第22話 協同<教導

 最初の巡回エリアは、駅回りだったので早々に巡回を開始した。

青葉先輩が僕に聞いてくる。


下級妖魔フローターと戦った感想はどうでしたか?」

「...正直あっという間で、手ごたえが無かったです。」


 そういえば一撃で終わったんでしたね と先輩が苦笑した。


「まぁ下級妖魔フローター相手なら、倒れるまで攻撃を繰り返せば、そのうち倒せます。ただこれだと倒すまで起動状態を維持することになるので、効率が悪いです。なるべく効果的にダメージを与えることが必要です。」


「効果的に ですか。」


「ええ。伊吹君もわかると思いますが、下級妖魔フローターは名前の通り常に浮遊しています。言わば、風船を殴りつけるようなものです。ただ殴るだけではほとんど効果は見込めないので、何か対策を講じる必要があります。」


「...どうすればいいんですか?」


「そうですね。大まかに2つです。『攻撃の威力を上げる』か『妖魔の性質を利用する』という方法です。攻撃の方は基本的には魔力操作ですね。イメージを作り上げて魔力で強化します。

 基本的に下級妖魔フローター。ですが、物体の存在を無視して透過することなども同じようにできません。この性質をうまく利用して壁や地面などを使って、威力の逃げ場を無くすことで、与えた衝撃が分散されずに全てダメージになります。」


 舞姫くんが地面に叩き付けるように言ったのはこの性質を利用するためですよ という。


「じゃあ、なるべく壁や地面に叩き付ける事を意識して戦えばいいということですか?」


「そうですね。ただ勢いあまって壁を壊さないように気を付けてくださいね。妖魔の体を通しては衝撃は伝わりませんが、僕らの体が直接当たればその限りではありませんから。」


 ケガもしますしね と先輩は笑った。


「威力を上げる方は、ちょっとコツがいります。伊吹君は先日『壁のぼり』をやったそうですね?」

「えぇ。まだタメには時間がかかりますけど...。」

「それはこれから慣れてくれば大丈夫です。その時、『跳ねる』事を意識して魔力を操作したと思います。」

「...そうです。」


「ではここで伊吹君に問題です。『強い』攻撃って何ですか?」


 ...それは と考えて僕は、はたと答えに詰まった。

 青葉先輩が笑う。


「そうです。『強い』というのは一つじゃありません。『鋭い』なのか、『重い』なのか『早い』なのか。

 はたまた『衝撃インパクト』が強くても、それも強い攻撃です。逆に、ただ漠然とした『強い攻撃』をイメージしても効果は薄いです。いろいろ試しながら伊吹君に合った方法を探っていくことになります。」


