第9話 もふもふと氷の大魔神

 お昼ごはんの時間になりました。




「まともに食事に行ける日が来るとは…」




「ありがとうございます、お嬢様。このご恩は忘れないのでぜひまたお手伝いしてください」




「あい。とうたま、にいたまにもおてつだい、おねがいちよう。にいたま、さんすうとくいだよ。えいさいきょういくだよ」




「…そうだな」




 朝は脊髄反射で父と仕事を即決したけど、今日のことを聞いたら兄が拗ねる。兄も父大好きだからね!


 それにしても普段まともに昼食べてないって…そうですか。片手でつまめるものをかきこんでましたか。朝もほぼ食べてなかったんですか。


 父の食事事情を聞いて悲しくなりました。何も知らずごはんもりもり食べててなんかごめんなさい。




 さて、父とアークに連れられてお城の食堂に向かいます。流石はお城。壁の彫刻やらちょっとした調度品が高級そう…と思ったら。




「ここ、どこ?」




 あっという間に迷子になりました。


 いやもう完全に油断してました。大人の男性、歩くの速い!






 どうしよう。






 固まる私の視界に、黄金の尻尾がゆらゆらと揺れています。何も考えず、ふらふらと尻尾に吸い寄せられる私。




 お城のお庭に黄金色の素晴らしい毛並みの獅子がお昼寝していました。


 あ、ゲームで見たことあるわ。聖獣様だ。聖獣様とは光の最も高位の精霊様である。誰にでも見えるが、その声は精霊眼持ちか加護持ちにしか聞こえないらしい。




「こんにちはー」




 聖獣様はチラリと私を見たが、返事はない。触ろうとしたが威嚇された。




「いやならさわりませんが、ちょっとだけでもナデナデさせてほちいです」




『何故』




「けなみがすばらちいからです」




 聖獣様はガハハと豪快に笑うと毛並みを撫でるのを許してくれた。


 やっふー、もっふもふー!!


 遠慮なく撫でる私。ここぞとばかりにもふもふを堪能しまくる私。素晴らしい毛並みである。獣臭くはなく、むしろお日様に干したてのおふとんみたいな匂い。




 ふっふっふ。聖獣様といえども、私のゴールデンフィンガーにかかれば…喉をゴロゴロいわせてやんよ!




 喉をゴロゴロいう聖獣様。もはやウットリとお腹を出し、無防備になっている。私のゴールデンフィンガーはお気に召したらしい。




『ところで、そなたは何故ここに。見かけぬ顔だが…宰相の匂いがするな。あと、闇と緑の精霊の匂いも』




「しまったぁぁ!」




 急に叫んだ私に驚いたのか聖獣様の耳がピッと立った。




「わたし、まいごでちた」




 残念なものを見る目をしないでください。確かに残念です。で、でもほら!一応3歳児だから!迷子にもなるんですよと脳内で自己弁護しときました。


 親切な聖獣様は匂いで父を探してくれると言いました。ありがとう、聖獣様。




『まずいな』




「なにがですか?」




『宰相の匂いが出たり消えたりしまくっている』




 おうふ、つまり父は転移を駆使しまくり私を探しており、逆に場所が特定できないと。




「ちかたないので、アーク…ちちのじじゅうのとこにつれてってくだたい」




『…そっちは動いてないな。よかろう』




 私の歩みが遅いため、聖獣様が背中に乗せてくれました!もふもふー。幸せー!




『…今はマッサージもどきは止めろ』




 ゴールデンフィンガー封印を指示されました。残念。確かにこんな威厳溢れる聖獣様が喉ゴロゴロしてたらダメだよね!




 昼時で混み合う食堂で人が割れていく。モーゼみたいだわ。聖獣様のおかげで無事アークと再会した。




 しかし、聖獣様にビビり近づけないアーク。仕方なく聖獣様からおりるとお礼を言った。聖なる獣様はうむ、と頷くと食堂から出ていった




「無事でよかった!つーか本当に何してたんですかお嬢様!なんで聖獣様といたんすか!!」




「まいごになってまちた。わたし3歳だからあるくのおそいです。おいていかれまちた。せいじゅうさまはここまでつれてきてくれまちた」




 やたらテンション高いアークに冷静に返した私。アークも冷静になった模様。




「…すいませんでした。なんかお嬢様3歳だって忘れてました。こっちはこっちで大変だったんですよ!…うっかり氷の大魔神が降臨しちゃって食堂大騒ぎだったんですよ!!」




 ち、父ー!!




 私がいないことに気がついた父が動揺しまくり魔力制御が甘くなり、食堂で吹雪を発生させたあげく、今転移しまくっているために城中が氷の大魔神降臨で大混乱なう!


わ、私がちょこっともふもふ堪能してる間に大変なことに!!




 とりあえず、古典的だけど叫んでみた。食堂から窓に向かって叫ぶ。




「とーたまぁぁ!!」




「ダメっすね。周囲の悲鳴で聞こえてない」




 あああ、こんな時風の精霊が居れば…さすがに城中に響かせるまたはピンポイントでとか、無理!




 しかし無駄でもやらないよりはと魔力を集中させると、右手に暖かいものがふれた。




「手伝ってやろーか?」




「ぜひ、おねがいちます!」




「名前、ちょうだい」




「では、ハルで!」




 パールみたいな柔らかい光をもつ風の精霊さん。活発な少年みたいでした。スイは羽がトンボみたいだったけど、ハルは蝶みたいです。




 ハルの助けで、父と無事に再会出来ました。父はちょっと泣いてました。心配かけてごめんなさい、父。 目が血走ってて私もちょっと…だいぶ怖ぇぇ!と思ったのは内緒です。

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