第32話 ⦅聖女⦆誕生!?
◇◇城塞都市⦅フィリス⦆の⦅大広場⦆──
「嘘じゃねぇだ!ありゃ⦅
しばらく広場の市を見て回っていた二人の耳に、そんな男の声が聞こえてきた。何やら騒ぎになっているようだ。
フィンとセリエが声のする方へと向かえば、痩せ細った男が戦士風の大きな冒険者を前に必死な顔で何かを訴えている──
「はんっ!騎士団に確認したが、そんな話は全く知らねえとよ。大方、今年の不作で収穫が上がらねえからデマカセを吹きにきたってところだろうが?あん?」
そう言って大男が凄む。
「ち……違うだ!オラの牛っ子も一頭丸々食われただよ!どうして騎士団は
農夫と見られる男は必死の形相で大男の足元に
「っち!だから、そんな話信じられねえって言ってんだよ!第一、街の外を見ろ!最近じゃこの辺りには
大男が農夫を蹴り飛ばそうと脚に力を込める──
「お待ちなさい!民衆の味方である筈の冒険者が、その様な蛮行を働くなど許しませんよ」
その瞬間一人の女性が──いや、フィンの隣に立っていたはずの⦅主人⦆がいつの間にか彼らの近くに立っており、声を上げていた。
その声はよく通り、広場にいた大勢の人間が一斉に彼女の方に目を向ける。
「それにその方の言葉と表情、とても嘘を言っている様に思えません。貴方は人を見る目がないのですか?」
セリエは言葉を継ぎつつ大男へと詰め寄ると、彼の足元に
「もう大丈夫よ、貴方の願いは私が聞き届けましょう」
セリエは農夫にそう声をかける。
「ああん、なんだ手前は!?」
大男は、突如として現れた白金の鎧を纏う少女に動揺しつつも、チンピラの
セリエは大男の言葉を受けてすっと立ち上がると、後ろで二つに結ばれた髪をかき揚げてからこう答えた。
「私はセリエ、エレノア王国が大貴族──リステンシア公爵の娘です!!たとえ国は違えど、苦しむ民を、今にも起ころうとする⦅災厄⦆を、見逃す事などできよう筈がありません!」
(うわあ……言ってしまった。)
セリエの言葉に、フィンは天を仰いだ。
決して目立たず、さっさと⦅飛空艇⦆に乗り込んでこの街を出発するつもりで立ち寄ったはずであったのに、こうしてセリエが
もう、こうなってしまっては後戻りはできない。そう諦めにも似た感情を抱きつつ、フィンは付与術でセリエの背中に⦅
これは本来なら敵の注意を引きつけるための支援魔法だ。
「さあ、立ちなさい。そして、真実の声を皆に届けなさい。決して自分のためじゃない。誰かを救いたいと思う気持ちが貴方にあるのであれば」
セリエは、農夫を立ち上がらせるために改めてそう声をかけた。彼女の背に後光を見た農夫は、思わず彼女をこう呼んだ。
「せ……聖女様……」
農夫は立ち上がり、ブルブルと震えながらもなんとか声を絞り出そうとしている。
「み……、みんな!聞いてけろ!」
(っちぇ、声が小さいな、もうどうにでもなれ)
フィンは半ば投げやりな気持ちになりつつも、セリエと農夫に、えい。と⦅
男の声が大きく、広場全体に聞こえるように拡声される。
「オラは見ただ!農道一面に転がったでっけえ⦅
農夫が感極まったようにそう叫ぶと、フィリスの⦅大広場⦆には一瞬の静寂が訪れる……
そしてその後すぐに、ザワザワとしたざわめきが広がっていく。
──な、なんだって!?
──魔物は⦅黒獅子⦆が巡回で掃滅したんじゃないのか?
── ば、⦅
──ひ、飛空艇!飛空艇の便はまだあるのか!?
──そうだ!早く逃げねぇと!
──おいどけ!どけよ!
農夫の言葉を聞いたフィリスの住民たちは、先程までの賑わいとは一転して逃げ惑い、広場は一瞬で大混乱に見舞われようとしていた。
(やばい!このままだと暴動が起こるぞ!)
そうフィンが考えてセリエの元へ駆け出そうとした時、
「────鎮まりなさい!!」
白金の鎧に身を包んだ
「この街も、貴方達も、
セリエの大喝は、不思議な自信に満ちていた。
そして、その言葉は
なんの縁もない、いま門を抜けてきたばかりのこの街のことを、彼女は知らない。
それなのにどうしてそんな言葉が出るのだろう。セリエは自分でもわからなかった。だけれど、自分の隣には最も頼りにする少年が、⦅
「──私も共に戦います!!皆さん、どうか力を貸してください!!」
(……え?)
セリエの言葉に、農夫も続いた。
「もうきっと、逃げる時間もそう沢山残されちゃあねぇだ!こうなったら、この……⦅聖女⦆様と
(……ええ??)
一瞬の静寂──そして…………
──…………ゥ……ゥゥ
──ウゥオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
── ⦅聖女⦆様ぁ!!聖女セリエ様ぁあ!!!!
──そうだ!⦅フィリス⦆を舐めるな!!⦅黒門⦆を舐めるな!!⦅黒獅子⦆を舐めるなぁ!!!!
── ⦅
──やるぞ!!俺たちも
フィリスの大広場は、⦅聖女セリエ⦆の出現を称賛する声、城塞都市⦅フィリス⦆の伝説を讃える声、まだ見ぬ⦅
一人、フィンだけがポツンと取り残されたように呟いた。
「うわあ、ここまで
⦅
◇◇◇◇◇
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