 そういった瞬間、探知サーチに反応が引っかかった。


「「400m東に反応出ました~」」


「...では実験を始めましょうか」


 僕らは走り出した。


 ______________



 大通りから一本曲がった通りに入る。


―――――見つけた。


 今回は3体の様だ。すでに捕食中である。



「「起動アウェイク!」」



 先輩と僕は起動状態で駆けつける。

 青葉先輩がそのまま跳び上がり、左に居た2体に一撃づつ攻撃を入れた。


「伊吹君は右の一体に!捕食中なので一撃入れるだけで!」


 言われた通り、捕食中の人に当たらないように一撃を入れる。

 妖魔が捕食を中断して吐き出す。

 怒りの吠え声を上げてこちらを見る。


「そのまま一度、殴り飛ばしておいてください。」


 青葉先輩から指示が飛ぶので、言われた通り追いはらった。


「じゃあちょっと僕の戦い方を『視』ていてください。さっきのが戻ってきたら追いやって結構です。」


 先輩が2体と対峙する。妖魔がそれぞれ突撃していく。

 僕は目に魔力を集めてそれを視ていた。


 先輩が、先に突撃した妖魔に向けて、拳を構えた。

 そして自分から一気に距離を詰め、突っ込んでくる下級妖魔フローターにカウンターの一撃を放つ。


 拳が突き刺さる瞬間、文字通り妖魔が

 魔力が槍のように突き刺さり、押し潰しているのが見える。

 弾ける様に飛ばされた妖魔が、そのまま壁に激突し跳ね上がっていく。


 その間に到達したもう一体をすかさず、左手で鷲掴みして地面に叩き付ける。

 そのまま左手で地面に押さえつけ、右手を振りかぶる。


 ギリギリと魔力が腕に集まるのが視えた。

 そして限界まで引き絞られた右腕が、杭打機パイルドライバーのように押さえつけた妖魔に叩き込まれる。

 続けてもう一発、攻撃を叩き込まれた妖魔が限界を迎えたように破裂し消滅した。


 先ほど弾き飛ばした妖魔が戻ってくる と同時に先輩は立ち上がって蹴りを放つ。

 またしても壁にたたきつけられた妖魔が、跳ね返ってくる所に今度は拳が叩き込まれた。


 2体目の妖魔もあっけなくそのまま消滅した。


 ここで僕のところに、僕が飛ばした妖魔が戻ってくる。僕はまたとりあえず弾き飛ばしておいた。

 吠えながらくるくると飛んでいく。


 青葉先輩が振り返る。


「...どうでしたか?視えました?」

「......ええ。すごかったです。」


 先輩が、ありがとうございます と笑う。


「じゃあ、今度は実践です。あの妖魔を実験台に伊吹君がイメージをした一撃をぶつけてみてください。」


 イメージをする。先ほど先輩が最初に加えた一撃。妖魔をひしゃげさせた攻撃をトレースする。

 『重く、鋭い』攻撃。右手に力を集める。


 そして戻ってきた妖魔に向けて放った。

 __当たった。だが違和感がすごい。

殴り始めた瞬間から腕の全てが重く、速度がまったく乗らなかった。


「...『重量』を乗せるときは常時イメージしていると、速度が乗りません。殴る瞬間に重さを乗せるイメージでそれまでは速度を意識してください。拳を握りこむ動作でタイミングを取ると付加しやすいですよ。」


 後ろから視ていた青葉先輩がアドバイスを飛ばしてくれる。

 軽く構えて、速度を重視したイメージを使って体を動かす。先ほどと違い動きの鋭さが上がった。


 三度、舞い戻ってきた妖魔に向けて構える。引き付けて殴りつける。殴る瞬間に手を握りこみ『重量』を付加する。


 ドゴン っと鈍い音がして妖魔が弾け飛ぶ。さっきよりは手ごたえがあったが、イメージした攻撃にはならなかった。


「...イメージ通りにいかないです。さっきの先輩の攻撃を参考にしたんですけど。」

「見たところ、『重量』がちょっと伊吹君とは相性が悪そうですね。『速度』は問題なさそうです。『貫通』や『衝撃』などのイメージで、試してみましょうか。」


 とりあえず次は、「貫通」で試すことにした。


 戻ってきた妖魔に向けて、構えた。速度を乗せて突く。

 と同時に妖魔が破裂した。


「あ」

「あ」


 ...手ごたえも何もなく、当たった瞬間に破裂してしまったので上手くいったのかどうかもわからなかった。



「......まぁとりあえず討伐完了です。お疲れ様でした。」

「...はい。とりあえず、倒れてる人の回復だけします。」

「お願いします。」


 そうして先輩と手分けして3人を「再起レイズ」した。


「「停止アスリープ」」


 先輩が気を取り直したように言う。


「とりあえず下級妖魔フローター相手の戦いは問題ないですね。イメージの付与も上手にできています。

 後は得意な付与を見つけ出して、そのイメージを強化していくのがおすすめです。」

「先輩はどんなイメージをしているんですか?」

「僕は、『速度』、『硬化』、『貫通』などを鎧や槍のイメージで補強しています。逆に、『重量』や『衝撃』などは苦手ですね。イメージ強化は動作と関連付けるのがいいですよ。」


 さっきのような拳を握りこむ動作や、腕を引く動作と合わせるのがいいですね といった。



「さっきの戦い方も流れるようで、すごかったです。」

「僕の限定魔術リミテッド・アーツは近接系の魔術アーツですから。ああいう戦い方はそれもあってのことですよ。」

「...そういえば先輩はさっきの戦いで、限定魔術リミテッド・アーツを使ってたんですか?」

「...いいえ。僕の魔術アーツはちょっと制限も多いので。基本的に2~3体の時は身体強化のみで対応してます。」

「それであれだけスムーズに戦えるんですね...」



 最上先輩の魔術アーツの使い方も見惚れるほどだったが、青葉先輩の体術も素晴らしかった。

あれだけの動きをしていながら、まだ限定魔術リミテッド・アーツも使っていないなんて と僕はひとしきり感心していた。

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