EP7 青井空《ヒーロー》
『えー、今係りのものが呼びにいってるからもうちょっと待ってくれよな!』
実況のMr.Jは怒号が飛び始める観客を宥めるが、観客たちの不満は収まる様子はなかった。
「まだ始まんないのかよ」
「なんで来ないの!?」
「蒼峰さまを待たせるなんて!」
今にも爆発しそうになる彼らの不満を少しでも和らげるため、Mr.Jはあの手この手で気を引こうとするが、中々成果は上がらなかった。
「ふむ……彼は来ないのかな?」
空の対戦相手、蒼峰大河も残念そうに呟く。
彼もリアオンのプレイヤーなので『青き疾風』の存在はよく知っていた。
自分の姿を真似し、人助けをする謎のプレイヤー。蒼峰はその存在を嬉しく思っていた。
(私の影響を受け、ヒーローを志してくれる子どもが現れるなんて、これ以上ヒーロー冥利に尽きることはない。戦えるのを楽しみにしていたんだが……残念だ)
オタキング戦で空が正体を明かした時、蒼峰は久しぶりに心が高鳴り、興奮した。
本来優勝してから明かすつもりだった正体を、思わず準決勝で明かしてしまうほどに。
――――あのタイミングで明かすべきではなかったか。いや、決勝で明かしていたらもっとショックを受けた可能性もあるか。
空が自分の姿を見てショックを受けたことを大河は理解していた。その理由までは知る由は無かったが。
一体どうすれば正解だったのだろうか――――心の中そうで反省していると、スタッフの一人がMr.Jのもとに駆けてくる。
『じゃ、じゃあとっておきの一発芸を……ってんん!?』
スタッフの耳打ちされたMr.Jは驚き、大きな声をあげる。彼は「本当にいいんだな?」とスタッフに何度も確認を取ると、伝えられた情報を口にし始める。
『みんな待たせたな! ようやく対戦相手が到着したぜ!』
待ち望んだ人の登場に観客たちは大いに沸き、蒼峰も嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべる。
『それじゃあ早速登場して貰おう! ブルーマスク選手改め……「青井空」選手だ!』
盛大な演出と共に、一人の少年が姿を表す。
彼の顔に、もう覆面はない。
謎のヒーローとしてではなく、一人の平凡な少年『青井空』として。
彼は憧れの人ととの戦いに臨んだのだった。
◇ ◇ ◇
まっすぐ前を向きながら、ドーム中央にあるリングの上に上がる。
初めて
「来たか、少年」
目の前には長年憧れたヒーローがいる。
あんなことがあった後だっていうのに、まだこの人の顔を見るだけで嬉しくなって頬が緩みそうになってしまう。
でも今は引き締めろ。俺はこの人と戦うんだから。
「お待たせしてすみません」
「俺は一向に構わないぜ、少年」
「ありがとうございます。お待たせした分、頑張らせていただきます……!」
そう言って力強く蒼峰さんを睨みつける。気持ちで負けたら駄目だ。
「……いい顔をしている。覚悟を決めた男の顔だ。ならば俺も一人の男として本気で戦おう!」
蒼峰さんから凄い『圧』を感じる。
正直怖い。でもそれ以上にこんな凄い人が俺を一人の敵とみなしてくれるのが嬉しかった。
「俺は貴方に憧れていました。強くてかっこいい貴方みたいになりたくて、ずっと長い間貴方の真似事をしていました」
「それは光栄だな」
「貴方の真似をしていれば、いつか俺も本当のヒーローになれるんじゃないかと、心のどこかで思っていたんだと思います。でもついさっき、それは違うと言うことに気づきました」
「……ほう」
興味深そうに笑みを浮かべる蒼峰さん。
俺は言葉を選びながらゆっくりと、その気づいたことを口にする。
「そもそもヒーローなんてものはなろうとして『なる』ものじゃなかった。誰かを助け、守る内に、他の人からそう呼ばれ、いつの間にか『なっている』ものだったんです。そして俺は……自分でも気づかない内にヒーローに『なっていた』。追いかけ続けていたその夢は、気づかない内にもう手にしていたんです」
怜奈さんのおかげで俺はそのことに気付くことができた。
一人でも俺のことをヒーローだと思っている人がいる限り、俺はヒーローなんだ。それが分かったあの瞬間からずっと、胸の内に熱い炎が燃え盛っている。その熱は今も俺を激しく突き動かす。
この炎がある限り俺は憧れの人にだって負ける気がしない。
「だからこの戦いはヒーローになるための戦いじゃありません。憧れ《ヒーロー》を超えるため、そして俺を信じてくれる人の期待に応えるために貴方を倒すっ!」
「面白い! やってみろ!」
俺たちは同時に
「
「
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