第8話 城へ行こう

 あれから1ヶ月が経ちました。私が毎日コツコツと頑張った結果、家族との仲はかなり良好だと思います。母の体調も良好。なんと庭まで行けるようになり、血色もよくなりました。


 まだ行けるだけで、帰りは力尽きるけどね!帰りはマーニャが担いでます。




 そしてある朝、もはや習慣となったお見送りで父が言いました。




「一緒に行くか?」




「あい?」




 父よ、割愛し過ぎですよ?首を傾げた私に父はきちんと説明した。




「…私の仕事場に、来てみるか?」




「あい!」




 ここにきて初めてのお出かけである。私は当然即答した。無表情な父もどことなく嬉しそうに見える。




 父は私を軽々と抱き上げ、一緒に馬車に乗り込んだ。最初は父の隣に居たが、窓の外が見えにくく、結局父の膝から外を見ることになった。




「はわー」




 初めての外。やはりファンタジーな煉瓦づくりの町並み。


 あ、獣人発見。もふりたいなぁ。


 まだ早朝だからほとんどのお店は閉まっている。昼間の風景も見てみたいなー。




 飽きずに外を眺めていると、お城が見えてきた。父はお城勤めで、現在は確か宰相様である。ゲームでも氷の宰相とか言われて冷凍ビームを放ちまくっていた。


 実際は無口無表情で表情のかわりに眉間にしわがでるから誤解されまくる、不器用で可愛い人なんだけどね。うちの父は照れ屋で可愛いんですよ!




 父は私に椅子を用意して座らせ、机に山積みになった書類にとりかかった。




「…とうたま」




「なんだ」




「これ、いちにちでぜんぶおわるの?」




「…終わらないから朝早く来て遅くに帰っている」




 おうふ、とんだブラック企業である。父は私が退屈しないようにお気に入りのシリーズ絵本やら子供向け小説を用意してくれていました。あ、これ読みたかったやつ。こんなに忙しいのに私のために…




 私は決意しました。




 父の労働環境の改善をします。そして父がきちんと休めるようになったら休みは家族でお出かけするのです。




 さて、とりあえず私に何が出来るか観察です。




「…アーク、これは提出し直し。不備が多い」




「はい」




「やり直し」




「はい」




「やり直し」




 やたらやり直し、多くね?アークに書類を見せてもらうようねだった。あっさり見せるアーク。いいのか、宰相の従者。私は身内とはいえ部外者だよ。


 ついでにどこが不備なのか教えてくれる。いわゆる陳情書という奴に不備が多い。しかもそれぞれ名前やら内容の書き方が統一されておらずチェックしにくい。




「とういつしたしょしきをつかって、ふびがあるのはうけつけなくすればいいのかな?」




 ぽつりと呟く私にアークが反応した。




「統一した書式?」




「あい。あらかじめかくらんをうめていくかたちにすればふびはへるかなって。みやすいからチェックもしやすいし」




「お嬢様の分の紙とペン持ってくる!お嬢様、書式の案書いて!」




「え」




 3歳児働かせるなよ…やるけどさ。やるけどな!やってやんよ!!


 丁寧にをこころがけて、陳情書の書式と、ついでに予算案の書式も作ってみた。うむうむ、いい感じと見直して自画自賛。




「あーく、できたよ」




「うぉぉ、お嬢様天才!見ろよ宰相様!お前の娘マジ天才だぞ!!」




「…うちの娘は天使だ。天才?何の話だ」




 父は私とアークのやり取りに一切気がつかず仕事に集中してた模様。さすがマイペースな父。


 つーか私が天使って何。私は人間ですよ。


 アークが最初から父に説明する。書式案に目を通す父。




「これを大量に印刷。各部署に通達と配布。今後この書式以外での書類は全て却下」




 父、即決!!


 え、会議とかしないの?案が決定されちゃったの?いいの?原案そのままよ??




「うちの娘は天使であり、天才だったか。癒しを求めて娘を連れてきたが…思わぬ成果だな。偉いぞ、ロザリア」




 疲れてたんだね、父。私癒し要員としても頑張るよ!辛かったんだね、父!




「とうたまもいいこ。おちごとがんばっておりこうたんなの」




 頭をナデナデすると、何かを噛み締めてプルプルする父。相変わらず照れ屋です。




「とうたま、ロザリアはおてつだいがちたいの」




 父の仕事量削減のために!




「ロザリアがおてつだいちて、はやくおわったらみんなでゆうごはんたべたいの」




「わかった」




 父は私に書類の仕分けを任せた。床に書類を並べ、似た内容を重ねて概要を書いておく。


 計算に不備がある場合、どこに不備があるかを記載。そろばん欲しい。脳内そろばん(つまり暗算)で頑張ったよ!




 半分ほど仕分け、父の机に持っていくと素早く書類をさばく父。出来る男ですね!




「アーク、見習え。ロザリアの仕分けはやりやすい。むしろロザリアに習え」




「ええぇ…すいませんお嬢様、教えてください」


 ちょ!父!3歳に教われってどうなの?


 いや、アーク!アンタもあっさり承諾したな!私に頭なんか下げなくていいよ!…教える!教えるから!




 あんなに大量だった書類があらかた片付いた。




「やべぇ、うちのお嬢様はマジ天使かもしれない…」




「奇跡を起こす天使か」




 そこの疲れた男性2人、やめなさい。


 やめて、拝むなアーク。


 むしろやめてください土下座でもなんでもしますから。


 遠い目しない。お疲れ様です。




「…すいません、書類をお持ちしました」




 なんか小動物みたいにプルプル怯えた細身の…文官さん?が来た。




「そこに置け。アーク」




「持ってってもらう分用意するんでちっと待ってな」「はははいぃ」




 めっちゃビビってる文官さん。父?父が怖いの??確かにうちの父たまに冷凍ビーム出すけど怖くないよ?


 実はビーム出してる時は大体考え事してるだけなんだよ。


 たまにイライラしてると魔力漏れだして気温下げるから怖いの?うん。イライラした父は私もちと怖い。




しかし、書類多くね?




 父が怖い⇒父の執務室に行きたくない⇒期限ぎりぎりで書類を出す。しかも行きたくないから皆まとめて気弱な下っ端に押し付ける…という図式が閃いた。




 試しに書類の期限を確認。


 やはり期限ぎりぎりがほとんどだ。多分父もアークも解ってるけど、目の前のをさばくので手一杯で手が回らなかったんだろうなー。






「とうたま、ぎゅー」




 とりあえず、父のイメージを変えてみることにした。




 見よ、このデレデレとした父を!




 あ、怯えた文官さんが固まった。


 アーク、笑いたきゃ笑え。




「娘さん、かか可愛いですね」




「我が家の天使だからな。嫁にはやらんぞ」




 ちょっと、父!いや死亡フラグ回避計画としては順調だけど、3歳児が嫁に欲しい奴はおらん!文官さん明らかに困惑してるじゃない!


 アーク!お前その握り潰したの渡す書類だろ!?もう我慢しないで笑いなよ!そこの処理済み書類の山崩すなよ?




「いえ、僕…結婚してますし。いい娘さんですねと…」




 あ、既婚でしたか。父はそれを聞くと大喜びで娘自慢を始めた。




 やめてぇぇ、私がいる前で私を褒めるとかどんな羞恥プレイですか!!


 アーク!いい加減助けてくださ…おま!息できないほど笑うんじゃありません!!




 結局不幸な文官さんは父の娘自慢に付き合わされたが、帰りに怯えはなくなり普通に挨拶して去って行った。




 私が神経擦り減らしまくったものの、結果オーライ…かな?

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