第37話 過程<結果


 膝枕。


 古今東西、男性が女性にされたいことランキングで、5本の指には入る膝枕を今僕はされていた。


 まぁ冷静に経緯を聞いてほしい。

 

 先程のひと騒動の後、先輩と僕はお互いに謝罪し和解をした。そのあと、僕は痛む体をそばのベンチに横たえ、休んでいた。本当なら先輩を助けて被害者の治療もしたかったのだが、生憎と魔力が切れてしまった僕では役に立たない。

 

 なので心苦しいが、先輩一人にその役割を押し付けてしまった。


 手持ち無沙汰な僕はとりあえず、亜子先輩に報告を入れた。内容に驚いた亜子先輩に、電話口でだいぶ叫ばれたがすぐ来るとのことで、この場で待機となった。


 そこへ痛む足を引きずりながら、なんとか治療を終えた最上先輩がこちらにやってきた。


 付近にベンチはここ一つしか空いていないので、僕は先輩も座れるように体を起こす。ただ、先輩は怪我人の僕に、そのまま寝ているようにと座らず、押し問答が始まった。


 そして紆余曲折なんやかんやの結果、この形で落ち着いたのだ。


・・・・・・なるほどわからん。どうしてこうなった。


 わかるのは先輩の足が、とても柔らかいという事とすべすべしているという事だ。

気恥ずかしさでおかしくなりそうな気もするが、魔力がみるみる回復しているのもわかる。


 沈黙に耐え切れなくなった僕は、口を開いた。


「......先輩、怪我大丈夫ですか?」

「......伊吹くんの方が、大分重症だと思うけど。」


 まぁそうかもしれない。魔術アーツが発動していたとはいえ、攻撃を受けすぎた。


「逆に大丈夫なの?あれだけ攻撃を受けていて。」

「一応全身痛いです。でもそこまで大きな怪我はしていないと思います。」


 先輩が、そうだ と思い出したように言う。


「そうだった、限定魔術リミテッド・アーツ。さっきのが伊吹くんの限定魔術リミテッド・アーツね。どういう能力チカラだかわかった?」

「・・・そうですね。取り敢えず、『防御力が上がる。』ことと、『受けたダメージが蓄積されて反撃に利用できる』というのはありそうです。」

「限定条件は?何かわかった?」


 条件。なんだろう。さっきは無我夢中だったし、狙ってこの魔術アーツを使おうとしたわけではない。何がきっかけで発動したのかはいまいちわからない。


「......どうなんでしょう。ただ、最上先輩が攻撃されるのを見て、少しでも防ごうと飛び込んだだけです。特に特別なことは、していなかったと思います。」


 先輩が思案顔になる。横目でチラリとそれを見ようとしたところ、も視界に入りそうだったので、今まで通りまっすぐ前を向く。


「『防御力が上がる』という事は、何かそういう憧れがあるという事よ。それが何かを突き止められれば、限定条件もおのずとわかりそうね。」


 そう言えば、さっき閃いた考えがあったのだが、答え合わせはしていいものだろうか。


「先輩、関係ない話で一つ確認があるんですが。」


 結局、自分の好奇心に負けた。


「......なに?」

「......先輩の魔術アーツの二つ名、『虹の魔女』でしたよね。さっきの色から連想したんですが、もしかして限定条件だったりするんでしょうか?」


 上から冷気が降ってきた。


「伊吹くん?この状況でそれを聞く?」


 僕は口をつぐむ。しまった。疲れて頭が回っていなかった。


「.........すみません。深い意図はないんです。ただ気になってしまって。」


 僕は、すぐに謝った。頭上の冷気が、徐々に引き一つ小さなため息が聞こえる。

先輩が、小さく身じろぎをしたので足がモゾリと動いた。


「そうね、隠しておいても仕方ないからいうわ。ええ、ご想像の通りよ。」


 諦めたような先輩の声だけが聞こえる。


「私の魔術アーツの限定条件。肌につけているの色で、使える魔術の属性が切り替わるの。だから常時持ち歩いて対応しているの。」


 ちなみに と先輩が言う。


「さっき時間を稼いでもらったのは、属性を統一する為よ。属性を分けるより、一種類にした方が出力が上がるから。」


 属性をそろえる。スカート。上下をそろえる。

僕の頭の中で、バラバラのピースがつながりかける。

その瞬間、頬をつねられて思考が霧散した。


「......いひゃいへす。」

「馬鹿な事、考えようとしている雰囲気がしたからね。今思いついた事は忘れなさい。」


 女性の勘は、こういう時はやけに鋭い。


取り敢えずの疑問は解消した。ただまだわからないことが多い。


「さっきのあれ、普通 じゃないですよね?」

「......そうね。少なくとも私が知る限り、同じタイミングで中級妖魔ミドルクラスが4体も出現するなんて事は、聞いたことが無いわ。そもそも、協会からの情報にもそんな危険があるなんて事、一言も書いてなかったわけだし。」


 そういって先輩が思案顔になる。


「この所、気になることが多いのよ。違和感というか。些細な事が妙にね。」


 それがこれと関係あるのかはわからないけど と。

 そこまで言うと、今度は一転して悩みを振り払うためか、からかう様な口調で先輩が口を開いた。


「でも何はともあれ、これで伊吹くんも一人前ね。中級の討伐ができたわけだし。」

「......僕単独で倒してませんけど。」

「『巨獣種ベヒモス』は単独扱いよ。あれに私の攻撃は一切通用してないから。」


 私との相性が悪い中級なのよ と先輩は言った。


「まぁめでたく限定魔術リミテッド・アーツも判明したことだし、良いんじゃない? たぶんここ最近だと、中級討伐まで最短記録よ。」

「......それでこんなにボロボロになってたら世話ないですね。」


 僕は自嘲気味に言った。

先輩が、僕の頭をこつんと叩く。


「自虐しない。君が言ったのよ。勝てたんだからそれでいいじゃないですか って。ちゃんと自分がしたことは自信もっていいわ。」


 顔は見えないが、優しい声だった。


限定魔術リミテッド・アーツは判明した。中級4体も同時に倒した。二人とも傷だらけでもキチンと生き残った。これ以上に何か必要?」


 確かに、しかも負傷した僕はさらなるまで得てしまったのだ。

これ以上を望むのは贅沢という物だろう。


「・・・・・また馬鹿な事考えてない?」


 ......ホントに心が読めるんじゃないだろうか。

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