第34話 二人の⦅首席⦆
◇◇⦅黒獅子の咆哮⦆騎士団本部別棟──
「さあ、着きましたよ。セリエ殿はこちらの部屋、フィン殿はその向かいの部屋をお使い下さい」
フィンとセリエは騎士団長副官であるキースに案内され、フィリスに在駐している騎士団⦅黒獅子の咆哮⦆の本部別棟の客間へと案内されていた。
「ありがとうキース。けれど、大丈夫ですの……?その、私達はまだ団長殿にもご挨拶しておりませんのに……」
セリエは、キースが自分たちの寝泊まりする場所まで手配してくれたことに感謝しつつ、彼女が騎士団からの要請を受諾したあと直ぐに休むよう言われたため、騎士団長であるキースの父に会えていないことを心配している。
「ええ、大丈夫です。……というより現在、
キースはセリエに向けてそう言うと、改めて深く頭を下げた。
「いいえ、いいんですのよ!もともと
セリエはそう言ってキースに頭を上げさせる。
「ま、今日は色々あったからな。ここは大人しく休もうぜ、セリエ」
フィンもキースの好意を素直に受け取っておこうとセリエに提案する。
「ええ、フィンがそう言うのでしたら。……ご好意に甘えさせていただきますわ」
その言葉に、セリエも渋々という感じではあったが今日はもう休むことに決める。
「では、食事は後ほど部屋に運ばせます。あと宜しければですが、この別棟には大浴場もありますので……」
「ええっ!浴場があるんですの!?」
キースの発した⦅浴場⦆という
「え、ええ。まあ、騎士団の兵舎にもありますが。この別棟は基本的に高い身分の方が来られた場合に使用するためのものですので、こちらのものを使用して頂きます。きっとお気に入りになると思いますよ」
キースは微かに笑うと、屋敷の使用人に声をかけてすぐに湯船を用意するよう伝えた。
「まあ、なんてありがたいのかしら!是非いただくわね!……こほん。それじゃ、私は用意がありますのでこれで失礼するわ。ありがとうキース。」
セリエは嬉々としてキースに感謝を述べ、自分の部屋へ入っていった。彼女は大のお風呂好きである。きっとよくリフレッシュしてくれるはずなので、明日の彼女はきっと上機嫌だろう。
◇◇◇
「ねえキースさん、本当に⦅
キースに対する口調は、先程の待合室でのぶっきらぼうなものから多少柔らかいものになっている。
彼の質問に、すぐにキースは応えた
「はい。現在先遣中の大隊が、このフィリス領の南側約25kmの地点で大型の
キースの言葉に頷きつつ、フィンは次の質問をする。
「そうなんだ。じゃあそれより到来が早まる可能性は?」
「わかりません、奴らは飢えていますから。街へと近づいて耕作地がまばらになってくれば、更にペースが上がる可能性は否定できませんね」
フィンの問いにキースは、少し暗い顔になりながらもそう応えた。
「そうですか、ありがとうございました。」
「いえ、我々の作戦にご助力をいただく以上は当然の情報提供です。寧ろ、こちらからお伝えするべき内容でしたね。」
キースは、失礼しましたとフィンに謝罪した。
「いえ、
そう言ってフィンは、片手に持った
「おや……、それは⦅
「俺たちに
フィンのその言葉に、キースは苦笑する
「……へえ。すごいな君は、よく僕を観察しているね。⦅指輪⦆を見たのかい?」
「あれ?
キースの問いかけに対してフィンは質問で返す。
「……ちょっと待ってくれるかい?……、もしかして私は、
「はい。因みに、この⦅真贋符⦆も
フィンはそう言うと、手元に緑色の光を浮かばせながら、キースに向けて笑みを作る。それを見てキースは声を出して笑った。
「はっはっは!流石、今年の卒業生は優秀だな!……いや、今年の⦅
ひとしきり笑ったあと、彼はフィンの目を覗き込むように見ながらそう言った。
「……何故それを?」
「おや?君も学園都市のダンジョンの転移門の行き先が完全に
キースは笑いながら続ける。
「
キースは、フィンの瞳を真っ直ぐに見つめてそう口にした。
なるほど、そうして考えてみれば近年帝国が力を伸ばし続けている理由にも説明がつく。
ゲーム時代の
彼の言葉を受けて、フィンは一瞬、手元の
「
フィンは、キースの失策を指摘する。
「おっと、そうだったね。私はそう
そう言われてしまえば、先程の彼の言葉が真実かどうかはわからない。
だがキースはハハッと笑ってフィンに向けて片目を閉じ、続けてフィンの握りしめている紙切れを目で差して見せた。
フィンが彼の目を追って自らの握っている
「……なかなかに、食えない人ですね。まあ、その情報はありがたく受け取っておきましょう。」
「それは、
そう言うと、キースは笑いながらフィンに向けて手を差し出す。
「こちらもですよ、先輩」
フィンはその手を軽く握り返す。
こうして学園都市の二人の⦅首席⦆は、来たる⦅
◇◇◇
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