第10話 精霊とお祝いと大人げない大人たち
とりあえず、父が落ち着いてからお昼ご飯を食べました。ダンのご飯もおいしいけど、お城のご飯もおいしかったです。先程の騒ぎのせいで、皆こちらを遠巻きに眺めています。
さっさと父の執務室に戻りました。それぞれ席につくと、父が私に話しかけてきました。
「ロザリア、さっきの伝声の魔法はお前か」
「あい」
「お嬢様…本当に規格外ですよね」
「そんなことはありません。ハルのおてつだいのおかげです」
「ハル?」
「あいよー」
柔らかい風と共に、パールのようなきらめき。銀と虹を溶かしたような不思議な色合いの手の平サイズの少年、ハルが私の側にあらわれた。はーい、といわんばかりに片手を上げるポーズをしている。
「おお?風の精霊様か?」
「おうよ」
なんとなく、アークとハルは気が合いそうな気がする。ノリが似ている。
「いやー、お嬢様。やっぱり規格外だって。普通この年で加護持ちとか有り得ねぇ」
「え」
私、他にもスイが居ますが。トムじいさんと兄にも言われましたが、規格外ですか。そうですか。
「…いつからだ?」
あ、ハルに加護もらったのがですかね?
「さっきです」
「「は?」」
見事なハモりを見せた主従。息ピッタリですな。
「だから、さっきです。でんせいのまほうのおてつだいちたときになまえちょうだいっていわれてあげまちた」
「「…え」」
固まる主従。本当に息ピッタリですな。
「あ、えと、今日はお祝いだな!お嬢様の初加護持ち祝い!」
先に復活したアークが言った。しかし私の発言でアークは再び硬直した。
「はじめてのせいれいは、スイですよ?すずらんたくさんくれまちた」
「そういえば、屋敷中にやたら鈴蘭が飾られていたが…あの日は食事が豪華だったな」
「にいたまもかごもらいまちたから」
「「は!?」」
父よ、なんでそんな絶望したような表情ですか?
アークもお顔が引き攣ってるよ??
「…あんのクソ姉えぇ!」
アーク、ご乱心。姉?…マーサ??
「どうせ早く帰れねぇからってわざと報告しなかったな!的確な嫌がらせしやがってぇぇ!」
犯人はマーサ!普通加護を貰った場合、家族でその日に盛大にお祝いするんだって。
家族なのに知らないとか普通有り得ないんだって。
やたら食事が豪華だったり、鈴蘭だらけな屋敷のことを尋ねもしない殿方達が悪いのですわとすまして返事するマーサが目に浮かぶよ…
「アーク」
「了解しました!姉には伝えずお祝いの準備します!坊ちゃんの分も!!」
アークは文字通り飛んでいきました。風の加護持ち?名前だけでそこまで読み取れるって従者ってスゴイ。
それにしても、大人げないよね。この2人。
「…仕事を片付ける。本気を出す。ロザリア、補佐は頼んだ」
「あい!」
とにかく早く帰れなきゃ、お祝い出来ないもんね!私も本気を出しますよ!!私はスイも呼び出した。
「手伝ウ?」
「手伝うぜ!」
「おねがいちます!」
彼らには各部署へ書類の運搬をお願いした。スイはどうするのかと思いきや、砂漠名物走るサボテンを多量に召喚。サボテン達に書類(封筒入りなのでトゲはささらない)をくくりつけ、送り出していた。
念のため、宰相からの運搬係です。危ないのでおさわり厳禁との貼紙もトゲに刺したが、衝突事故と騒動が起きないことを祈った。
「シュールだな…」
走るサボテン達を眺めてつぶやくハル。私もそう思う。
ハルは風魔法で書類を浮かせ、執務室から遠い部屋に書類を送っていた。
2時間後、アークが帰ってきた。
「ただい…なんじゃこりゃぁぁ!」
「「おかえり」」
優雅にティータイムする私達。サボテンさん達は休憩のため部屋のサイドで立っている。彼ら的には楽な姿勢なんだそうな。
「仕事は?」
「…驚くべきことに終了した」
「えええぇぇ!?」
「ほんきだちまちた。わたしもとうたまも」
ついでに空いた時間で資料整理もしたよ!スイとハルの手伝いもあって(高い所をとってもらったり)とてもスムーズでした。
「アーク、ロザリアに一から教わったらどうだ」
「もう、お嬢様のスペック高すぎる…いや俺が…俺が無能なのか…」
アークは部屋の隅でサボテンをいじりだした。アーク、そのサボテンはたまにトゲを飛ばすので危険…遅かった模様。
別にアークは無能じゃないし、あの仕事量で業務改善は無理だよ。2時間でうちから往復して私達のお祝いの段取りをマーサ抜きで組んできた手腕はむしろ見事だよ。
休憩とらないよりとって集中の方が効率いいし、父の本気 が凄かったんだよとアークを慰めた。
ついでにファイリングの仕方も教えました。
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