第3話服選び
「どう?」
「うーん、七十点くらい」
俺は胡桃沢が試着しているのを覗き込んで、点数をつけていた。
決して無理やり覗いて見ているのではなく、許可はちゃんともらっている。
「いや点数じゃなくて感想言いなさいよ。これ可愛くない?」
「うーん、五十点」
白を基調としたシンプルなもので、あまり水着と変わらなくて興奮しない。
これじゃない感が強くて、どうせなら黒のセクシーなのをつけてもらいたいものである。
「ふざけてる?」
「いや別に、なんかシンプルだなと思って」
「別にいいでしょ? 下着なんて誰にも見せるわけじゃないし」
「うーん、三点」
俺の言葉を無視するとさっさと服を着て、すぐにレジに持って行ってしまった。
なんかどきどきと想像していただけあって、あっさりとした買い物にもやもやが残る。
胡桃沢が会計している間、何気なく周りを見渡すとすごい好みの下着があった。
俺が履くわけではないが、こっそりと買い物を済ましておいた。
「……? 何かしてた?」
「何も? 次は服でも見に行くか」
訝しげに俺を見ていたがさっき買ったものがばれることはなく、服を見に歩き出した。
しかし、意外と高いんだな……。今日本を買うのはやめておこう。
「胡桃沢はどんな服が好みなんだ?」
「まあそうね……シンプルなものが好きね」
「シンプルなの好きだなー、もっとオシャレしようぜー」
「あなたに言われたくないわ。あなたの服もシンプルなものじゃない」
と言われて自分の服を確認する。
上から黒のカジュアルシャツに白スキニー……確かにシンプルだな。
「……まあシンプルなのもいいな」
「でしょ、早くいくわよ」
俺の反応で気分がよくなったのか、ジト目で微笑みひらひらと手をふりながら歩くしぐさに、ちょっと美人の片鱗を感じた。
*****
ショッピングモールにある一つの服屋につくと、胡桃沢は早速服を選び始めた。
男女ともに服がある店だったので、俺も自分が気に入る服がないかを探していると横から胡桃沢が顔を出す。
「亮くんも買うの? これとかいいんじゃない?」
「あー結構いいな、って俺の選んでどうすんだよ、はよ買ってこい」
「まあいいから、どうせ女の子に選んでもらったことないでしょ? いい機会だから選んであげる」
「いいよ別に、お前のセンスはダサそうだ」
怒ったらしく、俺の顔を笑顔で掴んで私が選ぶから待ってなさいと、押しのけられてしまった。
しかし困った。胡桃沢が服を選ぶ時間暇だから適当に服見ていたのに、これでは意味がない。
はあ、余計な事言うんじゃなかった。
と、後悔すると同時に一つ、いい暇つぶしを思いついた。
胡桃沢が俺のを選ぶなら、俺も胡桃沢の服を選んでおこう。
そう思った俺は、さっそく胡桃沢にこのことを話すことにした。
「なあ胡桃沢」
「なに? 今選んでいるから待ってて」
「俺もお前の服選んでもいい?」
「……変なのにしなければいいわよ」
「おっけ」
傍からみればお互いの服を選んでいるカップルか何かに見えるのだろうか。
さっきから女性店員の目が、微笑ましい姿を見る目になっている気がする。
俺の予想は気のせいではなかったらしく、俺が服を選びだすと店員が話しかけてきた。
「彼女さんの服をお探しですか?」
「そうなんですよ。でもあまり女性の服には詳しくなくて」
「彼女さん美人ですから何でも似合いますよ!」
彼女ではないがそう伝えるとややこしくなりそうだから、彼女ということにしといた。
なんでも似合うのという意見には俺も同意見だが、さっき聞いた様子だとシンプルなのがいいと言っていたしどうしたものか。
悩んだ挙句、とりあえず俺の好みを上げておいた。
「じゃあストリート系で何かいいのありますか?」
「あーでしたら――」
「なんでよりにもよってそれなのよ」
俺と店員の会話にもう選び終わった胡桃沢が割り込んできた。
「いいだろ。若者っぽくて」
「いやよ、シンプルなのがいいの」
「美人さんだからストリート系でも似合うと思いますよ!」
「美人って……そんな」
美人という言葉に少し照れた様子で困っている胡桃沢。
こいつ家では自分で美人だの言ってたくせに人から言われるのは慣れてないのかよ。
「そうだぞ、美人だからなんでも似合うぞ」
「だ、黙ってて。お世辞なんか言わなくても買っていくから」
「お世辞じゃないですよ!! ほら、これとかどうですか!?」
なぜか店員の方が興奮気味に問い詰めていく。
胡桃沢は俺に助けを求めているようだったが、店員が提示している服が俺にとってドストライクな服だったから、サムズアップしておいた。
助けてくれないことを悟った胡桃沢は、俺に恨みを込めた視線を向けた後に諦めて店員おすすめの服を買っていくことになった。店員さまさまである。
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