信長魔神伝

セイン葉山

第一部  月影

 西暦一四六七年、京の都に戦乱の火蓋が切って落とされた。細川と山名の間に起こった争いは、やがて周囲の大名を巻き込んで全国に広がり、将軍の権威は失墜した。京の都は焼野原となり、荒れ果てた。いわゆる応仁の乱である…。


 家を焼かれ、家族とはぐれ、途方にくれた民たちが、集まっていく場所があった。京のはずれの小さな山寺、星照院西妙寺である。境内には炊き出しの湯気が漂い、ささやかな診療所には老若男女がつめかけていた。

 一人の若い尼僧が、お供の寺男とともに姿を現した。

「皆様に満足なお助けもできませんが、少しでもお役に立てれば幸せです。」

 尼僧は言葉少なにそう言うと、民のために経を唱えた。その姿に何の邪念も無く、またあまりにあでやかで美しいので、人々は生き仏だと信じて疑わなかった。

 また、診療所に出向いている漢方医の雄山も腕がいいと評判で、身分や貧富の差に関係なく誰でも優しく診てくれると、人の列が絶えなかった。

 この人の列を、少し離れて眺めている人影があった。年の頃なら二十歳過ぎの若い娘だったが、どこかに人を寄せ付けない孤独な影を感じさせた。家から焼け出された親子、戦乱に巻き込まれ家族を失った者、死にかけて担ぎ込まれる者もいる。なぜだか獣に襲われたようなひどい怪我をしたものも少なくない。娘は、そんな人々を遠くからじっと見つめていたのだった…。


 満月が東の空に低く光った。その夜、娘は人影の絶えた京の裏通りを歩いていた。大きなつづらを背負っている。やがて前方から、白装束の神社の巫女が近付いてくる。

「白霊神社のユウナ様ですね。お久しぶりです。」

 つづらを背負った娘が声をかけた。

「鬼流門の未月、呼び出してすまない。」

 巫女はそう言うと、懐から小さな呪符を取り出した。そこには、赤い血判が一つ押されていた。

「私の一族の有力な宮司が依頼を受け、羅生門に鬼退治に出て戻りません。」

「まさか白霊の宮司がやられるとは…。」

「依頼者は、親を殺された商人の幼い娘。あのあたりでは大勢の民が魔界の餌食になっているのです。」

「私も見ました。たくさんの人が戦乱に家を追われ、魔物に命を狙われている。」

「今夜、私が鬼を討ちます。でも万が一、私の力が及ばぬ時は、この血判を使って欲しいのです。」

「承知しました。でも月影を呼ぶには、血判が一つ足りませぬ。」

「ですから、その時は、私の血を押してください。」

「なるほど、わかりました。命を賭けるおつもりですね。」


二人が羅生門に着いた頃には、満月は高く昇り、赤い怪しい光を投げかけていた。巫女は持参した種火を使い、二本の松明を灯し、破魔矢と弓を取り出した。

未月と呼ばれた娘は、大きなつづらを地面に置くと、つづらに取り付けた小さな箱を開けた。中には、小刀や呪符が並んでいる。

羅生門のあたりは不気味に静まり返っている。

「破魔矢、一の矢!」

巫女が、真言を唱えながら弦を大きく引いた。矢は、羅生門の闇の中へ一直線に飛んで消えた。だが、何の物音もしない。

「破魔矢、次の矢!」

二本目の矢が打ち込まれた時だった。横から二人の武士らしき人影が近付いてきた。

「若い娘二人で何をしておる。」

巫女は何も答えず、ただ弓を構えるのをやめた。とんだ邪魔が入ったものである。

「こんな時間に、一体何をしておるのじゃ。」

二人の武士は、ズカズカと近付いてきた。

「あんた、畠山のところの夜回りだね。」

未月がサッと前に出て、武士を遮った。

「だから、なんだ。文句があるのか、この、小娘が。」

「あの夜回りは、旅の親子をかばって死んだよ。三日前にね。」

その瞬間、武士たちの形相が恐ろしく変わり、口を大きく開いて襲いかかってきた。

「こいつら、死人あやつりだ。」

「グァオウ!」

 巫女はためらいも無く、至近距離から矢を放った。破魔矢は眉間に突き刺さり、一人は後ろに吹っ飛んでいった。襲い掛かるもう一人の首を狙って、未月の小刀が走った。死人は倒れたまま、ビクンビクンと、妙な動きをしている。巫女が低くつぶやいた。

