第10話愛の告白?
今朝、胡桃沢と約束はしたものの、すぐに始めるというわけにもいかず、学校でどうするか考えていた。
まずは俺が曲を作ってそれを聞いてもらい、納得したら歌ってもらう。
それで行くとしても、胡桃沢と俺自身がどれくらいで納得できるのかが問題だ。
ああでもないこうでもないとずるずると長引くのは、一番あってはならないことだと思う。
それにしても放課後が待ち遠しいな。
最後に投稿してから随分たつから、自分の実力を再確認したい。
「遅いなあ……」
胡桃沢は朝学校につくとすぐに、先生に呼び出されて職員室に行っていた。
一人で考えるのも飽きて、俺は席で胡桃沢が戻ってくるのを待つことしかすることがなかった。
ぼーっとしていると、生徒の呼び出しの放送がかかる。
今日は多い日だなと他人事のように考えていたら、呼び出されたのは俺だった。
まじか、なにかやらかしたか。と思い記憶を探るも何も思い当たるものはなかった。
とりあえず席を立ち、職員室に向かう。
「亮、なんかやらかした?」
「いやなにも」
教室を出ようとしたら、ほかの友達と話していた智也が話しかけてきた。
「本当かー? 昨日話していたことじゃないだろうな?」
「まさか、ばれるようなことはしてないが」
家への出入りも一応は注意してたからばれる要素はない。多分。
……ちょっと不安になってきた。
俺は若干の不安を残しつつも、教室を出て職員室に行く。
皆の登校時間と重なっていたため、廊下には人がまばらにいた。
職員室につくと、ノックして扉を開けた。
「失礼します」
要件を述べると、担任の先生がこっちだと手を振っている。
怒っているというよりかは、困惑しているという表現が合う、そんな顔だった。
担任の表情に少し緊張が走る。
近くにまで来ると、胡桃沢と知らない女の人が立っていた。
「呼ばれた理由……分かるか?」
「い、いえまったく」
「そうか……」
胡桃沢はが俯き、女の人は俺を睨みつけてくる状況でなんとなく分かっていたが、答えるのを躊躇って担任の説明を待った。
「まあいい。ここじゃ離せないし、ちょっと場所を移そう」
そういうと椅子から立ち上がり、応接室まで案内された。
担任は女の人と胡桃沢を近くに座らせ、俺は少し遠くの席に座らせられた。
「お前、胡桃沢と一緒に暮らしているのか?」
やっぱり。座るや否やいきなりぶっこんできた話は、俺と胡桃沢の同居の話だった。
どう答えたものかな。事実は事実だけど正直に答えていいものか。
「……そうです。でも、私からお願いしたので……」
黙っていると、胡桃沢が代わりに答えてくれた。
胡桃沢が答えると隣の女性は、驚き怒ったような顔になった。
「馬鹿娘が! 家出したと思ったら、男誘惑して生活するなんてどういうつもり!?」
「……ごめんなさい」
「そんな誘惑なんてされてない――」
「あなたは黙って!」
おお怖い。
胡桃沢のお母さんらしき人は想像以上に怖かった。
しかも、俺の話は聞かないときた。これには俺も少しイラっと来た。
元はと言えば夢を反対したのがきっかけなのに。
「私がどれだけ心配したか知ってる? 今平然と学校に来れているけどね、最悪の事態になってたのかもしれないんだよ!?」
「……わかってるって」
「分かってるなら、家に帰ってきなさい。一人で生きていくのは無理なのよ」
「大丈夫だって……お金だって自力で稼げてるし」
「そんなの長続きしないわよ、まだ夢見ているつもり? そういうのが仕事にできるのは一握りの人だけなの。いい加減現実を見て」
なぜか俺が言われている気がした。
いつも自分に言い聞かせてきた言葉だからだ。
俺は夢を諦めるとき、諦められるようにたくさんの理由を探した。
探せばいくらでもあるから、俺はすぐに諦めることができた。
そうした方が楽だった。
「……夢見て何が悪い」
そう声を発したのは、胡桃沢ではなく俺だった。
胡桃沢は俯いていた顔を上げて、俺を見た。
「今は口を挟まな――」
「黙って!! あなたは胡桃沢の何を知っているんですか?」
俺は感情が高ぶって柄にもなく、怒声を上げる。
「は、はあ!? 私はこの子の母親なんですが。たった数日一緒にいただけのくせに生意気言わないで!」
「たった数日いただけでも分かりますよ。こんなに頑張っている人見たことない」
そうだ。胡桃沢が家出した理由もすべて、頑張っていたからだ。
それを理解されないのは悲しい。
家出して家にも連絡せずに、知らない男の家出泊まることに怒るのは親として当然。
だが、それとこれとは別。
だから胡桃沢の親にも分かってほしかった。
たった数日一緒にいただけでも心が揺さぶられる、そんな胡桃沢の魅力を。
「俺は彼女の歌が好きです。でも一度は嫉妬しました」
「俺にないものを彼女は持っているから」
俺はなるべく声を荒げないように、努めて冷静に話し出した。
「彼女の歌声を聞いたことはありますか?」
「ま、まあそれはもちろん」
それなら話は早いな。
聞いたことある人間になら、彼女の歌声はきっといいものに聞こえているはずだ。
「透き通るように心に直接届くような、感情が揺さぶられるそんな歌声でした」
「でも俺が羨ましかったのは恵まれた才能じゃありません」
胡桃沢の母親は知らない男の俺の言葉を、真摯に聞いてくれた。
誰に反対されても自分を信じて努力している、そんな彼女の姿に俺は羨ましかった」
「俺は自分のことは信じられないけど、胡桃沢にならすべてを預けてもいいくらい信用しています」
そうこれは本心だ。
恥ずかしい気持ちなんてもは存在しない。
「それくらい――俺は好きなんです」
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