第11話答え

「何言って……」




胡桃沢は顔を赤くして分かりやすく動揺していた。


告白に近い感じになってしまったのを後から気づき、俺も若干顔が熱くなった。




「……でも、こういう世界って厳しいんでしょ? わざわざ飛び込まなくても」




俺の説得を聞いて、胡桃沢の親は揺らぎ始めた。


しかし、まだ娘が厳しい世界に飛び込むのに、納得はいってないらしい。




「誰にでも挑戦する権利はありますよ。失敗してもいいじゃないですか」


「今はそんなこと言えるけどね。失敗した後に後悔したって遅いんだよ」




たしかに失敗したら、後悔するだろう。


あの時ああすればよかったとか、いろいろあるだろうし。


胡桃沢の親の言っていることは分かる、だから慎重に言葉を選ばなければいけない。


考えていると、赤いままで固まっていた胡桃沢が話し出した。




「……私は別に後悔したっていいよ」




親は胡桃沢の方に向き直ると、うってかわって宥める様に話す。




「お願い。あなたが後悔するとこ見るのは辛いのよ」


「今諦めたら今後悔するよ。迷惑はかけないから。お願いします」




胡桃沢が頭を下げたのを見て、もう説得は無理だと悟ったのだろう。


ため息を吐くと、頭を上げるよう胡桃沢に言った。




「分かった。好きにして」


「……ありがと」




どうやら円満に話し合いは終わったらしい。


しかし、黙って見ていた先生はここからだという雰囲気を醸し出す。


胡桃沢たちが退出したのを見て、俺も出ようとしたのを止められた。




「待て。親子間の話し合いは解決したが、本来お前を呼び出したのはそっちじゃない」


「えーどっちなんですか」


「しらばっくれるな。同居の件だ」




*****




「失礼しました」




先生に呼び止められて、2時間ほどの説教を受けた。


ちなみに俺は停学になるらしい。




「なんて顔しているのよ」




応接室の外に出ると壁にもたれて、胡桃沢が待っていた。


呆けた顔で出てきた俺が面白かったのか、俺の顔を見るや微笑した。




「怒られちゃった。それで俺停学らしい」


「あらそうなの。私もよ」


「やっぱり?」




俺だけ罰が降るのかと思ったが、一応平等に与えられるので安心した。




「……ねえ」


「なに?」


「さっきはありがと」




微笑みながら感謝を伝えてくる胡桃沢に、少しドキッとした。


そのせいで反応が遅れて、胡桃沢にからかわれる。




「何ぼーっとしてんの、わ、私のことが好きって本当だったの?」


「違っ……くはないけど、そう言われると否定したくなるな」


「ああそう……で?」


「でってなに?」




何かを催促しているようだったが、よく分からない。


ほれほれっ、とか言われても皆目見当つきません。




「もうっ! 好きならちゃんと言えってことよ。そうすれば……まあ考えてあげても」


「あーそのことか、でも恥ずかしいな」


「早く早く。もう待てないよ」




言葉にするのは恥ずかしい。


さっきはその場の空気というか、ノリでいけたけど今は意識しているから難易度が高い。


それに本人に面と向かって言うからなおさら。


仕方ない、と俺は決心して胡桃沢に向き直る。




「じゃあ行動で示していい?」


「ん? 行動ってどんな――!!」




胡桃沢の頬を挟んで俺の方へと向けるとーーそのまま唇を合わせた。


顔を離すと胡桃沢は驚きのあまり固まっていて、まだ状況が理解できていない様子だ。


数秒立った後、ボッという音が出ていそうなほど瞬間的に顔が真っ赤になっていた。




「りょ、亮くん……え?」


「だめだったか? 無理ならビンタしてくれ」




一か八かの勝負だったので、嫌われたしてもそれはしょうがない。


目を瞑り、ビンタ待ちをしてみたが、来る気配がない。


ていうか何も言わないから、もしかしたらいないんじゃないかと思い、目を開ける。


すると、まだ胡桃沢は目の前にいて、手で顔を隠して左目だけが見える状態で俺を見て言った。




「別にいいわよ……これからよろしくね」




俺に初めての彼女ができた。


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