第2話問題発生
胡桃沢がうちで泊まることになった日、問題がすぐに発生した。
いくつかあるがそまず一つは、胡桃沢用の生活用品がなにもなかった。
ベッドはもちろんのこと、何の計画性もないまま家出してきたから、服や下着もない。
あるのは今日着ていた制服と鞄だけ。ちなみに鞄の中身は知らない。
ということで買い物に行く羽目になった。
俺もついでに買うものがあるので、ついていくことに。
「なあ、なんで何も持ってこなかったの……馬鹿?」
「失礼ね、喧嘩して家出したのよ? 感情のままに飛び出したから、持ってくるわけないじゃない」
「……」
頭に血が上れば視野は狭くなるし、言っていることは分かるけど自分で言うからなんかなあ……。
別に俺が払って買うわけじゃないから、責めることはこれ以上はやめておこう。
「じゃあお金は? それは持ってこれたの?」
「お金は大丈夫よ。財布は常に持ってるし、私こう見えてお金持ちなの」
取り出した財布を見せびらかすようにひらひらと動かす。
どっからそんなお金を稼いでいるんだろうか。
さっきちらっと歌手になりたいとか、言ってたからそれ系の仕事で稼いでいるのかな?
「へーそうなのか。もしかして歌手とかの仕事か?」
「……まあそうね。歌手かどうかは私には分からないのだけれど」
「そんなに稼いでいるのに、なんで喧嘩したんだよ」
「まあいいでしょ? ちょっと踏み込みすぎよ。私たちほぼ初対面じゃない」
お前が言うなと言いたいところだが、俺もちょっと踏み込みすぎた自覚はあるので反省。
話しているうちに、近くにある巨大なショッピングモールについた。
「じゃあ俺は本買いに行ってくるから、あとで入口集合な」
「ちょっと待って。せっかく二人で来たのだから、一緒に回りましょ」
「いやでもなあ、俺は女子の服とか分からんぞ」
「いいのよ、私も分からないし」
お前は分かっておけよ、一応女子高生なんだから。
胡桃沢の私服は見たことはないが、多分ダサいとみた。
俺もオシャレは分からないが、二人で決めれば無難なものが買えるだろうと、仕方ないからついていくことにした。
三人寄れば文殊の知恵だが、二人だけなら平行線で結局買わない……なんてことにならないように、びしっと決めないとな。
「じゃあついていくよ。センスは期待しないでくれ」
「いいのよ、私の価値が下がるだけだもの」
「そんな言い方すんなよ……。なんか責任感じるだろ……」
そんなつもりじゃなかったわ、ふふふ、と上品に笑う顔を両手で挟み込んでやりたかったが、楽しそうにしている胡桃沢を見てぐっと堪えて我慢した。絶対そのつもりで言ったよあいつ。
堪えている間に先に歩いていった胡桃沢を小走りで追いかけて、横に並ぶと問いかけた。
「まずは何から買う?」
「そうねえ……下着かしら」
「最初にそれ? じゃあ買ってこいよ」
「――いいえあなたにはついてきてもらうわ」
「――それはできないわ」
食い気味で拒否する俺。なんか初めて胡桃沢を拒否した気がする。
「なぜ?」
なぜと問う胡桃沢にやはり頭がおかしいのだと再認識する。
「なぜ? 分からない? 痴女だから? 深淵に潜む痴女だから?」
さっき覗き込まれて、目覚めちゃった?とずっと疑問を投げかけている。
「違うわよ。さっきからずっと失礼ね亮くん。下着を買いに行くだけじゃない」
「あー……そうだよな。別に着たのを見るわけじゃ――」
「まあ試着して感想をもらうけども」
「やっぱ変態じゃん」
会ったばかりの男に下着の試着した感想をもらうなんて、女子としてどうなのだろうか。
初めて会った時から冗談を言うやつだなと思っていたが、これも冗談として言っているのだろうか。
「隠したのを見られるから恥ずかしいの、最初から見せるのだから恥ずかしくないわ」
そういうものなのか? 確かに隠れて18禁の動画を見ていたのがばれた時は恥ずかしいが、おもむろに人の前で見始めたら恥ずかしくはないか。いや恥ずかしいな、ていうか犯罪だ。
まあこの例えは間違っているし、同じとして考えるのはおかしいと思う。
「はあ、でも俺は恥ずかしいんだが」
俺だって羞恥心はあるから、下着の店に入ることに抵抗はもちろんある。
男が入ることに不快感を覚える人だっているだろうし、非難の目で見られただけで俺は落ち込む。
「大丈夫よ、私がいるから店に入っても問題ないわ」
すると俺の気持ちを察して、不安を抱いていた部分が取り除いてくれた。
なら、と。入っても大丈夫な理由を並べられて、入らないようでは男として恥ずかしい。
「おーけー。なら俺も入ろう。好みのやついっぱい選んでやる」
「ありがとう、自分で選ぶわ」
何か危険を感じたのか選ばせてはくれなかった。
どうせ一緒に行くのだから、貴重な体験だし選ばせてほしかった。
顔に出ていたらしく胡桃沢は笑うと、
「そんなに選びたかったの? あなた散々私に変態だの痴女だの言ってたのに」
「俺ら似た者同士なんだな」
「私は亮くんよりはましだけどね」
だが、選べないにしても目の前にいる美人の下着姿を見れることに感動を覚え、ワクワクしている。
自分でも変態だと思う。これから先、誰かに変態だと言われても、そうです、と俺は答えるだろう。
「あーでもやっぱ緊張するな」
「大丈夫だって、周りのお客さんもカップルが買いにきたと思うだけよ」
「そういうもんかねえ」
いまだに不安がる俺を安心させるための言葉を、たくさん言ってくれる。
徐々に緊張も薄れ、安心しだしたときに胡桃沢はとんでもないことを言い出した。
「――ああでも気を付けて。店にある下着を見ただけで下半身が元気になってしまうことになったら、さすがに知らない人のふりをするからね」
「しないよー」
可能性はない、絶対にないと思う。多分。
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