第6話 ミステリアス舞
夕食前に来訪したのは、内海 舞だった。
俺が階段を下りていくと玄関には舞が立っていた。
母親は「じゃ、ごゆっくり~」と言いながらニヤニヤしながら戻っていった。
小声で「どうして玄関から?」と聞いてみた。
「あら、おかしいかしら? 普通だと思うんだけど」
「いや、そうじゃなくて……まぁ、いいや」俺は舞を上げて良いのか迷っている。
そうすると舞が「上げてくれないの?」と言ってきた。
「ああ、ごめん、どうぞ」と言ってスリッパをだしてあげた。
「ありがと」と舞は靴を脱いでスリッパをはいて、指さしたのは二階。
俺の部屋に行けという意味か。
「かあさん、俺の部屋に行くから何か飲み物、頼む」
「あら、あら、あら、そう、わかったわ」と変な気を回している。
母親は顔だけ、部屋からだして「ウフフ」と手で口を押えて笑っている。
何を勘違いしているのか? 想像はできるだけど。
女性が俺の部屋に入るということは、そんな関係だと疑われる。
しかし舞は、もう何回も俺の部屋に来ているけど……
「お邪魔します」と舞は頭を誰に向けてかわからないが下げる。
舞が先に上がっていくのかと待っていると二人して玄関に立っていることになった。
「あっ、俺が先にいくのね」と言うと
舞は小声で「あたりまえでしょう」と言ってきた。
俺が先に階段を上っていくと、登り切ったところで陽葵が顔を出していた。
そして、舞の顔をみて、挨拶もせずに部屋の中に引っ込んだ。
俺は「あっ、今の妹の陽葵だから」と言ったけど、舞は顔を見ていなかった。
「えっ、誰かいたの?」と
「うん、横の部屋は妹の部屋なんだ」
「あっ、そう」と興味は無さそう。
俺の部屋が手前にあって、陽葵の部屋は奥にある。
俺は部屋の扉を開けて、「ど、どうぞ」と言った。
「じゃ、遠慮なく」と言いながら、躊躇なく入っていった。
部屋に入るなり「あ〜、やっぱり玄関から入るのは、肩凝るね」と言って肩を揉んでいる。
「それで、さっきは急にいなくなって、今度は何をしにきたの?」
「あ〜、なんだか、棘がある言い方。こんな可愛い子が来てあげたのに、私が君の部屋に入る女の子では初めてでしょ」
「うん、まぁ、そうだけど‥‥」
「だったら、もっと歓迎しなさいよ」
「いや、舞は何回も俺の部屋に来ているじゃない」
「まぁ、そうだけど、そ、れ、で、も、コーヒーくらい出してよ」
「ああ、わかった」と言って俺はコーヒーをとりに行こうとしてドアを開けたら、そこには母親がいた。
「うわっ、びっくりした」
「こっちも驚いたわよ」と母親。
どうも、外から様子を伺っていたみたいだ。
「あっ、これ、紅茶だけど」
「あっ、おばさま、ちょうど、紅茶が飲みたいなって思っていたんですよ」
「えっ、ほんと? よかったわ、コーヒーってなんだか聞こえたような気がして」
「いいえ、おばさま、紅茶ですよ、ほら、コーヒーと紅茶って似ているでしょ」
「えっ、そう?、まぁ、いいわ、はい」と言って母親はお盆に乗った紅茶とクッキー俺に押し付けた。
「それじゃ、ゆっくりしていってね、あの〜」
「あっ、私、高校のクラスメイトで内海 舞って言います」
「まぁ、舞ちゃんっていうのね、覚えておかなくちゃ」と言ってドアを閉めた。
「あー、びっくりした」と小声で言う舞
俺は舞が驚いたというのを聞いて、笑いが出てくる
「クッ、クッ、クッ」と必死に噛み殺しながら笑ってしまった。
「もう、なに、笑ってんのよ」と舞
「だって、いつもは俺の方が驚かされるのに‥‥」
「あっ、そうか、ウフフ」舞が笑った顔が可愛い‥‥‥俺は、つい
「なに、見ているの? 私の顔に何かついている?」
「えっ、いや」と言いながら顔が少しほてる。
「あっ、そうだ、持ってきてもらった紅茶が冷めないうちに頂きましょう」
「うん、そうだね」
と言って俺は、ベットの横に置いてある小さなテーブルに舞と向かい合って座った。
舞は制服を着ている。なんだか俺の部屋で女子生徒と紅茶を飲むなんて夢のようだ。
俺は時々、首筋を触っているのが気になったのか舞は聞いてきた。
「まだ、痛むの?」
「うん、少しね。かなり強い力で押さえ付けられたからね」
「ちょっと、見せて」と言って舞がテーブル越しに体を伸ばして近づいてくる。
俺のすぐ近くまで顔を寄せて首を見ているけど、舞は首筋を触ってきた。
舞に触られてくすぐったい感じがあったけど、舞の顔が近くにあることの方が気になった。
舞の体からいい匂いがする。
「よし」と言って舞は俺の首を触った手を退けて、元に位置に戻った。
「もう、痛くないでしょ」と舞
「えっ」舞の言ったことに心配になって首を触ってみた。
「あっ、本当だ、痛くない‥‥‥」
「ねっ」
「何をしたの?」
