第7実は作曲者でした

「それはまあ、趣味でやってただけだし」




このことについては、あまり詮索してほしくない。


早く切り上げて学校に行く準備でもしよう。




「まあ人の勝手だけど、私はもっと新作聞きたかったわ」


「そんなにいい曲かなあ、俺には分からないんだけど」




俺が作った曲はすべて数百再生しかされていない。

曲を作るのは好きではあったが、モチベーションが保てなかった。


世間からは評価されていないものを、俺はもう作る気はしなかった。




「それに私歌手になりたいって言ったでしょ? だからオリジナル曲はこの作曲者作ってもらおうと思って」


「いやそれは難しいだろ。少しの人にしか聞かれないぞ」


「別にいいじゃない。私が好きなんだから」


「俺は……もう作れないよ」




そう言って胡桃沢の手をはじくと、リビングから出て行った。


胡桃沢はファンだと言ってくれて、俺の曲が好きだと言ってくれる。


昔なら嬉しいことだと素直に喜んでいたのだが……今じゃあまりピンとこない。


俺は二階にある自分の部屋で制服に着替えると、玄関に向かう。


途中、胡桃沢は心配した様子で俺を見ていたが、俺は一瞥すると先に家を出た。




*****




いつもより早く家を出てしまったため、学校には誰もいなかった。


職員室で教室の鍵を貰って一人、教室で座っていた。


朝は暖房の付いていないからよく冷える。


そのせいでさっきまで血が上っていた頭も、冷めきって冷静になった。


さっきのことを思い出すと不思議と、嫌な感じはしなかった。


久しぶりにアカウントのことを思い出せたので、暇だった俺は聞くわけでもなく動画をスクロールしている。

本数にして十三本。それほど多くないがこれでも頑張った方。


「あれ? 今日早くね?」


「お、おう。まあな」


スマホに夢中になっていた俺は突然声をかけられて驚く。


慌ててスマホを隠し、ばれないように取り繕う。智也には作曲者とは言っていないからバレたくない。


「何隠した?」


「いや? 何も?」


「絶対隠したでしょ。なんかやましいことでもあんの?――あー!」




何か納得したかのように、朝からでかい声を上げる。


寝起きだから脳に響いて気分は最悪、そもそもうるさいからやらないで欲しい。




「なんだよ」


「さては彼女さんとメールしてたな?」


「は? 彼女なんていな……あー!」




そういえばコンビニで疑われてたな。


俺も同じようにでかい声を出してしまい、少し恥ずかしい。




「いやいないよ」


「嘘つけ、絶対いるだろ。なんで隠すんだよー」


「いや言ったって信じないだろ」


「信じるって! マジでいるの?」


「誰にも言わない?」


「うん」




こういう話題で誰にも言わないやつなんていないんだよな。


それで後で話したことを後悔するやつ。


だがまあ大丈夫か。こいつ馬鹿正直に約束は守るやつだし、話さないと誤解されたまま生活しないといけない。それはめんどくさい。




「実は彼女じゃない人と同居してる」


「え? まじ?」


「まじ」




智也は俺の言葉が想定外のものだったらしく、通信制限がきたスマホのようにフリーズした。


目の前で手を振ってみても、声をかけてもしばらくは動かなかった。




どうしたもんかな、ここまでの反応だとは思わなんだ。


何気なく肩に手を置いた瞬間、ビクンっと跳ねて目を見開いた。




「それって……えっちなやつ?」


「いや違うけど」


「じゃあR18的な?」


「エロから離れて。そういう関係じゃなくて、家出したから住まわせてるだけだよ」




上手く説明しないと、よからぬ関係として認識されそう。


俺は決して邪な目的で泊めてないし、ちょっと可哀そうだったからだ。


俺は慎重に言葉を選んで、智也に説明することにした。




「いいかよく聞いてくれ」


「あ、ああ」


「俺は放課後、隣の女子に家に泊めてくれないと頼まれたんだ。そして優しい俺は快くOKして泊めてあげた」


「なるほど」




俺の説明に軽い相槌を打ちながら、ちゃんと聞いてくれる。


こういう時に最後まで話を聞かずに、自分で結論を出されてしまってはこちらとしてもどうしようもないので、話を聞いてくれるのは素直に感謝だ。




「そこで家出した理由を聞いたんだ。親に夢を反対されたんだと」


「ほー、その夢って何なんだ?」


「ん、あー歌手が夢なんだとさ。俺ら高三っていうのに未だに夢見て現実が見えてな――」




廊下から物が落ちる音がした。


慌てて音がした方を見る――そこには胡桃沢が立っていた。


胸を押さえ俺を見る目が、軽蔑のものに変わったのを……俺の目に焼き付いた。


彼女がいた場所には、涙が散った気がした。

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