第25話 真意∩神威


 僕達は時間潰しに、大通りをふらふらと北に向かってあるいていく。

 目の前に大きな鳥居が見えていた。


 僕はふと疑問に思って聞いた。


「僕達は『悪魔』と契約したわけですけど、じゃあ『神様』ってのはいるんでしょうか?」

「そうですね。『神様』と呼ばれる類の存在は残念ながら僕達『眷属』でもあったことはないです。」

「じゃああの神社はいったい何を祀っているんでしょう?」

「多分、僕らの大先輩でしょうね」


 はて?


「どういう事ですか?」

「歴史に名を残している人物や、伝承は僕達のような悪魔の契約者達が関わっているものが多いんですよ。」

「つまり魔術保持者アーツ・ホルダーだったと?」

「その当時は別の名前で呼ばれていたでしょうね。実際、僕等のような存在を『魔術保持者アーツ・ホルダー』という名前で呼び始めたのはせいぜい20年程前だそうです。認識阻害が一般化したのもその頃ですよ。」


 それ以前は「異常」が一般人に目撃されたりもして大変だったとか と先輩は言う。


「つまり大昔に『悪魔』と契約して異能力を得た人たちが、『神様』になったと?」

「まぁすべてではないでしょうが、その可能性は大いにあります。言ったでしょう?昔は『魂』まで契約対価になったことがあると。当然もっと大きな力を手にしたことでしょうし、知らない人から見たら神様のように見えるでしょうね。」


 そこで先輩が あぁ と何かを思い出したように言った。


「そういえば、そうでした。その頃には『悪魔』側が契約者になる側に不利になることを、意図的に伝えないで契約させるという事があったそうです。ですが、そういった不利な契約、騙して結ばせた契約はそれを契約者に糾弾されたところ無効になったとか。悪魔たちにもその原因はわかっていないそうなので、もしかしたら、それは『神様の仕業』なのかもしれませんね。」


 なるほど。それは面白い見方だった。


「『神頼み』しておきますか?僕達の大先輩のご利益があるかもしれませんよ。」

「......やめておきます。仮にも『悪魔』の眷属なので」


 そうでした と先輩が笑った。


 ______________________


 ぶらぶらと散策していたが、そろそろ時間が近くなったので移動する。

予測されているポイントは、少し観光地から離れたエリアだったので、こちらは人通りも少なくなっている。


 アウラを出して探知サーチをしながら歩き回っていく。

 今の所静かなものだった。


「...いつもいつ『出る』のかわからないから緊張します。」

「今はいいですが、その内リラックスして待つことに慣れた方がいいですよ。でないと、実際に出現したときに 疲れて戦えなくなります。大丈夫です。なにかあったら僕が何とかします。」

「...そうですよね。頭ではわかってるつもりなんですけど。」


 そのうち、自分で何とかできるようになったら、たぶん大丈夫になりますよ。

そう青葉先輩は励ましてくれる。そうなのだ。何が出ても、自分だけでどうにもできないからずっと焦りが消えないのかもしれない。


「自分の限定魔術リミテッド・アーツが早く知りたいです。」

「気持ちはわかりますよ。僕は自分の限定魔術リミテッド・アーツがわかるまでに一カ月近くかかりましたから。」

「そんなに ですか...。」


 ちょっと気落ちした僕に対して、先輩がフォローしてくれる。


「いえ、実際の所、僕の場合は最低限の限定条件を満たすのに時間がかかっただけです。普通はどこかのタイミングで、無意識に魔術アーツが発動します。ちなみに全然判明しない場合は、『協会』に依頼をすればヒントは得られます。」

「......それはどうやって?」

「...どうなんでしょう?魔術アーツなのか、うちの部室と同じように魔術保持者アーツ・ホルダーが作った産物があるのか、詳しくは知りません。あくまでヒント程度しかわからないそうで、能力の全てを把握する方法は現状存在しません。」


 もし本当に見当がつかなかったら依頼しよう と頭の中で思った。


そんなことを考えていたとき探知サーチに反応が出た。

......だがこれは?いつもと少し違う感覚に戸惑う。


「「南西250メートルに反応が出ました~」」


アウラ達はピョコピョコと空中で跳ねながら歌うように報告してくれる。


「先輩、この感覚はいったい......。」

「......多分見ればわかりますよ。行きましょう。」

「はい!」


そう言って走り出す。

 250Mなら案外と近い。起動状態にならなくても、身体強化を身に着けだしたおかげか大分早く走れるようになっていた。30秒ほどでたどり着く。


息を呑んだ。


―――多い。


 見える限りで既に4人が襲われているがそれ以外に、まだ4~5体は宙に浮いている。

 宙に浮いている方は獲物が居ないのかふわふわと周回しているだけだった。


起動アウェイク


青葉先輩が、冷静に起動する。呆けていた僕は慌てて唱える。


「...起動アウェイク


 しかしどうしたものか。数が多い。ターゲットを引っ張っても時間がかかりそうだ。どうしたものかと思って先輩を見た。すると先輩が口を開く。


「......やむを得ませんね。伊吹君には申し訳ないですが、僕の魔術アーツを使います。一掃するのでそこで見ていてもらえますか。」


「......はい。」


そう言うと先輩は少し前に出た。


見ているように言われた僕は下がって、目に魔力を集中させた。


先輩が、魔力を集中させだす。魔力に鈍色にびいろ臙脂色えんじいろが混ざり合っていく。


一定迄、魔力が高まった所で先輩が構えた。


――――――が出現した。


 そのまま、ポーズをとっていく。


「......


その言葉と共に高まっていた魔力が、一気に先輩に圧縮されていく。


一瞬、閃光が走るとそこには・・・どこかで見たようなヒーローが出現した。


仮面で分からないが、先輩がちらりとこちらを見て頷いた。


そのまま前方に駆け出す。


――――――速い。


身体強化なんか目じゃないぐらいの速度で、距離を詰めていく。

次の瞬間、4人を襲っていた妖魔四体が苦鳴を上げた。


どうやら一気に、一撃ずつ入れたようだ。

先輩は解放された4名を、受け止めて寝かせている。


 弾き飛ばされた4体と、漂っていた5体の計9体が先輩を敵だと見定めたらしく、

一斉に向かっていく。


突撃にあった先輩は、冷静に構えている。

激突の瞬間、61


先輩はさらにそのまま追撃していく。

残る2体はさらに1撃づつで消滅する。


最後の1体は空中に弾き飛ばされていたが、ジャンプして追い詰める。

空中で蹴りを入れその妖魔も破裂した。


そのまま僕の目の前に着地する。


時間にして僅か20秒の早業だった。


「......解除」


そういうと先輩の変身は解除された。


お互い無言で見つめあう。

今回は初めて先輩が先に、目をそらした。

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