第4話

砂上の楽園か…

人は砂の上を踊る.

何か…

生きているうちに残そうと

爪跡をつける.

夢を描き,

砂の城を作り,

それは半ば

命を賭して.

だが,

残るはサラサラと

崩れる.

それでも,

それでも,

尚,

残るものは…

何だ.

風が吹かない凪があれば,

荒れてどうしようもない嵐が来る.

望む望まざる

私の意志とは関係なく.


まだ,

私は砂の上で踊っていたい.

生きる.

生きるためには,

どうする.


エメラルが,ブツブツ話した後,

指さした.

明らかに不機嫌そうだ…

ダイアはエメラルを

何気に見ていたが,

指さす方を勢い良く見た.

私が逃れてきた建物は1時の方向.

11時位の方向だ.


ダイアが

「行くぞ.」

と声掛けた.


走り出したいのだろう.

足並みは揃わない.

元々の体力差もあるのかもしれない.

装備は無いに等しく,

手枷という不必要なものも

装備しているのだから…

引っ張られ,

半分引きずられながら,

転ばなかっただけで御の字だ.


砂が熱く,

喉はカラカラで,

気が遠くなりそうだった.

カラカラな口からは

意図しない音が出た.


立ち止まり,

視界に入ったのは…


四つ足で,

首が少し長く,

こぶが1つの

生き物だった.

可愛いのか

可愛くないのか

分からないけれど…

睫毛は長かった.


何度も出てくる単語から,

この生き物は

『ラクダ』

と呼ばれる.


ダイアの目が輝く所を見ると,

エメラルに生き物探索を

お願いしたという所なのだろう.


逃げないように持って待つ人物は,

恰幅が良く,

温和な表情だった.

温和な人が怖いという事もある…

ヘラっと笑って見せると,

ニコッとしてくれた.


恰幅の良い人が,

鞄から入れ物を取り出した.

ダイアに渡す.

「クー,有難う.」

言いながら,

開けて口にしようとした所で,

エメラルが止めた.


エメラルが先に口にした.

口に含んだ後,

喉が上下した.

その後,

ダイアが飲んだ.

こちらをくるっと見て,

目をじっと見つめてくる.

綺麗な顔立ちは,

辛い事などとは微塵も無縁で,

綺麗な世界しか見た事が

無いのだと思わせた.


「どうぞ.」

と渡された.


入れ物が…

思ったより重く,

中身も,

まだ入っているようだった.

手枷の重さと,

相まって,

支える事が

やっとだった.


「水は貴重だぞ.」

とエメラルが言った.


そんな事分かってる.

車の中で嫌という程聞いた.

何だか,

そんな故事成語を

何度も言っていた奴がいた.

金は水と同じくらい大切だっていうような,

そんな言葉.


制約がある中,

持ち上げて飲むという動作が

無理なく出来るのか,

ほとほと疑問だった.

体験したことが無い.


固まった私から,

ダイアが入れ物を取り上げた.


あぁ,

私も喉がカラカラなんです.

切なくなった.

「うん.」

分かってるよという表情をしながら

ダイアが言った.


でも,

ダイアはまた,

水を口に含んだ.

あぁ,

私は水が飲めなかった…





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

砂の上を踊る 食連星 @kakumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る