第5話 幻想≒現実

限定魔術リミテッド・アーツとは、個人限定で異なる能力のことです。さっき見た通り舞姫まきくんのは魔法です。僕の魔術アーツは異なる力ですね。」


「それは適合者なら誰でも使えるということですか?」


「その答えはYESであり、NOです。魔術アーツの発現には『大公』との契約が必要になります。適合者は確かに契約することが出来るから、契約さえ出来れば発現します。適合者といえど、契約前は何の力もありません。

そしてどんな魔術アーツが発現するかは誰にもわかりません。」


こればかりは運ですね。と青葉先輩がほほ笑む。


「『大公』って何ですか?」

「僕らの言葉でわかりやすく言うなら悪魔です。」


 なんと。


「厳密には精神生命体で、感情や生命のエネルギーを糧に生きている存在。とでも定義するしかないとは聞いています。まぁただこれは僕らの言葉で説明をしようとしただけで厳密には正しくはないそうです。」


「ちなみに『大公』自身は自ら悪魔だと名乗っています。

他に説明するのも面倒だって理由で。そういうモノだと理解してもらえるとありがたいです。」


「そして僕らが契約した『大公』が『愉悦大公』と称する悪魔です。『愉悦』というのは称号で、真名は今は誰も知りません。昔は契約の際に真名で縛るということもあったそうですが、昨今そういう契約は行われた例がないそうです。」


 まぁこのあたりの歴史とかはもっと詳しい人がいるから知りたければ聞くといいですよ。と一息つきながら青葉先輩が言った。


「以上がまぁ、限定魔術リミテッド・アーツに関する簡単なあらましです。

何か感想はありますか?」

「.........非日常ファンタジーってもっと遠い所にあると思ってました。」

「僕らにとっては既に日常ですよ。そして君にとっても ね。」


「さてと、質問がないならここからは勧誘です。僕らは君に『愉悦』の眷属に加わってほしいと思っています。理由は簡単です。適合者は実際のところ貴重ですから。僕らが勧誘しなくても他の眷属が勧誘に来ます。

 『憤怒』とか『恐怖』の眷属がアプローチしてくるでしょう。もちろん伊吹君が、そういった大公の眷属となりたいなら僕らも強制はできません。ただ他の大公の眷属も強制はしてきません。というよりできないんです。大公との契約には、適合者の自由意志が必要なので。」


契約にこだわるのは悪魔らしいでしょう?と先輩が笑った。


「......契約するとどうなるんですか?」


「まず伊吹君の方は魔術保持者アーツ・ホルダーになります。そして対価としてその悪魔が所望する感情のエネルギー、感情因子エンパシウムを差し出す。これが基本的な契約です。

『憤怒』なら怒り、『恐怖』なら恐れ ですね。基本的に人間の負の感情を差し出します。」


喜びみたいな正の感情は、悪魔にはエネルギーにならないんだそうだ。


「差し出した感情エネルギーに応じて僕らは対価に魔力を得ます。魔力は魔術アーツの発動に利用したり、アウラを現界させたりすることで消費されます。まぁ何もしなくても保持者ホルダーになると毎日一定量の魔力を消費しますから、感情エネルギーを差し出さないと魔力だけが消耗されます。」

「......魔力が尽きるとどうなるんですか?」

「死にます。 と言っても肉体的な死ではなくて精神的な死という事らしいですけど。極端に情動がなくなって、決まったルーチンで行動する人形のようになる との事です。実際にそんな状況に陥った適合者を見たことはないので、本当にそうなるのか確証はありませんけどね。」


「まぁ安心して下さい。そもそも限定魔術リミテッド・アーツの保持期間は3年間の限定された期間だけです。それを過ぎれば僕らは再契約もできず魔術アーツは失われます。契約満了というわけです。」


 それに恐らく君に関しては魔力を切らすなんて心配はないですよ。という。


「適合者に関してはジンクスがあるんです、未契約の適合者だと特に。

。特に未契約の場合、最初に出会った眷属への適性が極めて高い。というジンクスがあります。」


恐らく、と前置きして続けて。


「伊吹君、君は『愉悦』が欲する感情、?」

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