「来るぞ。」

 羅生門のあたりの闇の中から、いくつもの黒い影が近付いてきた。

「破魔矢、はやぶさ撃ち!」

 巫女は全く呼吸も乱さず、大きく瞳を見開いたまま次々と矢をつがえ、放っていく。朽ちた鎧をまとった雑兵や、旅の商人、僧兵の恐ろしい形相が、松明の炎に浮かび上がる。そして、矢に射抜かれると、その場に倒れ、またビクンビクンと妙な動きをする。

「きりが無い。」

 残りの矢が心もとなくなってきた。

「式神を放ちます。」

 未月が一枚の呪符を空中に放った。呪符は、羅生門の屋根のあたりに張り付いた。すると屋根の上で、死人を妖しいクモの糸で操る不気味な影が浮かび上がった。

「本体はそこか?」

 次の矢が放たれると、それと同時に何かが上からフワッと落ちてきた。赤いあでやかな錦が目に飛び込む。あやかしの本体は、美しい姫君のようであった。

「こやつ、いったい?」

 その妖しい微笑に、一瞬弓を引く指が止まった。あやかしは、その隙を逃さなかった。

「うぬ、こ、これは!」

 巫女が胸を押さえて、その場にうずくまった。いつの間にか、数本のクモの糸が伸びて、巫女の胸に絡みつく。未月がすかさず小刀を投げて反撃に出る。すぐに糸は切れ、巫女も立ち上がったが、クモ女は、勝ち誇ったように高笑いをした。

「ほほほ、読めたぞよ。おぬしの心の弱みがのう。」

「しまったあ。」

クモ女は、錦の衣を翻し、闇の中へと飛び出していった。

「逃がすか!」

 巫女はすぐに後を追った。未月はつづらを背負うと、身軽に走り出した。闇の中、追跡劇が始まった。


その頃、羅生門からさほど遠くない武家屋敷から、数人の男が出てきた。

「ふむ、私の大刀に、鈍いうなりが生じております、天輪(てんりん)殿。」

 若い侍が、大刀に手を当て、立ち止まった。天輪と呼ばれた中年の男は、冷ややかに笑うと、もう一人の異邦人に話しかけた。

「神刀朱雀に鈍いうなりだと…、なるほど、カザルス神父殿、お気をつけなされ、邪悪なしもべたちが、赤い月の下で騒ぎ出したらしい。」

「邪悪なしもべ?」

 カザルスと呼ばれた宣教師は、何事かと思いを巡らせながら、ポケットの銀の十字架を握りしめた。天輪は、ふと何かを思いついたように、話を続けた。

「そうだ、カザルス神父殿はさっきなぜあのような茶碗が大名たちの間で高額で取引されるのかわからないと言っておられましたね。」

なぜ今その話をするのか、カザルスには全くわからなかった。

「はい、その通りです。確かに高い芸術性や技術は認めますが、宝石や貴金属でもない、あのような土くれを焼いただけの物で、なぜ一国一城を売り買いできるのか、理解に苦しみます。」

「さすが、諸国を廻って見聞を広めている方は違いますなあ。では今その答えをきっちりお見せしましょう。天外、玄武、良いか。」

 天輪はそう言うと、天外という先ほどの若い侍と、お供の絵師、玄武に声をかけた。すると天外は小刀を取り出し、前方の闇に向かって走り出した。玄武は、持っていた風呂敷を解き、小さな箱書きのある桐の木箱を取り出した。

