第4話 常識<非常識

 僕は今日あった事を、自分の見たままにかいつまんで説明した。


 コンビニから出たこと。前の人に続いて路地に入った事。気が付いたら化物がいたこと。化物が人を襲っていたこと。化物が自分を見たこと。死ぬかと思ったこと。

 後ろから火球が飛んできたこと。化物が倒されたこと。人に何か光を当てているのが見えたこと。死んだと思った人が、生き返って歩き去って行ったこと。


 顔を合わせられないので若干うつむき加減で、詰まりながらの説明になった。


 先輩達は黙って僕の話を聞いていた。


「......それで全部です。」

「......まずはありがとう。大体わかりました。」


  青葉さん、、青葉先輩が一息ついて笑った。


「...それで?君はどこから聞きたいですか?」

「まずこれって夢じゃないですよね?もしくは実はドッキリでしたーとか...。」


 青葉先輩がふきだした。


「違いますよ。残念ながら現実です。君が今日見たものは、幻覚や夢のような曖昧なものではなく、まぎれもなく現実リアルに起こったことです。」


 常識っていうのは、実は知らないことの方が多いものなんですよ? と笑う。


「......じゃあ一体アレは何だったんですか?」

「あれは下級妖魔フローターよ。わかりやすく言うと、低級な悪魔とか妖怪みたいなもの。」


 黙って聞いていた舞姫さん、、、最上先輩が口を開いた。


「あれは人の生命力を捕食するのよ。霊力とか精気とかそういうものをね。あなたが見たのはその捕食の最中よ」

「......あの女の人は死んだんじゃないんですか?」

「1回や2回捕食されたぐらいじゃ死なないわ。せいぜいすごく疲れた状態とか、多少体調が悪いぐらいね。1~2週間もすれば元通り。まぁ捕食の直後は気絶するから、転んで多少ケガをすることはあるけれど。」


 それはまぁどうしようもないわね と言いながらアイスティーを飲んだ。


「まぁあの状態でもほっといたら2、3時間もすれば気が付いたはずよ。私は外から霊力をちょっと補填して無理やり起こしただけ。私じゃそれ以上できないしね。」

「でもそれで大丈夫なんですか?あんな化物に襲われたのに...。トラウマになったりとか」


「その辺は大丈夫よ。そもそも普通の人間にアレは見えないのよ。見えないものは認識できない。認識できないものは覚えていないの。だからあの人は急に疲れたのを、仕事のせいだったりお酒の飲みすぎだと思ったり。自分で好きに辻褄を合わせて納得するわ。」


 人間ってそういう所は都合がよくできてるものなのよ と言い放った。


「まぁうっすらとだけど、そういうものが見えたり感じたりすることのできる人間はいるわ。霊感が強いっていう人達ね。ただはっきりとは認識できないから、影のように見えたり 何か がいると感じたり。そういう噂が積もり積もると都市伝説になったりするのよ。」


 最上先輩は一息ついて、かわりに青葉先輩が口を開いた。


「だが本当に稀にアレと、アレの起こしている現象をはっきりと認識できる人間がいます。そういう人間達を僕らは総称してと呼びます。僕達や君のような人間ですね。」


 大体100万人に1人くらいの割合、結構レアですよ と笑う。


「そうして適合者の中でさらに少ない割合で、僕らの様にアレを退治してまわる人間がいます。そういった力を持つ人間を魔術保持者アーツ・ホルダーと呼称します。」

「......アーツ?って何ですか?」

「ありていに言えば魔法です。正式には『限定魔術リミテッド・アーツ』と呼ばれる、現代に存在する奇跡の一種ですが。」


「...さっきの炎がその魔術アーツですか?」

「そう。それは舞姫君の魔術アーツです。百聞は一見に如かず。舞姫君、見せてあげて貰えませんか?」


 最上先輩は頷くとカバンからボールペンを取り出した。



起動アウェイク


 するとボールペンがうっすらと光りだした。

そして軽く振ると急に炎が飛び出してきた。


「!?」


  僕は驚いて周りを見渡した。店の中で突然炎なんか出したら騒ぎになる。

 ――はずなのに店内にいる人たちは、誰一人としてこちらを向くことはなかった。


 最上先輩はそのままひょいひょいとペンを振る。空中の火球はその動きに合わせるかのように動き回ると、最後にポンっと花火の様にはじけた。


停止アスリープ


 ペンから光が消え、最上先輩はそのままペンをカバンにしまい直した。


「ありがとう。さて見ての通り、舞姫君の魔術アーツはわかりやすいです。見たまんま魔法そのものですから。」

「......なんで誰も反応しないんですか?こんな派手な事が店の中で起きたら絶対騒ぎになります。」

「それはここで起きていることが彼らには認識できていないからよ。魔 アーツはそもそも適合者にしか認識できないし、あとはアウラのおかげで今私たちの周りに、認識阻害が発生しているから大抵の事は見過ごされるの。」


「......アウラ?」


  最上先輩は天井付近をフラフラ飛んでいる光の玉のようなものを指さす。

 最初は1つだったはずなのに気が付いたら2つに増えていた。


「この子たちよ。私たちが契約している『愉悦大公ゆえつたいこう』の眷属。精霊って言ったら理解しやすいかしら。アウラ!降りてきて。」


「「は~い」」


 光の玉がするするとテーブルまで降りてきた。よく見ると小柄なフクロウのような生き物だ。


「「はじめまして~。魔帝七公の第二席。『愉悦大公』の眷属のアウラです~」」

「...見ての通り彼らの間に個という概念はありません。すべてが同じ個体で、人格や記憶といったものは共有されている。サポート要員だ。戦闘能力は0。下級妖魔にすら対抗できないが、その代わりレーダーの様に妖魔の位置を見つけたり、近い距離なら思念での会話の補助もしてくれる。後は見た通りの認識阻害をしたりと便利な能力を持っている。」


「「そんなにほめないでください~」」


 テーブルの上でフクロウがシンクロして照れている。


「この子たちを現界させている最中は、周りの一般人からの認知度が極端に下がります。たとえ目の前で人が飛んでいたとしても違和感などは与えません。知り合いにあったとしても、自分だとは認識されません。この阻害が効かないのは適合者同士だけです。」

「...なるほど、それでさっきの現象も周りの人には認識されていないんですね。」

「というわけです。町中の店で堂々とこんな会話をしていられる理由でもあります。

 まぁ機械的な認識は完全にごまかせませんから、監視カメラなどの映像には違和感が残ります。録音などは意味のある言葉として録音されません。」


 納得した。それにしても一つ理解すると、わからない事がどんどん増えていく。


「......限定魔術リミテッド・アーツって何ですか?」

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