第26話 真偽∪善悪
「というわけで、さっきの
先輩がこちらに目を合わせないまま説明してくれる。
「......変身してましたよね。」
「......えぇ。近接の攻撃力や速度、防御力もけた違いに上がります。短時間しか使えない上に、諸々限定条件がありますが強力な
「......ジャンプして飛び蹴りとかしてませんでしたか。」
「......先ほどの身体強化の応用ですが、さらに大きく強化が可能です。
先輩はこちらに一切目を合わせようとしない。
別の方法を試そう。
「.........日曜日。」
僕がボソッと呟く。
先輩の肩が、ピクリと動く。
「......ベルト。 ......バイク。」
呟くたびに、先輩の肩が震える。
「............仮面r」
「えぇ!そうですよ。認めます。」
先輩が、やけになったように叫んだ。
「そうですよ。僕の
普段冷静な青葉先輩が、ちょっと取り乱している。
僕は思わずニヤニヤしてしまう。
「......伊吹君も立派な『愉悦の眷属』ですね。」
先輩が、僕の顔を見ながら言った。
先程感じていた羞恥心は既に魔力に変換したようで、既に冷静さを取り戻している。さっき取り乱していたのが嘘の様だった。
「......すみません。ただ、青葉先輩がそういう作品が好みだったとはちょっと意外で」
「......逆にこれ以外知らないだけですよ。昔から家は厳しかったので、こういったものに触れる機会がなかったんです。
これを知ったのも偶然です。小さい頃に兄と二人で、父と母には見ていることを知られないように、こっそりとみていました。」
ばれたら必ず折檻を食らったでしょうから、そういうスリルもあったと思いますね と先輩が懐かしそうに思い出を語った。。
「......先輩の
「先ほどの通り、変身している間は身体能力が強化されます。分類としては強化型
限定条件は幾つかあります。『変身するときにポーズをとる』、『一回変身すると解除から30分は再発動できない』、『通常変身可能なのは3分間』など時間制限が主です。」
「なるほど、短時間という制限がある代わりに、強化される
「その通りです。そしてこの
『善行を積む事』です。」
「......善行 ですか?それってどういう......。」
「そのままの意味です。人から感謝される行動を重ねて、ポイントをためる必要があります。アウラにカウントされているので、僕には魔力値と同じように確認ができます。」
「......その限定条件はどうやって気づいたんですか?」
「清掃のボランティア活動をしていたら数値がたまったので、気が付きました。
むしろそこからそのポイントをどう使うのか がなかなかわからなかったですよ。」
話しながら先輩と僕は、倒れている人の方に向かう。
被害者の人達を手分けをして「
「それにしてもさっきの妖魔、結構な数でしたね。驚きました」
「......あれは、たまにある現象です。
妖魔というのは、襲う人間がいる場所に群れで出現しますが、たまに『群れ』同士の出現位置がかぶることがあります。
すると、さっきの様に一か所に大量に出現するということが起こるわけです。」
それがさっき感じた、奇妙な
「あれが起こると、少し面倒です。普段の
どちらにせよ面倒なことになります と先輩は言う。
「広範囲の探索か、それとも重度の被害者の保護か。対応が遅れればそれだけ被害が大きくなります。ですので多数の気配を感じたときは、普段より素早く駆け付けられるようにしましょう。」
「わかりました。覚えておきます。」
説明しながら確認したが、今「
念のため、辺りを魔力を通して「視」たが他に倒れている人もいなかった。
「伊吹君は慎重ですね。他に居ないかの確認ですか?」
「......ええ。前回危うく見落とすところでしたから。」
「さっき上から確認しましたが、付近に倒れていたのは、先程の4人だけでしたので大丈夫ですよ。」
なるほど、それなら大丈夫か と僕は緊張を解いた。
「さて、後始末も済んだことですし、帰りましょうか。」
「そうですね。」
駅に向かって、歩き出した。
先輩が僕にむかって口を開く。
「今日はどうでしたか?疲れていませんか?」
「ちょっと疲れました。でも色々と手ごたえはありました。」
「イメージトレーニングを続けるだけでも大分違いますよ。動作と合わせて反復練習がおすすめです。」
今日実践していた身体強化の応用、攻撃という概念を強化する方法はさらに研鑽の幅を広げていきそうだと思い、知らず知らずのうちにわくわくしていた。
口角が上がるのを抑えきれない。それを見た先輩が、ちょっと笑いながら言う。
「伊吹君は意外と行動的な性格をしていますね。負けず嫌いだったり、強くなることを目指したり。初対面の時は、大人しそうな印象が強かったので今とはギャップを感じます。」
「......大分、羞恥心を転換する方法がわかってきたので、少しは冷静になれるようになりましたから。」
実家でのアルバイト、大学でのやり取り、短い時間ではあるが『羞恥心』というものがどれだけ自分を縛る枷になっていたのかを痛感している。
今でこそ、多少冷静を取り繕えるようにはなったが、記憶とは恐ろしいもので、どうしてもまだ体がすくむのだ。視線を向けられることへの恐怖はまだぬぐえていない。
もう羞恥心で茹で上がってやらかしてしまう事はないと、頭でわかっているつもりだ。ただ、これを乗り越えるには時間がかかりそうだった。
最上先輩が、 自分で乗り越えるしかない といった意味が今実感として理解できていた。
「......強くなりたいです。」
僕はそうつぶやいた。
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