 一体何が始まるというのだ、カザルスは息を飲んだ。やがて、天外が闇の中に姿を消すと、代わりに異様な人影が前方から近付いてきた。折れた矢が背中に突き刺さった武将のようであった。その周囲にはこの世のものとも思えない重い冷気が、霧のように漂っている。

 カザルスは、思わず後ずさりをしながら、天輪に目をやった。天輪は玄武が桐の箱から取り出した高価な茶器の前に立つと、真言を唱えながら、指で印を結んだ。

「グォー!」

 その途端、武将の体から巨大な黒い影が伸び上がり、雄叫びを上げた。黒い影は、恐ろしい形相に変化し、このまま襲い掛かってくる…、かと思われた。カザルスは、思わず逃げ出したが、天輪は、まったく動こうとしなかった。

「うああ、危ない。」

 だが、黒い影は天輪のすぐ前で砕け散り、さらに光り出した茶器の輝きの中に消えて行ったのである。

「これはいったい?」

 カザルスが周囲を見ると、いつの間にか闇の中の悪霊のまわりを囲むように数箇所に小刀が突き刺さっている。先ほどの若侍は、このために…。

「こ、これは?」

「侍の刀を使った結界だ。われわれの刀は悪霊を切り刻む霊気を持っているのだ。これを真言とともに並べれば、悪霊を切り刻む結界を作ることができる。さらに、これらの貴重な茶器には、天下を治める霊気が宿り、これを使えば悪霊を滅することができる。」

