第38話 処理∩処置
亜子先輩と青葉先輩が到着したのは、それから30分後位の事だった。
バイクに乗った二人組が近づいてきたと思ったら、それが二人だった。
僕が電話で連絡してから、まだ1時間位だから相当急いで駆けつけてきたらしい。
道路交通法が心配になる。
フルフェイスのヘルメットをもどかしく脱ぎ捨てながら、亜子先輩がこちらに走り寄ってくる。
「すまん遅くなった!二人とも怪我は?」
亜子先輩が叫ぶように言う。
いつになく慌てている。僕はとりあえず体を起こした。
「僕は大きな怪我はないです。打撲とか擦り傷ぐらいだと思います。」
「私も、そこまでは。足を軽くひねったぐらいです。」
亜子先輩はそれを聞いて沈痛そうな顔をした。
「そうか。とりあえず『協会』にも連絡したから、あとで病院には運んで検査してもらおう。」
後ろからバイクを停めた青葉先輩も近づいてきた。
こちらも大分、青い顔している。心配をかけたようだ。
僕は少し笑いながら口を開いた。
「......青葉先輩のおかげで助かりました。先週、教わってなかったらどうしようもなかったと思います。」
冗談めかして言ってみたが、残念ながら場の空気は和まなかった。
沈痛そうな顔のまま、青葉先輩が頭を下げようとしている。
「すみま――「やめてください。」
僕は遮るように言った。
「青葉先輩のせいじゃないです。誰のせいでもないです。だから謝らないでください。」
青葉先輩に謝らせるのは筋違いだ。聞きたい言葉はそれじゃない。
「強いて言うなら、僕がまだ弱いせいです。青葉先輩だったら、怪我もせずに乗り切れたと思います。」
「それは......。」
青葉先輩はなにか反論しようとして、結局口をつぐんだ。
「......なので、もし青葉先輩が悪いと思う事があるのでしたら、是非また僕を鍛えてください。」
いいですか? と僕は念を押すように言った。
「正直、負けっ放しっていうのは、僕は性に合わないんです。次は絶対勝ちます。」
そう宣言した。
先輩が少し驚いたように、こちらを見ている。
「勝ち逃げは許しませんよ?」
そう僕は言って笑った。
青葉先輩が、ようやく少しマシな顔になった。
「......まだ伊吹君には負けませんよ。」
そう宣言される。
そう、それが聞きたかった。
____________
そのあと直ぐに、協会からの車が到着して僕等は病院に運ばれた。
聞いた話だと、協会の息のかかった病院で霊的損傷が激しい人の回復なども受け入れをしているらしい。
僕はそこで、各所のレントゲンとCTをとられた。
結果は、骨や臓器に損傷はなし。縫合が必要な大きさの怪我もなし。
ただ擦過傷含めて全身、打撲がひどく、絆創膏や湿布薬でミイラみたいになった。
最上先輩の方も特に問題なし。足も軽症だった。
病院での治療費用等は全て協会持ちとのことで、支払いに関してはスルー。
既に遅い時間だったので、今日はこれで解散となる。
病院からは、また協会が家まで送ってきてくれた。
家についた僕は、着替えもそこそこにベッドに乗る。
そこから先の記憶はない。起きたら既に昼近かった。
慌ててガバッと起き上がった僕は、痛みに悶絶する。
打撲もそうだが、筋肉痛なども一気に襲ってきていた。
これはとてもではないが、大学には行けない。
僕はとりあえず涼に今日休むことだけ連絡をした。
涼からは、何かあったらいうようにという内容と謎のスタンプが飛んできた。
やることを終えた僕はとりあえずベッドの上に戻る。
入学してこの方、一度も休んだことは無かったのでなんとなくそわそわする。
ただ、まずは体を回復させなくては。そう思って目を閉じた。
次に目が覚めたのは、既に夕方近くになってからだ。
夢の中でインターホンが鳴ったような気がして、起きた。気のせいだろうか。
そう思った瞬間、玄関からガチャンと鍵のまわる音がした。
一瞬混乱したが、犯人の心当たりは一人しかいない。
そうこうしている間に、
ベッドの上の僕と目が合う。
「幸兄ぃ、なにその恰好。」
「......インターホンを鳴らしたなら出るまで待てよ。どうして鍵を開けて入ってくるんだ。」
「別にインターホンを鳴らさずに、開けて入ってもよかったんだけど?」
「......家主の許可位取ってくれ。」
「
手に持ったビニール袋を床に置きながら言う。
「体調でも崩したのかと思って見に来たのに、本当になにその恰好。階段でも落ちたの?」
「階段は落ちてない。名誉の負傷だ。」
「不名誉の間違いじゃない。」
美玖の口からはポンポンと辛辣な言葉が飛び出す。
だが、心配してきてくれたのは確かのようでビニール袋の中からはスポーツドリンクなどが覗いていた。礼を言ってありがたく受け取る。
6時間程度の休息ではあったが、権能のおかげで回復が早い。
もうすでに、午前中に感じていた筋肉痛などは回復してしまっている。
「まぁ色々あってちょっと全身打撲になったんだ。もう大丈夫だから。」
「......危ない事はしないって言ってなかった。」
「......しないとは言ってない。努力するって言ったんだ。」
我ながら子供じみた返答になってしまった。案の定、美玖が目が細くなって、何か言いかけたその瞬間、狙いすましたようにインターホンが鳴る。
「「・・・・・」」
お互い無言で見合った。今日は千客万来だ。
とりあえず僕の家なので、玄関にのそのそと向かう。誰だろう。
「......はーい。」
そう言いながらドアを開けると、そこに最上先輩が立っていた。
驚いて固まる。
「今日休んだって聞いたから、様子を見に来たんだけど。」
フリーズから解除された僕は言う。
「......わざわざすみません。ありがとうございます。」
そのまま帰すのも忍びないので、どうぞと招き入れた。
先に入ってもらって、僕は玄関のかぎをかける。
先輩が部屋のドアを開けると、美玖の声がした。
「幸兄ぃ、なんだっ――――。」
続けて、部屋に入ると美玖が固まっていた。
最上先輩もそれを見て困っている。
「えーっと......妹さん?」
「従姉妹です。ただ一緒に育ったので妹みたいなものです。」
そう紹介する。美玖はまだ固まったままだ。
とりあえず先輩に座ってもらえるように促した。
これから説明が大変そうだ と僕は小さく嘆息した。
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