第3話 彼女≠女神
とりあえず記憶がなくなった。
1発目の後で、女性の腕から繰り出される攻撃にしてはやけに鋭い痛みに悶絶していた僕に、
「なにかみた?」と女神様から笑顔と共に聞かれたのだ。
僕は当然の事として、記憶を手放すことに快く同意した。断じて2発目で物理的に記憶を消されそうだとか、恐れたわけではない。ちなみに2発目はグーの構えだった。
そんなこんなで一時的な記憶障害になった僕を引き連れて、今は国道沿いのファミレスに来ている。
金曜日の夜8時だというのに随分とガラガラだった。
移動前に連絡をしていた人との合流待ちとのこと。2度手間になるから、説明含めてあとでと言われたので宙ぶらりんのまま待機状態だった。
とりあえずドリンクバーだけ注文して、僕は氷で左ほほを冷やしている。さっき鏡で見たらくっきりと手の形に痕がついていた。
舞姫さんは、同じくドリンクバーのみでアイスティーをちびちびと飲んでいる。
ちょっと手持ち無沙汰そうだが、会話のネタなんてないので沈黙だ。すごく気まずい。
早くその人が来ないかななんて、考えながら待つこと10分ほど。入り口から新たに人が入ってきた音がした。
僕からだと入り口は背中側なのでわからないが、舞姫さんが手を挙げて呼んだので待ち人の様だ。
「悪い。遅れたね。」
「別に?10分くらいよ。随分と早い方じゃない?後30分はかかるかと思ってた。」
「まぁ電話であんな話を聞かされちゃね。多少の無茶はするよ。」
親し気な雰囲気で後ろから近づいてくる人がいた。テーブル脇を通り過ぎて初めて誰だかわかった。
驚いた。また知っている人だ。
「それで彼がそうかい?」
「そうよ。少なくとも適合者ではあるわ。」
なるほど。と一つ頷くとこちらに手を差し出してきた。
「初めまして。僕の名前は、、、。」
「あのっ!...知っています。
先輩は おや と驚くと
「やっぱり君も北辰大学の学生でしたか...するとこれはほぼ確定かな?」
と呟いた。
「じゃあ改めまして、青葉 健人です。君は、、、。」
言いながら横目で舞姫さんに視線を送るが、舞姫さんは首を振る。
健人さんがため息をつく。
「すみませんが、名前を聞かせてもらえますか?」
「...伊吹 幸人です。」
伊吹君ね と頷く。視線を舞姫さんに向けた。
「名前も聞かずにつれてくるなんて、そういうのは舞姫君の悪いところだと思うけど。」
「...ちょっといろいろあったのよ。悪かったわ。」
「いろいろねぇ...。」
言いながら僕の左頬の手形に青葉先輩の視線が向いた。
まぁ確かにいろいろあったなぁ とふと不埒なことを思い出しかけた下民に向けて、女神様からキッと視線が飛ぶ。
慌てて首をぶんぶんと振る。下民は何も覚えておりません。本当です。
一連の流れを呆れたように見ていた先輩はまた一つため息をつくと、やれやれという感じで向かいの席に座った。だいぶ苦労人のようだ。
「じゃぁまずは、君の見たことを教えてもらえますか。そのあとで聞きたい事があったら答えるます。まぁ君も色々聞きたいでしょうしね。」
先輩が、微笑みながらそう言った。
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