第33話 幻聴∩予兆
立川駅までは電車で一時間程かかった。
余裕を持って出たので、待ち合わせの時間よりは、少し早く到着できた。
目印を決めなかったが、まぁ多分大丈夫だろう。前回と同じで見つかるに違いない。そんなことを考えていると、人並みの向こうに目印が見える。
こういう時にも大変便利である という気持ちと、こんな使い方でいいのだろうかという悩みが僕の中で交錯した。
「おはよう、伊吹くん。」
「おはようございます。」
それじゃ行きましょうか といった最上先輩がすぐに立ち止まる。
「......土地勘がないから、ちょっと戸惑うわね。」
そういいながら、バッグから取り出したスマホとにらめっこをしている。
そう言えば、僕にもメールが来ていたなと思い取り出した。
送られてきたのは、何の変哲もない地図データで、わかりやすくいくつかのポイントに赤い丸が複数書かれている。
どうやらこれが出現可能性のある地点という事らしい。
みた所、駅の北側に多く点在していた。
アウラに
駅を出た所のデッキを歩く。
「今日はこの前と違って、空いていていいですね。」
「さすがにGWも終わって、明日から平日だから。出かけるよりゆっくりしたい人が多いんじゃないかしら。」
「......そんな時でも妖魔は待ってくれないわけですか。」
「別に私に任せて、ゆっくりしていたってよかったのに。」
先輩が僕に向けて、可笑しそうに言う。
まぁその通りではあった。
「まぁ、あれです。今はそれができますが、逆は出来ませんから。僕もせめて独り立ちできるぐらいにはなりたいので。」
「身体強化だって、イメージ操作だって普通よりは適性があるんだからそんなに焦らなくてもいいと思うけど。」
「......先輩はどれぐらいで一人で巡回するようになりました?」
「私?そうね……確か2ヶ月目か、3ヵ月目ぐらいだったと思うけど。青葉くんはもっと早かったわよ。1ヶ月位で
確かに。あの
「そうですね。この前初めて見ましたけど、強かったです。圧倒的でした。」
「......もう知ってるのね。でも青葉くんのあの
四苦八苦してる青葉先輩が想像できない。
「ほら、時間制限がある上に、再使用まで時間がかかるでしょう?いつのタイミングで使うべきなのかとか、そういう事が最初の頃はわからなかったとか。毎回使うわけにもいかない
「ポイント でしたっけ、それも聞きました。そういう条件の
「ええ。会長や私はそんなに厳しい条件がない汎用型の
青葉くんみたいに特殊な限定条件がある
いまだに謎な僕の
そんな僕を横目に見ながら、先輩は言う。
「あんまり期待しても、全く戦いに向かない
「......対妖魔に向かない
「そうね、例えば『恐怖』の眷属で、『対峙した相手が自分に対して感じている恐れの分だけ自己強化する』という
逆に鍛錬とかだと役立つらしいけど と先輩は言う。
「そういう
「ええ。だから、何が自分の
そういって先輩は笑った。
――――――――――――――――――――
巡回を始めて、既に2時間ぐらいが経過した。
地図に記載のポイントをカバーできるように行ったり来たりしているが、
今の所探知に引っかかるものは出ていない。
権能のおかげで、歩くこと自体で疲労はそこまでしないが、
精神的な疲弊がどうしてもたまる。道路沿いのカフェでいったん休憩する事にした。
僕がちょっとため息をつきながら飲み物を飲んでいると、最上先輩が話しかけてきた。
「どう?やっぱり疲れた?」
「いえ、体の疲れはそこまででもないです。なんだか何も起こらないので、逆に精神的に疲れてきました。」
「何も起こらないのが、本来はベストなんだけどね。まぁ気持ちはわからなくもないわ。」
先輩も飲み物を飲みながらポツリと言う。
「残りの時間は1時間もないし、外れかもしれないわね。」
休憩を終えた僕らは外に出た。
移動しようかと思ったその時、うなじがざわりとした。
「?」
思わず立ち止まった。
前も、こんなことがあったような気がする。
「どうかした?」
突然立ち止まった僕に先輩が声をかけてくる。
「......今何か感じませんでしたか?」
「......私は別に。アウラ、何か反応はある?」
「「
気のせい だろうか。現に、アウラから帰ってくる
「何か感じたの?」
「わかりません。気のせいかもしれません。」
「......いいわ。ちょっと警戒しましょう。」
「でも気のせいかもしれませんよ。そんなに気にしたって―――」
「駄目よ。私たちが正体不明の感覚に出会った時、信じるべきは常識じゃなくて感覚の方なのよ。
言いながら、先輩は既にバッグからペンを取り出して臨戦態勢だ。
僕も、口をつぐんでもう一度辺りを伺う。
一度その感覚が走った後は、特に同じものを感じない。やはり気のせいかもしれない と自信を無くした。
「......特にやっぱり何も感じないです。やはり気のせ―――。」
言いかけた途端、
「「ッツ」」
この感覚は先輩も同じく感じたようで、合わせて息を呑んだ。
なんだこれは。この前の大量出現の時とも違う。
これはまるで―――予兆の様だ。
「......先輩、これはいったい。」
最上先輩が、緊張している。
「伊吹くん、悪いけど覚悟を決めて。」
先輩の頬を、一筋の汗が流れた。
「中級が来るわ。」
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