第19話 活動=行動
そのあと1時間ぐらいうろうろしていたが、ついぞ妖魔の気配は現れることもなく、いったん休憩することになった。
手近なオープンテラスのカフェに入る。オフィス街でGWの初日ということもあってか、若干すいていた。
「...どう?疲れた?」
と先輩に聞かれる。
「...そうですね。とりあえず妖魔が出てこなかったのでそれは良かったです。」
「まぁこんなものよ。だからそんなにずっと緊張していなくても大丈夫よ。」
と最上先輩は言う。
どうやら僕が、ずっとドキドキしていたのは、気づかれていたようだ。
「今日は3か所だけど可能性の高い候補は最後の1つだけだから、それ以外はいるかいないかわからないわ。」
「...そうですか。」
「やっぱり怖い?」
「...どうでしょう。よくわからないです。」
正直な所、出くわしてみないと僕もどうなるかわからなかった。
「まぁ少なくとも今日中に一回ぐらいは見つかるでしょうし、それでどう感じるかね。正直『
「僕がアレに対抗できるんですか?」
「落ち着いて対処できればね。まぁそれは出てきたときに考えましょうか。」
15分位休憩したところで、再度出発した。
今度は沿岸の繁華街エリアを目指す。
「...ゴールデンウイークだからか、こっちは人出が多いわね。」
「そうですね。ちょっと歩きづらいです。」
人ごみを避けながら歩いていたその時、かすかに首筋にゾワッとした感覚がした。
「?」
立ち止まってキョロキョロと辺りを見渡したが、特に何もおかしなものは無い。
「どうかした?」
「いえ...ちょっと...多分気のせいです。」
何だったんだろうか。とその時アウラが叫んだ。
「「600m南東方向に反応があります~。」」
それと同時にアウラを介してかすかな反応が伝わってきた。
「...先輩、これって。」
「そう。妖魔ね。この反応の微弱さからいって
緊張した僕に対して、先輩は少し困った顔をした。
「...何でもないわ。急ぎましょうか。」
「はい!」
そういうと僕らは人ごみを縫うように、反応の方向に急いで向かった。
だが反応まで後100mという所で、今まで感じていた反応が消失した。
「先輩、反応が...」
僕が戸惑って聞くと、最上先輩はため息をついて言った。
「やっぱり間に合わないか。人混みなのと距離が遠かったからね。仕方ないわ、被害者の人を探しましょう。」
そういうと小走りでの移動をやめて歩き出した。
「アウラ、最後の反応の地点までナビをお願い。」
「かしこまりました~。」
先輩がこちらを見て歩きながら言う。
「...まぁこういうこともあるの。アレが出てくる兆候をとらえられれば良かったんだけど、多分今回は1体だから。反応も弱かったでしょう?こういう時は偶々近くに出現しないと間に合わないのよ。」
「...だからさっき困った顔をしたんですか?」
「そう。距離的に間に合わないのがわかってたから。あんな人込みで起動して突っ込んでくわけにもいかないしね。」
アウラが少し方向を変えた。赤いレンガの建物の方に歩く。
「まぁとりあえずこのまま行ってみましょう。多分、食べられた人がいるわ。」
被害者はすぐに見つかった。道の片端に倒れている人がいたが、周りの人間は奇妙にその場所を避けて通っていた。倒れていたのは、若い男性だった。
「...なんで他の人はあの人に気が付かないんですか?」
「妖魔が人払いをしたのと、あの人の生命力が下がったせいで認識されにくくなっているのよ。簡易的な認識阻害ね。」
言いながらその人に近づく。
「さてと、残念ながら今回妖魔は倒せなかったけれど、少なくともこの被害者の人を少しは助けられるわ。とりあえず起動しましょうか。『
最上先輩が起動状態になったので僕も合わせて起動させた。
「この前やった魔力操作の応用よ。目に魔力を集中させてみて。遠くを見るんじゃなくて魔力の流れを見るの。」
いわれるがままに目に魔力を集める。魔力の流れをを見る。
するとぼんやりと体を覆う流れが見えてきた。ピントを合わせるようにはっきりと魔力が見えるようにイメージしていく。だんだんと流れがぼやけたイメージから実体を持って見えるようになってきた。
「見えてきました。それで次はどうすれば?」
「...この倒れている人の魔力と、周りにいる人たちの魔力との違いは何?」
いわれて見比べる。周りを歩いている人と、倒れている人。色は白みがかった色なのは共通だが、倒れている人の方が若干薄い色をしていた。あと確かに魔力の層が薄い。よく見ると所々に痕が残っている。
「...倒れている人の方が、魔力の色が薄いです。あとは量が少なくて、体に所々傷跡のようなものがあります。」
「...傷跡?」
「ええ。いくつか。嚙み痕みたいなのが点々と。」
...驚いた と最上先輩がポツリと言う。
「なにがですか?」
「伊吹くん、あなた『目』が良いのね。そこまで魔力が明確に見えてるなんて。」
「...先輩には見えないんですか?」
「傷跡までは正確に見えないわ。精々魔力が枯渇しているのが見えるだけ。」
「そうなんですか。」
言いながら何の気なしに最上先輩を見た。
起動状態なので周りの人の十数倍は魔力の層が見える。
「...先輩の魔力は綺麗ですね。黄色とか橙色とかがまじりあって。」
思わず口に出してほめてしまった。言ってからしまったと思ったが口に出してしまったのでもう遅い。
最上先輩も、僕の言葉を聞いて固まっている。やっぱり、いきなりそういう事をほめるのは間違いだっただろうか。
「......伊吹くん。あまり人の魔力をじろじろ見るのは感心しないわ。マナー的にもね。」
「...すみません、つい。思わず口をついて出てしまいました。」
「まぁ初めてだからね。仕方ないわ。今後は人前で他人の魔力について口に出してはだめよ。」
最上先輩が妙に棒読みの上、こちらを見ずに注意してきた。
やっぱりマナー違反だったようだ。気を付けよう。
「......魔力の属性までわかるなんて、ほんとにいい目をしてるのね。」
先輩がボソッと呟いた。そして一つ咳ばらいをして気を取り直したように説明を再開した。
「さてと、説明の続きね。見ての通りこの人は周りの人に比べて生命力が低い状態にあるの。だから見ての通り意識のない状態にある。この人をを起こすには、時間経過で回復を待つか、外から生命力を補充して起こすかの2つの方法があるわ。」
「なるほど。」
「時間経過ならそうね、この程度なら2~3時間で気が付くわ。だから私たちが何もしないでここから立ち去ったとしても、その内この人は勝手に起きるの。ただ私たちも応急処置ぐらいなら、魔力が見えれば誰でもできるから。だから一応救護はするわ。見ててね。」
そういうと男性の腹部に手を添える。
「
先輩の手のひらから、白い光が発せられた。すると徐々に男性の方の生命力が強まっていく。
一定迄強くなったところで、男性が起き上がりだした。表情はぼんやりしたままだが、立ち上がって歩き出す。
「...こんな感じ。実際この『
...わかった?と聞かれたので頷いた。
「まぁこんな所ね。感想は?」
「...襲われる前に何とかしたかったです。」
「...そうね。ほんとはそれが一番いいけれど、取り逃がすことも多いから気負わないで。それに次出てくるまでには最低でも1週間はかかるから、それまではいくらここで待っていてもさっきの人を襲った妖魔は倒せないわ。」
次はちゃんと間に合うといいわね と先輩は言った。
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