第14話 モフモフと変身と王子様
身体はふかふかモフモフに包まれていた。大きなナニカが私の首筋をぐりぐりしてくる。
「くすぐったい…」
犬?猫?解らないけど手を伸ばしてもふもふマッサージをする。
ゴロゴロと喉を鳴らす…でかい猫?かな…犬は喉がゴロゴロ鳴らない。
ここか?ここが気持ちいいの?もふもふを力の限り堪能する。
『…人前でマッサージもどきはやめよと言ったであろう』
どことなくうっとりしたバリトンのセクシーボイスで一気に意識が覚醒した。
私、聖獣様を押し倒すみたいな姿勢でもふりまくってたようです。わざとじゃありません。寝ぼけてました。
でも、ごちそうさまでした。素晴らしいもふ心地でした。
「うにゃ!?」
視界が急激に反転した。
『仕返しだ』
「あはは、くすぐったい!」
首筋をスリスリされる。お腹を軽く片足で抑えてるだけなのに、動けません。うおお、くすぐったい!!
助けを求めて視線をやれば…
顎外れるんじゃない?と思うぐらい大口をあけたアーク。
ハンカチギリギリしそうな表情の父。や、やきもちですか?魔力が漏れてます。しまってください。
なんか口をおさえてプルプルしてる王様。…何が面白いの?付き合い短いから解りません。
そうこうしているうちに、大変な事態が起きました。
「おちっこ…」
お腹踏まれてるし、謁見の間に来る前お茶飲んだからトイレに行きたい。
高性能なお耳は私の呟きを拾ったらしく、素早く飛びのくと聖獣様が…あれ?聖獣様のお顔が人間になって…あれれ?
私は気がついたらトイレに投げ込まれました。結構ギリギリだったんでとりあえずトイレを済ませて手を洗います。この世界、魔法による上下水道完備なんでトイレやお風呂は不自由しません。
『終わったか』
お耳がピコピコしているイケメンがトイレの前で出待ちしてました。
耳と尻尾は変わらない。身長は父ぐらいでかい。190あるかな?フサフサな黄金色のたてがみ?髪の毛?も一緒。猫っぽい黄金色の瞳も同じ。 聖獣様、イケメンだなぁ…あ、ゲーム終盤イケメンになってたわ。目の前で急に変わったから動揺したわ。うむ、納得。
「あい。おまたてちまちた」
『うむ』
頷くと、聖獣様は私を乗っけた。肩車だー。高い!
「きゃー」
普段と違う視点にはしゃぐ私。死ぬ前もこんな目線になったことないよ!得意げな聖獣様。
ピコピコ揺れるお耳の誘惑に勝てずナデナデしていると聖獣様が話しかけてきた。
『普通獣人は忌避されるが、リンは平気のようだな』
「あい。むちろだいすきです。せいじゅうたま、かっこいいです。おトイレつれてきてくれてありがとうございます」
『うむ』
満足げな聖獣様。私の膀胱の救世主である。さすがにこの年齢…ロザリアは3歳だけどまあ、私は成人過ぎてるし。おもらしはさすがに避けたい。聖獣様に感謝です。色々助けてもらってるから今度お礼しなきゃなぁ…
そうこうしているうちに、謁見の間に到着した。
「ロザリア、大丈夫か」
「おトイレいってきまちた」
「「え」」
ハモるアークと王様。父は頷くのみ。
「しかし、聖獣殿が人化するのは珍しいな」
マイペースな父は聖獣様に話しかける。
『この手でないとドアが開かぬからな』
「なるほど」
あれ?父、聖獣様と会話してますよ?
父って王族?違うよね?
