第39話 遭遇≒会遇

 美玖がフリーズから復帰するまで、少し時間がかかった。


 とりあえず先輩と美玖が向かい合って座り、僕が間に座る格好で向かい合った。

さて......これは何から話すべきだろう。


「えーっと......。まずは、先輩。僕の従姉妹いとこの高尾 美玖 です。

......で美玖、こちらが同じ同好会の先輩で最上 舞姫先輩。」


 取り敢えず無難に紹介から始めてみた。


「......同好会?ってあの?」


美玖がこちらに聞いてきた。


「そう。......先輩、実は美玖には、『眷属』の話を含めて伝えてあります。」


 先輩は、少し眉を上げて驚いている。


「......伊吹くんはそういう事、自慢するタイプだと思わなかったけど。」

「自慢したわけじゃなくて......問い詰められまして。」


 僕は頬をかいた。


「......明らかに様子がおかしかったので、私から問い詰めました。」


 美玖が言う。ちょっとつっけんどんな調子だ。


「......それで、私はどうなるんでしょう。魔法で記憶を消されたりとかするんですか?」

「別にそんなことをしたりはしないけど......。出来ればあまり言いふらさないでもらえると助かるわ。」


 先輩は、やんわりと言った。


「わかりました。」

 

美玖の肩が、少し下がった。どうやら先輩の事をだいぶ警戒しているようだ。


「それで今日は何をしに、ここへいらしたんですか?」

「昨日、伊吹くんがちょっと大変な目にあって、今日は休んだって聞いたから、一応様子見に来たんだけど。......要らなかったみたいね。」


 先輩が、美玖と僕に視線を送りながら言う。

 そこで美玖が思い出したように言った。


「そうでした。昨日何があったのか、聞いているところでした。具体的な所を聞く前だったんです。」


 そう言ってキッと僕を見る。


「それで結局、何をやってそんな恰好をしているのか。ちゃんと説明して。」

「なにをというか......ちょっと強い敵と戦って......。」


 僕がしどろもどろになっていると、先輩がフォローしてくれる。


「......伊吹くんが怪我をしたのは、私を庇って敵の攻撃を受けてくれたからなの。」

「幸に―兄さんが、庇った?」


 そう言って美玖は先輩の包帯がまかれた足をチラリと見やる。

 そして僕をもう一度上から下まで見た。


「なに、まだおじいちゃんの言ってた事を守ってるの?」

「......おじいさん?」


 先輩が怪訝な顔をする。僕も当惑する。何の事だ。


「......何の話?」

「ほら、昔よくおじいちゃんがよく言ってたでしょ。『男だったら、女子供を守れるように強くなれ』って。今どき男尊女卑、甚だしいとおもうけど。」


 美玖が言う。


「幸兄ぃ、あの頃から単純だったからまんまと乗せられて、せっせと鍛えてたじゃない。『美玖は俺が守る!』とか言ってた。」


 ......うっすらとそんな事を言っていたような記憶がある。


「まぁ、そもそもおばあちゃんに手も足も出ないのに、幸兄ぃにはそんなこと言ってたからね。私もおばあちゃんも、特に何も言わなかったけど。」


 ......その情報は知らない。そうなの?


「男ってのは単純で馬鹿だから っておばあちゃんは言ってたわ。

せめて幸兄ぃの前位は見栄を張らせてやらないとって。」


 今更聞きたくなかった真実だった。


「なるほど、それが伊吹くんの――。」


 先輩が、何かを納得したようにつぶやいた。

 ちょっと笑っている。


「......美玖さん、ありがとう。とても興味深い話が聞けたわ。」


 美玖は怪訝な顔をする。


「この話になにかあるんですか?」

「えぇ、とても。お兄さんは、本当におじいさんに心から憧れていたのね。」


 原点オリジン と先輩がぽつりとつぶやく。僕はハッとした。


「『守る』か。魔術アーツが発動した条件も、何となく読めるわね。」


 クスクスと先輩が笑う。僕は急に襲ってきた気恥ずかしさで死にそうになった。


「伊吹くん、いってたものね。『舞姫先輩は僕が守ります!』って。」

「......そんな恥ずかしいセリフを吐いたんですか?この男は。」


 美玖が僕の事を、ゴミを見るような目で見た。

 というかわざとそんな事を、美玖の前で言うあたりこれは昨日の意趣返しだろうか。

 出来るなら、今すぐここから逃げ出したい。


「まぁとにかく、伊吹くんが怪我をしてしまったのは、私を守った名誉の負傷だからあまり責めないで貰えると嬉しいわ。」

「......わかりました。最上さんがそう言うならそういう事にしておきます。」

「じゃあ私は退散するわね。伊吹くん、明日は会長が顔出してほしいそうよ。」

「......わかりました。」

 

 先輩が立ち上がって、玄関に行く。


「じゃあ、また明日。」

「......はい。わざわざありがとうございました。」


先輩が手を振って出ていく。

ドアが閉まった。


「......『僕が舞姫先輩を守ります』?」


 後ろから美玖の冷めた声が聞こえる。思わずドアに手をつく。


「恥ずかしいから、あまり人様の前でそんな恥ずかしいセリフを、堂々と言わないでほしいんだけど。顔から火が出るかと思った。

 次やったら、親族の縁を切って他人だってことにするからね。」


 後ろから追い打ちが来る。

わざわざ、心配して来てあげたのに と美玖がボソリといった。

これは大分お怒りだった。


僕は、すかさず玄関で土下座の体勢をとる。


―――――その後のご機嫌取りにはだいぶ時間がかかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る