第34話 討滅≒消滅
先輩が僕を見ながら言う。
「今から出てくる妖魔を、
「......わかりました。」
先輩が緊張しているのが僕にも伝播してくる。
距離は100メートル位しか離れていない位置なので、すぐにたどり着けるはずだ。
覚悟を決めたように先輩が動き出す。僕も追随した。
前を行く先輩がこちらにチラリと目配せをした。わかる、この角を曲がった先だ。
角を曲がる前で、いったん立ち止まる。先輩が、一つ息を吐いた。
「「
一呼吸おいて僕等は、角から飛び出した。
正面、地面に既に何人か転がっている。妖魔は ......全部で4体か。
中級がどれだかすぐに分かった。明らかに1体だけフォルムと、プレッシャーが違う。
いつもの
隣で先輩が、「杖」を振って目の前に火球を作り出した。そのまま鋭く前に向けて突き出すと、炎球が妖魔に向けて発射された。
発射された炎球は
だが、中級は驚くことに火球を空中で躱した。ヒラリ と飛びのくと途端にこちらに敵意を向けてきたのがわかった。どうやら敵として認識されたらしい。
「......炎球が、この距離だと当たらない か。伊吹くん、悪いけど
「......わかりました。」
言いながら僕は、こちらに突撃してきた
中級はこちらを警戒するように、少し上空を飛び回っている。
「......飛行タイプだけど、見たことない型ね。とりあえず素早いのは共通でしょうから、あとは能力次第ね。」
先輩は、杖を軽く振って炎球を幾つか生み出していく。
先程より鋭く、空中の鳥妖魔めがけて発射された。妖魔は苛立ったような吠え声をあげて、躱していく。
それをつい見ていると、僕の方には先ほどはじいた
ダメージが通った感じがしなかった。威力が出せないのであまり弾けず、すぐに再度の突撃をくらう。イメージ操作が間に合わないので、防戦一方だ。
「......チッ」
舌打ちをして、僕は飛び下がった。迂闊だ。目の前の相手に集中しなくては。
僕と先輩の間に距離が空いた瞬間、好機と見たのか鳥妖魔が先輩に向けて飛び出した。
先輩は慌てずに、妖魔に向けて杖を向けて炎球を生み出した。その瞬間、中級が鋭く吠え声をあげる。
なにかが妖魔から先輩に向けて発射された。
「......ッツ」
先輩がよけようとするが躱し切れない。肩口に食らう。
ドンッ と突き飛ばされたように先輩が後ろによろめいた。
「先輩!」
僕が声を上げた。そのまま突撃をくらうか と思ったが、最上先輩はよろめいた勢いのまま後ろに倒れ込み、器用に飛び込んできた妖魔にカウンターで蹴りを入れている。突っ込んできた妖魔は、逆にかわし切れずに弾き飛ばされて苦痛の声を上げた。
「大丈夫ですかっ?」
駆け寄りたいが、
「えぇ、大丈夫。攻撃自体はそこまでの威力じゃないみたい。鳴き声で衝撃を飛ばす能力の様ね。」
先輩は落ち着いて分析している。鳥妖魔は再び飛び上がって、旋回している。
「......攻撃自体はそこまでじゃない。ただ素早いからこちらの攻撃が当たらないと。」
言いながらも、妖魔に炎球を連発しているが、ひらひらと避けられている。
ただ怒りは買っているようで、妖魔が吠え声をあげる。
僕の方は、相変わらず
相手を倒し切れるだけの攻撃力がないため、こちらも長期戦の様相を呈していた。
「こちらがやられる可能性は低いけど、このままじゃ埒が明かないわね。」
そう先輩が呟く。
「伊吹くん、一回、
先輩から指示が飛ぶ。
疑問だがそうしろといわれたので、はじく方向を先輩の方に変えた。
位置を調整したらしく、
なにをする気なのか疑問だったが、鳥型妖魔が態勢を変えたのを見て理解した。
不利になったと思わせて誘い込むつもりだ。
先輩が
先輩が慌てたように、杖を突っ込んでくる鳥型に向けて炎球を飛ばしたが、咄嗟の事で威力が出ていない。それを見た鳥型は、勝ち誇ったような鳴き声を上げて衝撃波を放った。
―――――次の瞬間、鳥型妖魔は雷撃の網に絡めとられた。
あえて威力を抑えた炎球を目晦ましに使い、後ろに設置した
僕はすかさず最上先輩の後ろに飛び込んで、先輩に向かう
雷撃に飲み込まれた鳥型妖魔が墜落する。すかさずそこへ、追加の雷撃が叩き込まれる。妖魔から、悲鳴のような声が上がった。
逃げ出そうとしているのか、飛び上がろうとするがダメージのせいか動きが鈍く地面から飛び立てないでいる。
先輩が頭上に魔力を集め始めた。
先程、撃ち放っていた連撃の炎球とは比べられないほどの大きさの炎塊が生成される。
妖魔は焦ったように暴れだすが、まだ動けない。
「これで!!」
先輩が杖を振り下ろした。頭上の炎塊が、地面に落ちた妖魔に降り注ぐ。
先程より大きな苦鳴が響き渡る。
炎が晴れると、そこには黒焦げになった妖魔が転がっていた。
あれだけくらってまだ消滅しないとは と思うがもはや痙攣しているだけで、逃げる様子はない。
「......流石にしぶといわね。じゃあこれで。」
先輩がそういいながら杖を振ると、地面を雷撃が走った。
バツン とぶつかると、さすがに限界を迎えたようで消滅していく。
終わった と僕は安堵した。
先輩も緊張していたようでホッと息を吐いている。
顔を見合わせて笑った。
「......何とかなったわね。」
「ええ。さすがは最上先輩です。」
伊吹くんが
「じゃあ後は
と言いかけた先輩が固まった。信じられないものを見るような目で、僕の後ろを見ている。疑問に思いながら振り返った。
明らかに異様な光景だった。
「......あれはいったい―――」
言いかけたその時。
――――――ピシリ
なにかが割れるような音が響いた。
―――――――ピシリ ピシリ ピシ・・・・・・
ガラスが割れるかのような、何かに罅が入るような
次第に連続する音を聞きながら、僕は自分が何を聞いているのか理解してしまった。理解したくなかった。
まるで卵が割れるかのような音だった。
砕ける音と共に、
明らかにサイズが大きい四足型が地響きを立てて着地した。
「......
後ろから、先輩の怯えたような声が聞こえる。
大きな白い烏が舞い上がる。先程のとは異なり大きなカラスのようなシルエットだった。
「......
もはや、かすれる位のささやき声だった。
そして、最後に先程倒した筈の妖魔が、細身の鳥のシルエットが降り立った。
僕等を見て大きく吠える。
僕等の前に3体の、
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