第9話 覚悟≡決意


 先輩は僕に午後の予定を尋ねて、空いていることを確認するとお昼がてら話をしないかと誘ってきた。

構わないので涼に断りだけ入れて別れた。涼は若干フリーズしたままだった。


 講義棟を出た後、生協によってランチセットを5人分と飲み物を購入した。

買い物の後、先輩がアウラを呼び出し今は学生棟に向かって歩いている。


 どこに向かうのか聞いたところ、学生棟にある一室でお昼にするということでそこに向かうらしい。

僕はサークル活動には縁のない生活を送っていたので正直この棟に来たのは初めてだ。

 先輩は階段で3階まで上がると突き当りの角部屋のドアをノックした。

そのまま入っていくので続いて先輩に続いて部屋に入る。


 ちらっとドアを見た時に、「オカルト研究会」というプレートの上に「行動心理学研究会」というプレートが重ねてあるのが見えた。


 中には先客が2人いた。

 一人は最上先輩で、もう一人は知らない先輩だった。

活動的な雰囲気の女性で、興味津々といった感じでこちらを見ている。

 青葉先輩が口を開く。


「会長、遅くなりました。」

「いや、大丈夫だ。こんな面白い事久々だからな。いつ来るかと思ってワクワクしてた。」


 そうですか。と先輩が苦笑する。


 とりあえずお昼にしましょうかと言って運んできたものを机の上に並べた。

今日のお昼はサーモンとクリームチーズのバゲットサンドだった。


 最上先輩がお礼を言って受け取り、青葉先輩が僕の前にも配ってくれた。お礼を言って受け取る。

ちなみに会長さんは2食分持って行った。

 いただきます と食べ始めた。会長さんはハイペースに1食目を食べ終えると、2食目も同じ速度で食べ終えていた。


 ちなみにまだ僕は3分の2ほど、最上先輩はまだ半分ほどしか食べおえていない。

 先に食べ終えた会長さんが実にうずうずとした顔でこちらを見てきているのが分かる。正直食べずらい。


 青葉先輩が呆れたように口を開いた。


「......会長。気持ちは分かりますが、伊吹君が困ってます。落ち着いてください。」

「すまん。わかってはいるが2日も待ったんだ。これ以上私の好奇心が抑えきれない。」

「どうせ急いだところで5分ぐらいでしょう。それぐらいは我慢してください。子供ですか。」


 少なくとも食べている最中の人を、じろじろ見るのは失礼ですよと窘められて、反省したらしく窓の外を見始めた。


 視線はなくなったが、意識がこっちに向いているのはよくわかる。

 青葉先輩がため息をついて、すみませんね と謝るので、僕は いえいえと首を振った。


 そうして5分ほどで皆が食べ終えると、青葉先輩がごみをまとめて捨てに行き、コーヒーを人数分準備して帰ってきた。

 何から何まで至れり尽くせりだった。


 落ち着いたところで青葉先輩が口火を切った


「...さてと、まずは伊吹君。先週末はよく休めましたか?」

「えぇ、大丈夫でした。お気遣いありがとうございます。」


 それは良かった とほほ笑んだ。


「先週話したことはどうですか?その後何か聞きたいことなどありますか?」

「......特には大丈夫です。」

「では伊吹君。端的に聞きます。君はどうしたいですか?」


 言いながら、先輩はもう僕がなんて答えるつもりかわかっているようだった。


「......契約します。僕を『愉悦の眷属』に参加させてください。」



「......いよっっっしゃーーーー!!!」



 僕が答えるのと、ほぼ同時に会長さんがガッツポーズで雄たけびを上げた。

 正直結構ビックリした。


 青葉先輩と最上先輩がそろってため息をついた。

 うすうすわかってきたが、どうやら会長さんは大分子供っぽいこまった人の様だ。


 青葉先輩が気を取り直して咳払いを一つした。


「ありがとう。これからよろしく。伊吹君。」

「......こちらこそよろしくお願いします。青葉先輩、最上先輩。あと...ええっと...。」

「私か?私は、行動心理学研究会の現会長 文学部4年の能登ノト 亜子アコだ!亜子先輩と呼んでくれ。」

「......亜子先輩。よろしくお願いします。」


 呼びたくなければ、会長でいいですよと青葉先輩がそっと耳打ちした。


「よし!どうする!とりあえずは『契約』か?『契約』だな!すぐに『愉悦』を呼び出そう!」

「落ち着いてください会長。まずは説明が先です。」


 おぉ、そうかと亜子先輩がおとなしくなった。


「まずはここだな。ここは行動心理研究会。まぁぶっちゃけてしまえば、我ら『愉悦の眷属』のダミーサークルだ。活動実態はない。」


 すごいぶっちゃけだった。


「因みに何代か前に所属していた魔術保持者アーツ・ホルダー魔術アーツで他の人間にダミーということは気付かれなくなっている。

 それまでは大学側に毎年活動報告をしたりと大分面倒だったようだが、今は特に何もしなくてもこの部屋の維持が可能だ。」


 なので好きに使っていいぞとの事。

青葉先輩が口を開いた。


「次に僕らの『眷属』としての活動です。頻度は大体週に1~2回程。街中を巡回。妖魔の討伐にあたっています。以前も説明しましたが、これは完全に任意ですので参加は自由です。」


 因みにですが、と前置きして


「以前はあえて説明しませんでしたが、活動に参加すると報酬がでます。これは報酬目当てで契約する ということが無い様に、本人の契約の意志を確認してから伝えています。時給で3千円ほど。妖魔討伐でボーナスがあります。」


 ...眷属、結構な高待遇だった。


「また契約者になった場合、常時の魔力消費と引き換えに、身体機能が若干向上します。傷の直りが早くなったり、風邪をひきにくくなったりですね。運動能力も少しだけ向上します。」


 この辺りは訓練でコントロールできます。との事。

 ...体調管理まで出来るとは何とも...


 便利でしょう?と青葉先輩が苦笑気味に言った。


「長年をかけて、悪魔達は人間と契約しやすい環境を構築することに、力を入れてきました。結果、現代の契約者は基本的に至れり尽くせり状態なんです。」


 それに と続ける。


「適合者と呼ばれる人間は総じて「感情因子エンパシウム」が強い人間なのです。自分の感情に振り回されやすい人間ということです。

 契約することで、過剰分の感情因子エンパシウムを悪魔に差し出したとしても、本人は逆に助かることの方が多い。故に悪魔側が差し出す対価が、『能力の限定された魔術リミテッド・アーツ』であったとしてもつり合いが取れるというわけです。」

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