいさんとダンにマーニャ。




 泣き疲れて、私は眠ってしまった。

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