第6話二日目突入
昨日、あの後若干の気まずさからお互いに何も喋ることはなく、一日が終わった。
ベッドはまだ買っていないため、胡桃沢には俺のベッドを使って貰っている。
俺はというと一階のリビングにあるソファーで寝ていた。
目が覚めたとき、いつもと違う景色が広がって焦ったがすぐに思い出して一安心する。
ふかふかで案外寝心地も悪くない。強いていうなら、毛布を持ってくるのを忘れたから寒かった。
最近は秋が始まって寒くなってきているから、風邪をひかないように気を付けないとな。
何か暖かいものでも飲もうとソファーから起き上がると、二階から降りてくる足音が近づいてきて扉を開けた。
「おはよう」
「あら、起きてたの。おはよう」
寝ぼけまなこで目を擦りながら、朝の挨拶を交わす。
昨日のことは気にしていないっぽいので、俺も気にしないことにして胡桃沢に話しかけた。
「コーンスープ作ろうと思ってるけど、いる?」
「ええ、私もほしいと思っていたの」
「おっけ」
台所に行きコーンスープの粉を入れ、お湯を投入。
容器から伝わる温かさ、冷えていた手は徐々に体温を上げていく。
二人分のコーンスープを持って机に運ぶと、ソファーに座っていた胡桃沢に渡した。
「はいどうぞ」
「ありがとう……ふぅ」
「美味しいか?」
「ええ」
お気に召したようで何よりだ。
俺も一口飲むとふっと一息ついた。
やっぱコーンスープが1番だな。
コーヒーとか苦いし飲む気がおきない。
「今日どうする?」
「何が?」
「学校、一緒に行くか?」
「流石にそれはまずいでしょ。自分がやっていることが変なことくらい私にも分かるもの」
「そうだな」
「それともなに? 私が美人だからバレてもいいから一緒に行きたいって?」
「いやまあ」
バレたいっていうか友人にはバレてそうではあるけど。
別に同居しているからって、一緒に行く必要はないのか。
「じゃあ先に行ってくれ。俺は10分後くらいに行くから」
「分かったわ。でも私結構ギリギリまで家にいるから、遅刻しちゃうわね」
「今日から早くいきなさい」
なんか勝手なイメージでしっかりしていそうだったが、結構だらしない感じなんだな。
話している最中にコーンスープを飲み終わった胡桃沢は席を立つと、流しで容器を洗う。
「おお、偉いじゃん」
「当たり前のことよ。住まわせて貰ってるしね」
「いい心がけだ。ついでに俺のも洗ってくれ」
「……自分でやりなさい」
甘やかしてはもらえなかった。
俺は飲みかけを飲み干して、胡桃沢の隣で容器を洗う。
「一通り用意が済んだら、さっさと学校行けよ」
「めんどくさいわね。今日休もうかしら」
「だめだ。家に置いておくことはできん」
「……はあ。じゃあ音楽かけていい? 気分上げてから学校に行くわ」
「大丈夫だ」
胡桃沢は自分のスマホを取り出すと、音楽をかけだした。
その曲のイントロは聞いたことのあって、なぜか恥ずかしいむず痒い気持ちになった。
なんでだろうと思って、胡桃沢のスマホを覗き込む。
「何よ?」
「いや……作曲者って誰かなって思って」
「あー、もしかしてこの曲が気に入ったのね? 後で調べるのね?」
「んーなんか気になるというか」
「いいわ、見せてあげる」
胡桃沢はスマホの画面を俺に見せてくれた。
そこには再生されている画面と曲名、チャンネル名が表示されている。
俺はそれを見た瞬間、古い記憶を思い出した。
「それ……俺の曲だ」
「は?」
寝ぼけていた頭が急速に回転していくのを感じる。
聞いた時からなんとなく分かっていた。
胡桃沢からスマホを取ると、チャンネルをタップしてほかの曲もざっと見てみる。
スクロールしていって最初に投稿された日を見てみる……間違いない、やっぱり俺の曲だ。
「ねえ? それって本当?」
「ああ」
「信じられない、また冗談か何か?」
「そんな不思議なことじゃないだろ? 俺にだって夢はあったんだ」
「へえそうなのね。亮くんにも私と似たような……あ」
何かに気づいた様子だ。
「この作曲者の名前って本名だったのね。どおりであなたと同じ名前だと」
そう、俺は本名で活動していた。本名とは言っても名前をローマ字にして「ryo」として活動していた。
しかし、まさか胡桃沢が俺のファンだとはな。
恥ずかしくて死にそうだ。
「あなたこんないい曲を作れるのね。それにしても――」
コメントやらでは感想を言ってくれる人はいたが、直接感想を聞いたことはないのでむず痒い。
こういう時どういう反応をしたらいいのか分からない。
有名人はファンに囲まれても平気そうな顔をしているし、改めて感心する。
見習いたいものだ。
考えていると急にこっちに向けとばかりに俺の顔を手で挟んで、胡桃沢の前にまで持っていかれる。
キスか? なんて考えていると、まあ俺のファンだったなら言うであろう言葉を言った。
「なんで曲を作らなくなっちゃったの?」
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