「そのような力があるとは考えもしませんでした。」

「だからこそ、茶器や刀剣が一国一城の取引に使われたり、国の存亡を決したりするのだ。ただの土くれを焼いただけのものではないのだ。」

「なるほど、よくわかりました。」

あっという間に、走ってきた天外が結界の小刀を片付け、玄武が茶器を元通りにしまいこんでいた。天輪はしばし闇を見つめ、さらに何かを感じたようだった。

「ほう、カザルス殿、今宵はもしかすると、さらに貴重なものが見られるかもしれませんよ。」

 四人の人影は、さらに闇の奥へと進んで行った。


 クモ女の赤い錦が闇夜に翻る。巫女と未月は必死で追いかけたが、簡単にはつかまらなかった。あざ笑うかのような叫び声が響き渡る。

「あちらは洛北の裏通り、一体何が?」

「しくじった。あそこには今回の依頼者、その血判の主、両親をあやかしに殺されたお市がいる。幼な子ゆえ、今あの子を護る者は誰もおらぬ。」

「卑劣な。」

 クモ女は一直線に裏通りに飛び込むと、まだいたいけな五才ほどの娘を抱きかかえて、屋根の上に躍り出た。

「お市ー!」

「ほほほ、もう遅い、すべては私の手に落ちた。」

 かわいそうに今まで穏やかに眠っていたであろう幼な子は、青ざめて泣き叫ぶだけだった。巫女は弓を置き、未月はつづらを置いて立ち尽くした。

「さあ、どうする。負けを認めるかい、それともこの子を八つ裂きにしようかねえ。」

クモ女の鋭い爪が、少しずつお市の体に食い込み、血が滴る。

「卑怯者!」

 巫女はさっと前に出ながら、未月に小さな紙を手渡した。そこには二つ目の血判が押してあった。

「…わかった。私の負けだ。負けを認める。だからその子を、お市を放せ。」

「ほほほ、本当に負けを認めるのだな。ならばその忌まわしい弓を捨てて、前に進み出ろ。」

 弓と矢が地面に打ち捨てられ、クモ女の勝ち誇った笑いだけが響き渡った。クモ女は屋根からフワッと降りると、巫女に手招きをした。巫女は下を向き、前に進み出た。

「さあ、早く、その子を放すのだ。」

 だが、クモ女は、放すどころか鋭い爪を振り上げた。

「馬鹿め。」

 巫女の白装束が、赤い血に染まった。

「殺されに出てくるとは!幼な子とともに、あの世に行くがよい。」

「ふふふ、そうはさせぬ。」

 巫女が苦しげに微笑んだ。異変に気づいたのは、クモ女の方だった。

「うぬ、お、おまえ、何をした。体が、体が動かぬ。」

 力の抜けたクモ女の腕から、転がり落ちるように、お市が逃げ出していく。

「なぜかのう、未月殿、今じゃ、」

 クモ女がやっとのことで爪を引き抜くと、そこに封印の呪符が貼られていた。クモ女は、血まみれの巫女を突き飛ばすと、すぐにお市を追いかけようとした。だが、お市は、もう、未月の腕の中だった。

「お市ちゃん、もう大丈夫よ。安心して。お姉ちゃんが護ってあげる。」

「うう、おまえも死にたいのか。」

「この化け物女、お前の相手はこっちじゃないよ。」

「な、なに!」

 クモ女は、その瞬間、異様な殺気を感じて動きをとめた。あのつづらがガタガタと震え蓋が飛び跳ね、はずれた。

「な、なんだ、これは、何が起きたのだ。」


 四人の男は、邪悪な気配を感じ、道を急いだ。天輪が静かに話し始めた。

「わが明知一族は陰陽道の流れをくみ、平安の世より魔界の手から人々を護ってきた。主に結界の術と浄化の術を駆使し、歴史の影で魔界の物たちと戦ってきた。各地の大名の中に一族の者を送り込み、霊力を持った茶器や刀剣を各地に配置し、魔界の物たちに備えてきた。だが、われわれの流派とは別に魔界の物と戦ってきた者たちがいくつかある。その中でも強力な一派に、鬼流門がある。その奥義は、魔をもって魔を討つ、凄まじきものじゃ。」

 カザルス神父は首をかしげた。

「魔をもって、魔を討つとは、どういうことですか。」

「不死身の魔神を呼んで、魔物と戦わせるのだ。」

「魔神…?」

「鬼流門は、その時の状況によって呼び出す魔神を使い分けるという。さあ、今宵はどのような魔神が現れたのか、心して見るがよい。」


「変幻自在なる月の力よ。人々の血と涙と叫びに答えよ。出でよ、魔神、月影!」

 未月の掛け声とともに、つづらから何か身軽なものが飛び出した。

「なんだ、これは。お前はいったい何者だ。」

 赤い月の下に、黒装束に金属の胸当てをつけた、忍者のような影が立っていた。

 憂いを秘めた仮面をつけていて、その表情は全くわからない。

「死ねー!」

 クモ女の体から、数十本の糸が発射された、からまれたら厄介である。と、月影は、素早くトンボを切り宙に舞い、糸を軽くかわした。そして空中で回転しながら手裏剣を放った。

「おのれー。」

 手裏剣が、クモ女の自慢の赤い錦をズタズタに切り裂いていく。クモ女は凄まじい形相で力をこめた。すると六本の腕が長く妖しく伸び、さらに指の先に鋭い爪が光る。さらに開いた口から牙を伸ばし大きくジャンプすると、月影に襲い掛かってきた。ものすごい勢いで爪が上下左右から突き刺さってくる。だが、それに対抗するかのように、月影は、左手に大きなカギ鉄甲をはめ、忍者刀を右手に持ち替えて飛びかかった。空中で交差する二つの影。鋭い悲鳴が聞こえ、あっという間に、クモ女の腕が二本、切り落とされる。

「くそう、うぬう、見ておれ。」

 クモ女の長い黒髪が、四方八方に伸びていく。あれよあれよという間に、空中に巨大なクモの巣が現れていく。

「ほほほ、勝負はこれからよ!」

 クモ女は、その巨大なクモの巣を駆け上っていく。追う月影、だがクモの巣のあちこちから、人間の頭ほどの大クモが数十匹現れ、一斉に糸を吐きかけた。もがいても、もがいても、糸は絡みついてくる…。月影は、みるみる真っ白な繭玉のようになってしまった。

