第5話 私の好きな人は幼馴染みかもしれない
無事にテストを終えた。全体的な点数はそこそこで、一応どれも平均以上だ。
ホームルーム直後、報告とお礼を伝えようと思って森岡を見たら、海堂さんと話していた。海堂さんが楽しげに笑って、森岡が微笑む。
すんごく仲良さそう。……うっ。私は報告するのをやめた。
その日の放課後は美夏とショッピングデートに行った。夏服を見て回ったり、雑貨屋を巡ったり。途中でコーヒーショップの新作ドリンクを飲んで、一息休憩も。
美夏がお手洗いに行った間に、私は特に見るものもなくてモールを歩く人々をぼんやり観察していた。
そのとき、森岡が見えた気がした。隣を歩いていたのは、海堂さん。
えっ。
思考がフリーズして固まっていたら、美夏がお手洗いから戻ってきたのが視界の隅に見えた。私の顔の前で前後に手を振る。
「ただいま~。どしたの、友子さん。固まっちゃって」
「お、おかえり、美夏さん。あの」
なんで二人でショッピング? まるで付き合ってるみたいな。あの二人、そこまで進んでいるの? 完全に付き合う流れじゃん。私の頭と心は大混乱だ。
人の恋路は邪魔したくない、けど、あの二人だけは上手くいってほしくない。だって、だって、ゲームだからって、こんなすんなり何もかもうまくいくなんて!
しかし、ここで私が森岡のとこに行っちゃうと、思うがままの行動をすると、多分ゲームの悪役と一緒になる。これまでの経験上、私が脊髄で動くと、勝手に悪役なってしまったから。
だからここは、深呼吸してまず相談。例えば、目の前の親友に。
私はじっと美夏を見つめた。声を低めて質問をする。
「人の恋を邪魔するのって、どう思います?」
「んー、時と場合による」
「例えば?」
「友だちの好きな人が、友だちに悪影響のある人なら邪魔しまくるね。友だちに悪に染まってほしくないもん」
「そういうの以外だと?」
「そういうの以外って?」
質問返しされた。ええと。私はドリンクを一飲みして答えた。
「仲良かった友だちが他の人と良い感じになってる、みたいな」
「友だちに彼氏ができた的な?」
「そうそう。けど、あの、でも、モヤモヤするというか」
「寂しくて嫉妬みたいな?」
「や、そんな人聞きの悪い感じでは……」
言い訳じみたことを言うと、美夏が笑って頬杖をついた。
「じゃあさ、その友だちは、友子にとってどんな人?」
どんな人って言われても。私にとって森岡は。
幼馴染? ううん、それだけじゃない。
友だち? ううん、もっと近づきたい。
カフェ巡るのも、お昼ご飯食べるのも、勉強教えてもらうのも、きっと、他の誰かじゃなくて、私は森岡がいい。
「………すきな、ひと、かも」
そっか。胸のつっかえみたいなのが、すとんと落ちる。
これが恋なのか。
長雨の中の晴れ間の六月。教室内は梅雨の時期特有の暗い空気で満ちていた。私もつられてどんより気味。
森岡のことが好きだから、あの二人を邪魔したい。それって、例の乙女ゲームじゃなくても、よく漫画やらドラマやらでよく見る悪役と一緒じゃん。
やっぱり私は悪役気質だったのかー。
落ち込むと同時に、強く心に刻むことがある。それは正々堂々と勝負すること。
私が悪役とはいえ、物語の人たちのように、いじめたり悪いことをして好きな人をゲットしようなんてしない。
きちんと、森岡に好きになってもらうんだ!
ということで、私は正々堂々と森岡をデートに誘いまくっていた。
お昼休みのご飯中に、もちろん今日もデートに誘う。
「ねえ、森岡、今日の放課後はアイス食べに行かない? ここの自家製アイスがすごく美味しそうなの」
「いいよ。なんか最近、友子から誘ってくれるよね。この前はパンケーキで、その前はワッフルだったかな」
「えと、嫌だった?」
「まさか。嬉しいよ」
森岡が否定してくれて、私はホッとした。
連日誘って、迷惑がられてるかなと不安になったりもしてたから。
好きな人をデートに誘いまくって一人占めするの、なかなかに悪役っぽいかもしれないけど、恋は真剣勝負だから遠慮なんかしてられない。
デートばかりしていても森岡に好きになってもらわないと意味がないから、森岡の好きな甘いものの話をする。甘いものは私も好きだから、ぴったりだ。
好きな人と好きな話をして好きなものを食べる。楽しくないわけがない。
ただ、この作戦には大きな欠点がある。
私と話す森岡のところに、海堂さんがやってきて、森岡の肩に手を置いた。
「あの、森岡くん、今日なんだけど」
「ごめん、海堂さん。今は私が森岡と話してるから、あとにしてもらえるかな」
「あ、ごめんね」
すごく嫌な言い方、すごく嫌なやつになってしまった。ごめんなさい、海堂さん!
けれどお願い、今だけは森岡を一人占めさせてほしい。明日からは私、ちょこっと我慢するから。
そう、この作戦はとっても困る問題がある。近頃、森岡とスイーツを食べ過ぎて太ってきたのだ。
アイスクリーム屋さんの帰り道は雨が降っていた。私は傘を持っておらず、用意周到な森岡の折り畳み傘に入れてもらっていた。
意図せず相合い傘だ。とってもワクワクドキドキする、はずだけど。
アイス屋さんは定休日だった。私のリサーチ不足だ。雨のせいで靴も靴下もびしょびしょで気持ち悪い。森岡の肩は傘から出て濡れていた。私も折り畳み傘を持っていれば。
私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「あのさ、森岡っ」
「そういえば」
同時に喋りだし、同時に言葉を止める。
「何?」
「も、森岡からお先にどうぞ」
「じゃあ、一つ質問なんだけど」
女子力が高いわりに、身長は私を追い抜かしている森岡が持っている傘を軽く回した。
「なんで急に僕をスイーツに誘い出したの?」
「え」
「いつもは僕が誘う側だったから。なんでかなって」
「それは」
好きだから、なんて、今は言えない。
髪は湿気でぼわぼわしていて、制服も濡れていて、今の私は全然可愛くない。海堂さんくらい可愛かったら押しまくったらいけるかもしれないけど、山姥みたいな私だと振られてしまう。
告白は一番可愛い私がしたい。
「……言えない」
「ふうん。じゃあ、友子の話どうぞ」
私は緊張してぎゅっと拳を握った。心臓、ちょっとどくどくしてる。
「……あの、海堂さんとは、どんな感じ?」
「わりと普通だよ。相談しあったりするくらい」
「相談?」
そういうのって、だいぶ仲が進展してるからこそ起きるイベントとかなんじゃ。
嫌な予感がしてハッと森岡のほうを見上げる。森岡も私のほうを見ていて、私たちの歩く足はドリンクを自然と止まった。
傘が雨粒を弾く音が響き、時おり車がすごいスピードで走っていく住宅街の隅っこで見つめ合う。空は灰色で薄暗く、じめじめと私たちを見下ろしていた。
「そう、恋愛の相談なんだけど、恋してる子って、やっぱり可愛いよね」
眼鏡の奥で微笑む瞳は甘くて優しくて、私の心はきゅっと締め付けられた気持ちになった。
森岡ってば、海堂さんの話でそんな優しい表情をするんだ。
まさか、森岡も海堂さんのことが好きなの?
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