第10話 契約=盟約

「では、『契約』に入りましょうか。伊吹君、準備はいいですか?」

「......準備って何をすればいいんですか?

「う~ん...何をといっても難しいんですが、強いて言うなら『覚悟』をしてください。」


 と青葉先輩が言った。


「契約については、特に難しいことはありません。この後『愉悦大公ゆえつたいこう』と対面しますので、聞かれたことに答えて意志をしめしてください。」

「...わかりました。」


 ちょっとドキドキしてきた。


 じゃあ誰が呼びますか?と振り返る。

...なんだろう。ちょっと妙な雰囲気だ。最上先輩は首を振って少し下がった。

 乗り気だった亜子先輩も微妙な雰囲気だ。青葉先輩も少し困った顔をしている。


「仕方ありません。じゃあ僕が...。」

「いや...私がやろう。」


 亜子先輩がため息をついた。

 一つ咳ばらいをして前に出た。


「アウラ、『愉悦大公』へ接続コンタクト。『愉悦の眷属』ノトアコより『愉悦大公』へ。盟約に従い新たなる眷属との契約の儀を願う。」

「申請は受諾されました~。『愉悦大公』が現界します~。」


 アウラが明るい声で発した直後、アウラを中心にサークルが生まれた。

 そしてアウラの体が強く光った次の瞬間、人影が現れた。


 見た目は、180cm位の偉丈夫だ。

 整った顔をしているが頭の横に角が生えているので、明らかに人間ではない。

 なにより、僕の人間としての本能のようなものが告げている。

 目の前のモノから伝わってくるプレッシャーが同じ生き物ではないと。


 これが『愉悦大公』。これが悪魔か。


 そんなプレッシャーを発している大公は、無言でぐるりと見回すと、

 


「......は?」


 いけない。あまりに衝撃的な光景に間抜けな声が漏れた。


 亜子先輩も一瞬固まったがすぐに、『愉悦大公』の腕を払いのける。顔が若干赤い。

 青葉先輩は予想していたかのように顔をそらしているし、最上先輩は自分の体をガードしながらさらに一歩下がった。


 腕を払いのけられた「大公」はふむ。と頷くといった。


「......羞恥の悪感情。非常に結構。実に素晴らしい。」

「...さっさと契約を済ませて帰ってくれ、『愉悦大公』」

「ふむ、汝は素直な感情を発露する。実にいい眷属よ。では、盟約を果たそう。」


 ぐるりとこちらに振り替えるとずいっとこちらに近づいた。

 後ろではキレた亜子先輩が大公の背中に蹴りを入れているが、びくともしていない。


「...汝が契約を望むものか?」

「......はい。」

「では、確認するとしよう。」


 そういうと僕の目を覗き込んだ。

 赤い切れ長の目と視線が合った。


 頭の中にゾワゾワとした感覚が入り込み、僕の記憶...「魂」を覗き込んでいるのがわかる。

 そしてなにかが引き抜かれるような感覚と共に、『愉悦大公』が外に出て行ったのもわかった。


「問題ない。実にいい魂だ、イブキユキヒト。」


 『愉悦大公』が一歩下がった


「では、契約を始めるとしよう。」


 大公が腕を振ると、床になにやら円が浮かび上がってきた。

 明らかにそれまでとは空気が変わった。


「汝、イブキユキヒト。我、魔帝七公が一柱。『愉悦』を司るものとの契約を望むか?」

「...はい。」


 返事をすると、僕と大公の間に薄い光の線が繋がり始めた。


「汝が欲するは、力。対価は己が感情。汝、手に入れし力を己が意志で振るうことを誓うか。」

「はい。」


「汝、盟約の果たされるその日まで我が眷族となり、力を振るう。その覚悟はあるか。」

「はい!」


「汝の意志は聞き届けた。盟約に従い、我の力を彼の者に貸し与えんとす。」


 繋がった線を通じて僕の中に、何かが流れ込んでくるのがわかる。と同時に魂の底から光がひとつ上ってきた。


 光のあった場所に流れ込んだ力が集まり、眠りについた。それと同時に僕の胸から光が飛び出した。


「契約は為された。願わくは盟約の果たされんことを。新たなる我が眷族よ。」


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