舞は答える代わりに口に指を一本当てた。
「秘密ってこと?」
「うん、そうだよ」
「秘密が多いんだね」
「うん、私はミステリアスな女の子だから」
「そう、不思議ちゃん?」
「違う、ミステリアス舞よ」
「そ、そうなんだ」
「うん、そう、ミステリアス」
「舞は?」
「あっ、ミステリアス舞よ」と言って紅茶を飲んだ。
まぁ、理由は聞けなかったけど、これで明日も首を気にせず、高校に行ける。
「一応、お礼を言っておくね、ありがとう、舞」
「えっへん、もう一度、言いなさい」
「ありがとう、舞」
「うん、うん、いいね」と機嫌が良い舞はクッキーに手を伸ばした。
ぼり、ぼり、食べながら「あっ、これ美味しいね」
「うん、母さんの手作りだから、砂糖多めで、俺‥‥‥苦手なんだ、全部、食べていいよ」
「そう、じゃ、いただくわ」と言って、あっという間に食べてしまった。
「あ〜、美味しかったぁ」と言ってお腹をさすっている。
なんだか、タヌキの腹包みみたいに思えてしまった。
「舞は何か、話があって戻ってきたんじゃないの?」
「あっ、そうだった。本は守ってきくれたわよね」
「うん、ここにある」と言ってポケットから出した。
「よかった。その本の156ページをみてくれる」
「156ページ?」
「良いから、開いて‥‥‥早く」と言われたので俺は150ページ、153ページ、156ページ」と言いながら開いた。
そこに書いてあるのはイラストだ。
それも舞にそっくりなイラスト‥‥‥
「えっ、これって?」
「そう、私なんだ」
「どうして、本に君のイラストが」と言って俺は本の出版日を見ようとする。
何気なく見ようとした本は、今まで書いてなかったと思うんだけど、書いてあった、というか、浮かび上がってきた。
本の初版の出版日は2044年3月?
前も見たことがあったが、書いてなかった‥‥‥それが、今は書いてある。
その本に舞のイラストが書いてあるということは、どういうことだ?
しかも、今日の格好と同じ制服を着て描かれて‥い‥る
今まで俺の身に起きたことが、俺の頭の中で、まとまってくる。
以前、陽葵が星の滅亡は2045年9月だって言っていた‥‥‥
そして本の出版日が1年6ヶ月前‥‥‥
じゃ、この本に書いてあることは現実に起きるのか?
そして、それを知らせに舞が俺のところに‥き‥た?
まさか、考えすぎだろ、SF小説の読みすぎだぞ。
いくら空想するのが得意だって言っても、そんなこと現実にあるわけないじゃないか。
「それがあるんだな〜」と舞が俺の頭の中を見たようなことを言い出した。
「‥‥‥」
「今、君は、私が、考えていることを当てたから、不思議に思っているでしょう」
「うん」
「私はね、あることから、特定の人の思考を読むことができるの?」
「特定の人?」
「そう特定の人」
「どうして全員じゃないの?」
「それはわからないわ」
「じゃ、特定の人って?」
「うん、もちろん、特定の人よ」
「えっ、それじゃわからないよ」
「いいの、まだ、わからないで‥‥‥なんたってミステリアス舞なんだから」と言ってなんだか知らないポーズをとってウィンクした。
なんだか、そんな舞も可愛い‥‥‥けど、謎が深まるばかり。
どうして2044年に出版される本に舞のイラストが描かれている?
今は、まだ2026年なのに、2044年には舞も俺も社会人になっているはずなのに、どうして高校の服を着ている?
なんちゃって女子高生でもしているのか?
昔の高校の服を引っ張り出して着れるからと言って、イラストに書いてもらったのか?
いや、そうじゃない、舞は、自分だって言っていた。
「舞、これって?」
「それは、ある人に書いてもらったの?」
「ある人?」
「うん、よく知っているある人」
「そう」
「でも、舞、この本の出版は2044年3月って書いてあるけど、今の君と同じ顔をしているよ」
「あっ、もう本の出版日が現れたんだね。それじゃ、急がないと」
「えっ、何を急ぐんだい?」
「時間の進行が早くなっているみたい、私が、ここにいるのが原因かも?」
「えっ、君がここにいるのが原因?」
「うん、そう」
「君が、俺の部屋にいて、俺と話しているのが?」
「ううん、違う、君と話しているのが原因」
「えっ、どうして?」
「本当は、私たち、あっちゃいけなかったの」
「ど、どうして?」
「それはね、時間が変わっちゃうからよ」
「なんだか意味わかんないよ」
「もう少し待ってくれる?、そうしたら話せるから」
「舞が、そう言うなら」
「うん、ありがとう、昴」
と言って舞は今日は帰るわ、と言って玄関から帰っていった。
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