「私の母が王家の血筋だ。あまり知られてないが、王は従兄弟だ。私も一応聖獣殿から加護を受けている。だから話せる。ロザリアは精霊眼持ちのようだな」
「え…」
私の疑問に的確に答えた父。心を読んだのか、表情に出てたのか…すごいね、父。しかし、知らなかった。そんな設定あったんですね。
聖獣様はさっさと獣姿に戻った。はう、もふもふ
「お前、そこで何をしている!」
謁見の間に鋭い声が響いた。そこには気の強そうな、私と同じくらいの幼児がいた。
「せいじゅうたまをもふもふちてます」
とりあえず返事をしたものの、お気に召さなかったらしく私を睨みつけている。見たことあるな、誰だっけ?
「アルディン、やめなさい」
王様の一言で思い出した。
アルディン=クリスティア。この国…クリスティア王国の第2王子で王太子である。メイン攻略対象であり、ワガママ俺様枠。悪役令嬢ロザリアの婚約者でもある。今は違うけど。
ちなみにあだ名は『バカ殿』あらゆる意味でバカである。王太子なのも母親の身分が高いから。優秀な兄へのコンプレックスが強く、中身は豆腐メンタル。それゆえに選択肢はおだて一択。しかし、あの選択肢は明らかにバカ殿を更におバカにしていたような…
「おい」
考えに没頭していたら、いつの間にか近くまでバカ殿が来ていた。
パシンと軽い音と共に左頬が痛んだ。聖獣様と父が何かしようとしたが目線で抑える。
「無礼だろう。ひざまずけ」
「…へいか?おゆるちをくだたいますか?」
「許す」
よっしゃ、保護者の許可ゲット!乙女の顔をなんと心得る!
王様が何かを諦めた表情なのは気にしません!!
「何を…」
言い終わる前にひっぱたいた。かっこつかないし、幻惑で16歳の悪役令嬢ロザリア姿に変わる。たどたどしい今のしゃべりじゃ伝えにくいしね。
「どちらが無礼なのですか。臣下が膝をつくのは王にです。たとえ血族であろうと、膝をつくに値しない者に私は屈しません。また、女の子に手をあげるなどゴミクズ以下です。貴方のどこに、私が膝をつく価値があるというのですか」
バカ殿涙目。ちょっとだいぶ言い過ぎたかなー。通じたかなー。これ直訳すると『貴様に血筋以外価値なんぞないんじゃ、女の子殴るやつはゴミクズ以下じゃぁ!』だしねぇ。
ちょっとフォローしとくかな。
「貴方は叩かれたことがありまして?」
「あ、あるわけがないだろう!」
「痛かったですか?」
「当たり前だ!」
「私も痛かったです」
「…それは」
「私は、王と貴族は民あってのものと思っております。身分があるからこそ、恥じぬ行いをすべきです。先程のアルディン殿下の行動に、恥じる部分はありまして?」
「…ある。すまなかった。聖獣に触れないから、八つ当たりをした。…ごめん」
あれ?素直だな。まだ3歳だしゲームほどひねてないのかも。もういいかな、反省したみたいだしね。私は魔法を解いた。
「わたしもたたいてごめんね」
初級回復魔法で癒してやる。自分もついでに治す。
「いたいこと、やなこと、いつかみんなじぶんにかえってきます。きをつけてね」
王子は俯いて頷いた。分かってくれたかな?
「アル!すいません、行くよ」
第2王子は第1王子が回収していった。大人しい弟に首を傾げながらもさっさと出ていった。
「その、すまなかった」
冷や汗ダラダラの王様に謝罪された。背後の父ビームが人を殺せそうな域にさしかかっている。聖獣様も殺気を放ってないか。さっきからピリピリするんですが。アークが関係ないのに涙目なんですが。
子供のしたことだから大目にみようよ。私は大して気にしてないよ。
「…アルディンたまのみのあんぜんのためにも、てをあげるのはやめたほうがいいかと」
「…よく話しておく」
背後の保護者枠により、真剣に因果応報になりそうだ。身の安全のためにも、むやみやたらにけんかは売らない方がいいと思います。
私は父に抱っこされて謁見の間を後にした。呪詛を使いかねない父をアークと2人がかりで宥めるのはかなり大変でした。
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