第13話 本当の『私』と私の精霊さんたちが無駄にチートな件について
柔らかな光の中、誰かが私を呼んでいた。
私は森の中にいた。すぐ側に綺麗な泉がある。あれ?さっきまで謁見の間にいたんだけど…
『ふむ、それが汝のもうひとつの姿か、贈り人よ』
「…贈り人?」
声が違う。髪が黒い。手足が伸びている。慌てて泉に姿を映すと『私』がいた。私は無くしたはずの『私』の姿になっていた。
美しくはない平凡な顔。顔色は悪くやせ細り、腰まである長い髪。
「なんで?」
『ここは夢の中だからな』
「夢?」
『うむ。ここは汝の夢だ。だから魂の姿になっている』
「贈り人って?」
『たまに居るのだ。神の気まぐれで他の世界から我らに贈られる。総じて精霊に愛される人間が。汝の魂は、精霊を魅了する』
「みりょー、ですか」
ロザリアならともかく、こんな貧相な私に?
『外見は関係ない。汝らは我らに力を求めず、共にあることを望むだろう?友として、よき隣人として。それが我らには心地好い』
「はあ」
よくわからないけど、そうゆうもの?
『して、汝の名はなんと言う?』
名前。もう無くした気持ちでいた、もう誰も呼んでくれないはずの『私』の名前。
「りん。渡瀬凛」
『リンか。良い名だ』
「リン?」
「りン」
スイとハルも現れた。私の名前を呼んでくれる。小さな手で抱きしめ、何度も私を呼んでくれた。とても満たされた気分だった。
『ところで、リンは闇の精霊の匂いがするが、加護を受けていないようだが?』
かいつまんで今までの経緯を説明した。バッシバシ地面を叩く聖獣様。聖獣様、アークみたいに痙攣するまで笑わなくても…他人の不幸は蜜の味ですか?威厳台なしですよ?
「まあ、闇さんの加護を拒否してるのは闇さんがウザいのもありますが、私回復とか解呪を覚えたいので魔力を闇に傾け過ぎたくないんですよね。やっぱり、強すぎる精霊に魔力って引きずられますよね?」
『うむ。アレの加護を受ければ確実に汝の魔力は闇となるな』
特に今は私の魔力が不安定だそうで、もっと魔力が安定するまで加護は受けないほうがいいだろうとの事でした。闇の精霊、当面放置プレイが今ここで決定しました。
「とはいえ、私にできるかはちょっと解りませんが…」
「いや?出来るぜ?」
「え?」
ハルはポリポリ頭を掻きながら言った。
「リンは俺の加護持てたから、全属性だよ」
「は?」
「なんなら、俺が教えてやるよ。風がメインだけど全属性使えるから」
「お願いします」
とりあえず脊髄反射で返答した。確かにハルはゲームの風の精霊とはちょっと違うなーとは思ってた。なんか虹色っぽいし。ゲームの風の精霊は緑と水色が基調だったんだよね。
「俺、異端なんだよ」
よく解らないけど、ハルの表情から良くない言葉なのは解った。
「よく解らないけど、ハルはハルだよ。ちょこっとぐらい変わってても、別にいいじゃない。それに複合魔法は難度高いし使えるひとも限られるから助かるな。私と出会って、加護をくれてありがとう」
へらりと笑うと、ハルは泣き出した。
「えええええ!?」
焦る私。今のどこに泣く要素があった?
「うわぁぁぁぁぁん!!」
大号泣なハル。ちょっと!スイも聖獣様も微笑ましいなー的表情してないで慰めて!!ヘルプ!!
結局、ハルは力尽きるまで泣きました。何がトリガーだったのかは不明。悪いこと言ったつもりはないけど、謝るべきかな?
ハルをお膝に乗っけて撫でつつスイを見た。
「ところで、スイ」
「なあニ?」
「スイって結構高位の精霊だよね」
「どうしテ?」
「いや、もっさり鈴蘭とかサボテン君達とか低から中でも無理かなと」
ふわりとスイの姿が変わった。中学生ぐらいの少年。サイズも普通の人間サイズになっている。
「これが本来の姿だよ」
「おお、美少年。あれ?発音普通だね」
「無理矢理幼い姿してるから、おかしくなるんだよ」
スイは困ったように笑った。
「騙しててごめん」
「何が?姿ならわざとじゃないけど私もでしょ。短い付き合いだってスイが理由なく姿を偽るとは思わないし、気にしてないよ」
「うん」
こてん、と私の肩に頭をのっけるスイ。スイは高位だから引く手数多過ぎて人間が嫌になったんだって。たまたま私にイタズラして、怒るどころか気遣ってお礼まで言った私に興味が出て加護くれたらしい。
あの大量鈴蘭はイタズラだったのか…と私は遠い目になった。ま、まあ結果オーライです。
まぶたがまた重たくなってきた。最後にひとつだけ聞きたい。今、ここでしか聞けないこと。
「どうして贈り人はこの世界へ来るのですか」
『お前が願ったからだ。その願いこそがお前の運命だ』
私は何を願っただろう。死ぬ瞬間、何を思っただろう。
まぶたが閉じる。もう夢の時間は終わりだ。本能的に理解した。
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