第35話 覚醒∪革命
―――――3体
数だけなら、たった3体だ。そのたかが3体相手に、僕は一歩も動けない。あまりの事に、思考が飛んでしまった。
先輩も、動揺で固まったままだ。
あちら側も警戒しているのか近づいては来ない。がこちらを明らかに敵視している雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。
『巨獣種』と呼ばれた、四足型が苛立ったかのように前足を地面に叩きつけた。
ズドン っと地響きが鳴り、足元が揺れる。
「......ッツ」
皮肉にもその衝撃で、我に返った。マズい、どうする。
「......いったん引きましょう。」
後ろから小さな声で、先輩が言う。
「私の魔術は
先輩が言いかけた瞬間、「
「......マズいっ!」
最上先輩の焦った声がした。
「?どうしまし―」
た といいながら振り返って気が付いた。
僕等の後ろに巨大な石の壁が生成されている。退路がふさがれた。
先輩が青ざめる。僕の顔も似たようなものだろう。
これは何だ。あの中級妖魔の能力という事だろうか。
「......『
「......先輩?」
「『
最上先輩が早口で、説明してくる。
「......伊吹くん、悪いけど覚悟を決めて。退路を塞がれた以上、正面を突破するしか方法がなくなった。」
先輩が正面に向けて構える。
「明らかに異常事態だけど、ここに助けを呼ぶ手段はない。私達だけで切り抜けなきゃ。」
ゴクリ と僕は唾を飲み込んだ。口の中がカラカラだ。
先輩が、躱すと同時に炎球を数発
着地する所へ今度は、
後ろに躱したところで、飛んでいる礫が急に方向を変えこちらを追尾した。
「避けてもダメ!叩き落して!」
飛んでくる礫をそれぞれ蹴り飛ばした。一度僕にはじかれた礫はそのまま飛散して戻ってこない。
休む暇もなく、
その瞬間、鋭い鳴き声と共に衝撃波が飛んでくる。空中で身動きの取れない僕はまともにくらった。
「...ガッ」
まともにくらった僕は石の壁に背中から叩きつけられた。
肺の中の空気が押し出されて息が詰まる。受け身も取れずに地面に落ちてせき込んだ。
「伊吹くん!」
先輩が叫んでいる。僕はゴホゴホとせき込みながらフラフラと立ち上がった。
僕に追撃しようとした
どちらも岩のような表皮に阻まれて、表面で爆散している。ダメージはそこまでないだろうが、苛立った声を上げた
「......ダメ。やっぱり片方じゃ火力が――」
先輩の焦ったような声が聞こえる。
巨体が先輩に向けて突っ込んだ。体当たりで押しつぶすつもりか。
やむなく飛び上がった先輩は、後ろの壁を蹴って
「......危ない!」
僕は叫んだ。飛び上がった先で2体の妖魔が待ち構えている。衝撃波と、石の礫が先輩を襲う。
咄嗟に雷を放った先輩は、礫を弾き飛ばすことには成功した。だがそこまでが限界で、衝撃波をくらう。空中でバランスを崩した先輩は着地出来ず地面に墜落した。
地面とぶつかった弾みで、杖を取り落としてしまう。そのままゴロゴロと2回転程転がってうつぶせで止まった。
そこから先は、スローモーションのように僕には感じられた。
このままだと、先輩が踏み潰される。
咄嗟に僕は、巨獣種と先輩の間に体を割り込ませた。
―――――先輩を守る。
腕をクロスさせ、せめてものガードにした。
振りかぶられた足が振り下ろされる。
せめて多少なりとも僕の体が盾になれば そう思いながら目を閉じ歯を食いしばった。
―――ドクン と僕の魂が脈打った気がした。
激突する。
その瞬間。
――――ガキィィィィィンン と金属音が響き渡った。
衝撃が来る が想定していたより遥かに少ない。
驚いて目を開けると、バランスを崩した
「......なにが――」
思わず声が出た。ふと見ると僕の纏っている魔力が青白く発光している。ガードした腕の部分だけ少し赤みが入っていたが、徐々に青い魔力の中に移動して循環を始めた。
後ろで、せき込みながら先輩が半身を起こした。
「......伊吹くん、あなたそれ――」
空中から「
先輩に当たるコースだったので僕の体で受け止める。
案の定、鈍い音を立てて石礫は弾かれた。礫が当たったところが赤く変色するが、先ほどと同じようにすぐに色が引いていく。
どうやら、魔力が硬質な鎧のような役割を果たしているらしい。
「......ダメージはないの?」
「...そこまでは。鎧を着ているみたいな感じです。」
それを聞いた舞姫先輩が、一瞬思案する。
「......伊吹くん、お願い。三体相手に15秒だけ時間を稼いで。」
先輩が僕の目を見て言う。
ここで守れなければ、男が廃る。
「......わかりました。舞姫先輩は僕が守ります。」
お願い といって先輩が立ち上がり、僕の後ろに向けて走り出した。
僕は改めて3体に向き直る。攻撃が効かないことに苛立ったらしく三体とも都合よくこちらに意識が向いている。
吠え声が上がる。
先程は避けたが、今度は受け止める。
同じように金属音のような音と共に、弾いた。反動で僕もたたらを踏むが踏みとどまる。飛行型の2体は狂ったように僕に向けて、礫と衝撃波を発射してきた。
なるべく拳で迎撃したが、体に何発かはくらう。軽減はされるが痛いものは痛い。
当たった所は、一瞬赤く染まるがすぐに色が元通りになった。
鎧の下に、赤い魔力が循環しているのがわかる。まるで受けた、ダメージが蓄積されているようだった。
また巨獣種による踏み付けが来たので、受け止める。鎧が何カ所か継続的に赤く変色する。青く光る表面と内側を走る赤い魔力のせいで、段々と鎧が紫に近くなっている気がした。
まだか、と焦りだしたその時、後ろから白炎の槍が飛び出した。その槍は、完全に僕に意識を向けている飛行型に向かって伸びていく。
身軽な方は気が付いて空中で躱したが、巨体な
今まで聞いたことが無いような絶叫が、上がった。
「伊吹くん!ありがとう、下がって!」
後ろから声がする。
僕は下がる前に、せめて一発位は
この硬そうな表皮を貫くだけの、「貫通力」と「威力」をイメージして魔力を練り上げる。性懲りもなく振り下ろされる足をかいくぐり、懐へもぐりこんだ。
「くらえ!」
そう言いながら、
叩きこむと同時に、僕の鎧の内側に循環していた魔力が一緒にその一撃に雪崩れ込んだ。
ベヒモスの巨体に貫通した穴が開いた。
「は?」
僕の口から、間抜けな声が漏れた。苦鳴をあげる間もなく妖魔が消滅した。
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