第20話 未知>既知

 早々に2件目の予測の対応が終了してしまったので、若干手持ち無沙汰になってしまった。

 3件目の予測はここからほど近い市街地なので30分もかからず移動できるが、予測時間まで3時間ほどあるのだ。

 夕飯を先に食べてから向かう事にしたが、それでも時間は余るので今は時間つぶしにウィンドウショッピングをしていた。


「...伊吹くんの原点オリジンはどう?見つかりそう?」

「それがなかなか思いあたる事がなくて。子供の頃に何か憧れたものって思いつかないんですよね。」

「そうね。流石になにかとっかかりがないと、限定魔術リミテッド・アーツは見つからないでしょうね。」


 逆にひとつわかるとそこから応用はしやすいんだけどね という。


「最上先輩は魔法ですよね。魔法使いとか魔女とかそういうのが好きだったんですか?」

「......そうね。そうよ。」


 先輩がこちらに目を合わせず言う。


「...間違ってたらすみません。こういう事、聞いてもいいのかわからないんですけど...」

「............何かしら。」


 若干、返事まで間があった。声も若干固い気がする。


「...先輩の限定条件の一つって『杖を持つ』だったりしませんか?」

「...そうよ。」


 なぜか先輩はほっとしたようだった。


「魔法使いなんでそれっぽいなと思って。思い返したら、魔術アーツを使うとき、常にペンを持ってたことを思い出してそれで気が付きました。」

「...まぁ、ペンに限らず棒状の物なら大抵は代用可能よ。今どき魔法使いの杖なんて存在しないしね。」


 子供のころ、木の棒とかを杖とか剣にしてごっこ遊びしたでしょう? 

 文房具店で店先のペンをくるくると回しながら先輩が言った。


「モチーフに気が付けばそういう視点も持てるから。もし保持者ホルダー相手に戦う事になったりしたら、そういう気づきが突破口になることになるわ。逆に私は杖がなくなると魔術アーツが使えなくなるって弱点を抱えてることになる。だから気軽に限定条件を明かすと不利になるのよ。」


 妖魔相手だけなら気にすることもないけどね と


「そうですね。じゃあ、僕も先輩の限定条件は死んでも話しません。」

「そこまで、覚悟する事でもないわ。死ぬくらいなら話しなさい。」


 と言って笑う。そしてふと思い出したかのように言った。


「そういえば伊吹くん。さっき私の魔力の色が見えてたわよね。自分の色は何色だったの?」


「...青 に近い色でした。」

「...青ね。...となると氷とか水とか?そういう何かに心当たりは?」

「う~ん......。ぱっとは思いつかないです。それに...。」

「...それに?」

「...僕の魔力の色合い、先輩の色みたいに明確な色じゃなくて、なんというか濃淡というか光沢というか、そういうのがあったような気がして。」


 ふ~ん と先輩は思案顔になった。


「色がわかるなら、参考になるかと思ったんだけど、そう簡単じゃなさそうね。」


「...そうですね。すみません。」


 _________________________


 夕飯は手近なファストフードで手早く済ませて、3つ目の予測地域で巡回を始めた。昼間よりは人通りも少なくなり、歩きやすい。


 エリアの中を行ったり来たりを繰り返していたが、今の所、特に反応は見つからなかった。


「...なかなか出ませんね。」

「そうね。まぁ出ないことももちろんあるから。ただ、今回はここの予測が一番出る可能性が高いの。たぶんその内、反応が出るから地道に行きましょう。」


 先輩がそういったとたんに反応が出た。


「「北東200mに反応が出ました~」」


「...こういうのがフラグっていうんでしょうか。」

「まぁでも近くに出たわ。行きましょう。」


 そういって走り出す。


 2ブロック程移動した後、細い路地に入る。

 反応はまだ消えていない。


 すぐ先の曲がり角を曲がる。



 ――居た。


 この前見たものと見た目はそっくりだ。数は2つ。


 1つはすでに捕食中で、もう1つはまさに襲い掛かる寸前だった。


起動アウェイク!」


 すかさず最上先輩が起動して、石の礫を発射する。

それぞれに命中し、2体とも苦痛の声を上げた。


 捕食中の方は人がズルリと滑り落ちた。


「伊吹くん。大丈夫だから落ち着いて。先ずは起動状態になりなさい。」


 最上先輩が冷静に僕に言った。僕は我に返って起動する。



起動アウェイク


 食事を邪魔された妖魔2体が、苛立った様にこちらを見るのがわかる。

 吠え声をあげてこちらに向かってきた。


 僕の心臓が早鐘を撃つ。


「まずは冷静に。動きをよく見て。下級妖魔フローターは一直線にしか突っ込んでこないから、回避するのも戦うのも簡単よ。」


 最上先輩がいう。言いながら、動きの速い方に向けて「杖」を向ける。


 すると杖の先に「雷球」が産まれた。そのままチャージするかのように雷球が大きくなり、ある程度妖魔をひきつけた所で先輩が撃ち放つ。


 突っ込んできていた妖魔は回避するでもなく、そのままもろに食らってはじけ飛んだ。そのまま空気の抜けるような音とともに消滅する。


「...ほらね?大丈夫でしょう?それにもう一体もほら。」


 いいながら、指し示す。


 突っ込んできているのだが、いかんせん


ふわ~ッという感じで近づいてくるのに、吠えているのがシュールだった。


下級妖魔フローターは仲間がやられても、絶対に逃げたりしないのよ。行動も突撃のワンパターンだから対応も簡単。試しに殴ってみなさい。」


「...わかりました。」


 いまだに突っ込んでくる途中の妖魔をおもむろに殴りつけた。警戒したが、感触は風船を殴るような感覚だった。妖魔がくるくると路地の奥まで飛んでいく。そのまま吠え声をあげて戻ってくるようだ。


「ご覧の通り、現れたが最後、捕食が完了するまで絶対に消えたり逃げたりしないし、攻撃されると延々と反撃をしてくるの。だからまずは最初に妖魔に一撃入れて、それから冷静に個別に対応すればいい。これが下級妖魔フローターに対する基本対応よ。」


 奥から吠え声が響く。徐々に戻ってきているようだ。


「ちなみに攻撃も噛みついて捕食しようとしてくるだけだから。試しにあれが戻ってきたら手でも食べさせてみて。」


「...わかりました。」


 戻ってきた妖魔が、再度僕に噛みつこうとする。僕がそっと右手を差し出すと、大口を開けて噛みついた。


 ......なんだかちょっとチクチクする。


「...なんですかこれ。」

「魔力を捕食しようとしてるのよ。ただ起動状態だと鎧のようになってるから通常ならほとんど効果はないわ。」


 とりあえずそのまま地面に魔力を込めて叩きつけて というのでやってみた。

 そのままはじける音がして、消滅する。あっけなかった。


「...はい。初討伐おめでとう。」


 ...何とも言えない気分だった。

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