第2話 日常≒非日常
僕の名前は、
経済学部に通うごくごく普通の大学生。
今年の4月で二年生になったばかり。何事もなく進級して、そろそろ来るGWはバイトで埋めようか。どうせ出かけるお金も当てもないしな とちょっと僻んだことを考える位には大学生活は充実している。
多少なりとも友人はいるが、自慢じゃないが遊びに誘うのを躊躇をするぐらいにはコミュニケーションは不得意だ。
生まれてこのかた19年、対人関係が得意だった時期はあまりない。知らない人との会話は今では大の苦手だ。
顔を見ると緊張してしまう。人の目なんか見たら最後。あがってしまい、どもって話せなくなるのがオチなので、最低限の人付き合いで済ませてきた。
人と話せないからアルバイトなんてもってのほかで、かろうじて従姉妹の家がやっている書店の手伝いという形でアルバイト紛いの仕事をしている。時給は700円、接客は全部パス。店内の掃除やら品出しやら発注作業やら、とことん人に関わらない仕事をしているだけだ。
平々凡々、どこに出しても特別な所のない唯一の僕の特筆すべき点は、両親が既に他界していることぐらいだろうか。それも物心つく前に伯父・伯母夫婦に引き取られて何不自由なく暮らしてきたので特に困ったこともなかった。
あのご夫婦の人の好さには、本当に頭が上がらないが、もう大学生にもなったことだしと昨年春に一人暮らしを進言し、紆余曲折あった結果、伯母所有のアパートの一室なら、という事で許可が下りたのがもう一年も前になるのだ。
大学は給費生の待遇で入れる学科を志望し、地元の北辰大学の経済学部に進学。なんのドラマもなく、一年生が終わり。今年もそうなるだろうな なんてのんきなことを考えていた。
明日からの土日はどうしようかななんて、とりとめのない事を考えながらコンビニに寄って、
前を歩いていた女性のあとを、あまり距離を詰めすぎないように、それだけ考えて歩いていただけなのに。
あまりに簡単に、日常は 非日常に。
幻想が、現実に。僕のありふれた人生は終わった。
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化け物との距離はもうあと5メートルもない。明日の朝食をどうしようか、悩んでいた僕のちっぽけな人生が、今化け物の夕飯になるという、あまり嬉しくない終わりを迎えようとしていたその時。
後ろから、走ってくる足音と声が聞こえた。
「
もう奴の口の中が見え、僕の短い人生の走馬灯がこれから流れようとしていたが、
いきなり化け物が燃え上がった。
否、正確には後ろから火の球のようなものが飛んできて奴にぶつかったのだ。
明らかに苦痛を感じたようで、僕を見ていた奴の視線が外れ、僕の後ろに向かって吠え声をあげた。
するとダメ押しのように先ほどと同じ火球が二発、奴の頭と口の中に着弾して破裂した。
さすがに耐えられなかったのか、悲鳴のような声を上げ風船がしぼむかのように急速に体積を減らすと、
ふっ とその場で消滅した。
あまりの事に声も出せないでいると、後ろからコツコツと足音が近づいてきた。 そしてそのまま僕の横を通り過ぎていく。
そのまま真っすぐ倒れている女性の所まで歩き、さらに先まで歩いたところでようやく止まった。
「......
「むりですよ~下級の気配なんて現界しない限り微弱すぎて。ましてやさっきの個体は生まれたてでしたし。」
「それもそうね。正直
弱すぎるのも問題ね。と呟くと気を取り直したかのように振り返った。
「さてと、じゃあ被害者の確認だけ済ませて撤収しましょうか。この辺にまだいるかもしれないし。」
「早めに巡回に戻ることを推奨します~。」
はいはい。と気のない返事をすると、倒れたままの女性に歩み寄っていく。
軽く抱き起すと、全身をざっくり確認していく。
「ん-。見た所外傷無し。軽度の霊的衰弱。後遺症にはならなそうね。 『
白い光が手から発せられると、女性がゆっくりと起き上がっていく。
そのままふらふらと歩き始めるとゆっくりと遠ざかり始めた。
「歩行に問題なし。あの人は大丈夫と...。」
振り返るとこちらに歩いてくる。
そして目の前でしゃがんだところで目が合った。
もしかして、と思っていたがここではっきりした。知っている人だった。
まぁ向こうは僕なんか覚えちゃいないだろうが、僕の大学の一つ上の学年の有名人だった。
学内で知らない人の方がいない程の有名人。
国際教養学部の3年生だ。
僕は見に行っていないが去年の学園祭のミスコンテストとやらにも出場して準ミスだったとか。どこかの雑誌でモデルをやっているだとか。
とかくそういう噂が流れてくる人だった。
服装からして目立つのだ。モデルのような体型で、ファッション誌から出てきたような服装で、大学内を闊歩しているとなれば自然と目を引く。
それでいて浮いた話は流れてこない。どこかのサークルに所属するでもなく。
大学内で親しい人がいるとの噂もなく。目立つはずなのに妙に目立たない人 とはこの噂を教えてくれた友人の言だ。
ともあれ僕の
もはや女神と呼んでも、さしつかえはないのではないだろうか。そんな信仰心すら芽生えそうな僕に向かって、
「...あなたなんで意識があるの?」
前言撤回。だいぶ、理不尽な女神だった。助けてもらったのはありがたいが、
気絶するべきだったのだろうか。女神って厳しい。
「......なんでといわれましても...やっぱり化物に襲われたなら気絶すべきでしたか?」
すると舞姫さんは目を見開いて驚いていた。美人、目も綺麗。
「さっきのあれが見えていたの!?」
「あれって目のない化物の事ですか?それならまぁ普通に見えていました。あと炎が飛んできたのも、化物が何処かに消えてしまうのも一応見えていました。」
絶句している。悪いことを言ったのかもしれない。
というか今更ながら、目を見て話していることに気が付いた。
死にそうな状況から助かったせいかテンションがおかしく、普段の僕だったら全然できないことがいろいろとできていた。
慌てて視線を下にそらした後、僕は固まった。
2秒ほどフリーズしてから、ギ ギ ギ と音がしそうな動きで僕は頭と視線を右にずらした。
「?」
舞姫さんは何事か考えていたようだったが、不自然な僕の動きに疑問を持ったようで、視線を下におろして固まった。
視界の端に、やけにゆっくりとした動きで立ち上がるのが見える。
恐る恐る顔を伺うと、ニッコリとスマイルが浮かんだのが見えた。美人の笑顔って怖い。
あぁダメだ。やっぱり今日が命日だったらしい。
......だってしょうがないじゃないか。それはまぁ意識がない前提だったのかもしれないけれど、
あんなミニスカートで無防備に目の前にしゃがんでいたら、それは見えてしまう物だってある。
不可抗力だ。僕は悪くないと思う。
ちなみに赤だった。下着まで派手って、ファッションって大変だな。なんて、現実逃避にくだらないことを考えた。
ありふれた
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