 それを見るなり、真っ赤な錦が翻り、クモ女は巨大な黒い雲へと姿を変えていく。

「ほほほ、これでおしまいよ!」

 そして、口から毒液をしたたらせながら、繭に襲い掛かっていった。

 さすがの魔神もこれで終わりか? だがその時、赤い月が不気味に輝いたように思えた。月影は少しも動ぜず、忍者刀に力をこめた。

「月影、上弦の刃!」

 忍者刀は三日月のように妖しく光りながら伸びていく。そして、みるみるクモの糸を切り裂いていく。

「繭ごと、毒牙の餌食にしてくれるわ。死ねえええ!」

だが凄い勢いで、姫の姿から変化した大クモが、牙を立て、襲い掛かる。

「月影、三日月斬り!」

 月影は一段と輝く忍者刀を大きく突き上げ、振り下ろした。

 空中に三日月形の光が大きく弧を描く。

「ぎゃあああああ!」

 三日月の刀は、今まさに襲いかかろうとした巨大クモを、繭玉ごと斬り裂いた。

「そそ、そんな、馬鹿な…。」

 巨大なクモは、空中で真っ二つになり地面に落ち、その上に赤い錦が血のように覆いかぶさった。空に向かって伸びていたクモの巣も、おびただしい数の大クモも、いつのまにか消え去っていた。月影は、何事も無かったかのように、静かに忍者刀を納めた。…強い、圧倒的に強い。

 未月の合図で月影はまたつづらの中に戻り、お市は救われた。巫女ユウナに、未月が駆け寄る。急所は外れている、急いで手当てだ。


「天輪殿、いかがしましょう? 手助けいたしますか。」

 遠くからそれを見ていた天外が、つぶやいた。

「ハハハ、余計なお世話だろう。それより、近いうちあの者に力を借りる日が来るやも知れぬ。今宵のことをよく覚えておくのだな。」

「かしこまりました。」


 夜が明けて、すべて何も無かったような静かな朝が来た。白霊神社では、包帯姿の巫女が、静かに境内を眺めていた。抜けるような青い空が、嘘のようであった。

「お市は、今頃、どうしておるのだろう?」


「故あって、詳しいことは申せませぬが、両親を失ったかわいそうな子です。診てあげて下さい。」

 お市はクモ女から逃げた時に傷を負い、朝一番で、星照院の雄山に診てもらっていた。

「かわいそうに、これはひどいのう。いったい、どんなことをするとこんな傷になるのかねえ。」

 クモ女の爪の鋭さに、さしもの雄山も目を丸くした。すると、奥で、それを聞いていた星照院が、顔を出した。

「両親もいないのですか。それならどうじゃ、ここでしばらく預かろうか。」

「それは助かりますが、そこまでしてもらっては、この子を預かると約束した手前、私の気がすみません。」

 ずっと黙っているお市も、少し不安そうにあたりを見回した。

「それならば、しばらくここに手伝いに来てくれてはどうでしょう。それでおあいこということで。」

「おお、それはいいのう。このところ人が増えてきて、下働きが欲しいと思っておったのじゃ。」

雄山は、未月を見て、なんともうれしそうな顔をした。

「え、私がここで?」

 お市をふと見ると、小さくうなずいた。なんとたくましいのだろう。この子はこの短い間に親を失い、巫女から未月へと逃げ延びてきたばかりだというのに。

「そうしましょう、ね、お決めなさいよ。」

 美しい尼僧がすすめると、もう誰も断れなかった。まわりの信心深い年寄り達が、皆でうなずきながら、お市と未月を見つめていた。

「わかりました。じゃあ、お市はここに置いて、私は明日から手伝いに来ます。」

「有難うございます。仏様のお蔭です。」

 星照院がにっこり笑った。いつの間にかお市も微笑んでいた。新しい一日の始まりだった。

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