第3話

青年は銃をおろして

「そうか.」

と言った.


白い鞄から,

手枷を取り出し,

私の両手首にはめた.


友だちとか

友愛という

単語を話した.


手枷着けて,

友だちもへったくれも

あるもんか…

誰か,

伝えてよって思った.


「名前は?」


名前…

車の中でも訊かれたはずだ.

何て答えたんだっけ…

私の名前…


私…

誰だ?


黙った私を見て,

何か聞きなれない事を青年は話した.


「コイン.」

指をさされながら満足げに言われた.


あぁ.

名前が分からないんだな,

では俺が名付けてやるよ的な流れか…

いや,

安直でしょ.

コインだなんて.


背丈は同じくらいだ.

砂漠の民は紫外線が強い環境に順応するため,

肌が褐色だ.

そして,

髪は黒く,黒の民と呼ばれる.


目の前の青年は,

色白で別の環境から来たのだろうと

推察された.

裸足の私とは違い,

足には履物を身に着けている.

首と腕にはキラキラする装飾品.

紛うことなく金持ちだ.

か,

銃で奪い取ったか.

黒い民ではないどこかの種族から.

だいたい似たり寄ったりで,

黒い民は貧しい.


石造りの建物を指さすが,

「もう駄目だ.」

青年は,そう言った.


もう駄目か…

一緒に乗って来た人たちは

どうなったのだろう.


金属でできた手枷は

物質的にも精神的にも重たく,

繋がったチェーンを青年は腰に引っ掛けた.


あぁあ,

捕まった.


これは…

このまま

この青年と一緒に私は行くのだろうか.


逃げても,

どこに向かって逃げたら良いのか分からない私と,

捕まって,

どこかに向かって連れて行かれる私.


どちらが良いのか…

誰が知ってる?

誰か知ってる人いる?

人ならずものが知ってる?


気が付いたら人影が近づいてきていた.

チェーンの有余くらいしか距離を開けられなかった.

ビクビクしてオドオドして,

青年は手にかけなかっただけで,

近づく者は,

どんな奴か全く見当がつかなかった.


近づく人影は,

青年に向かって,

「ダイアっ.」

と呼びかけ,

後は何言ってるのか不明だった.


何となくチラチラ見る視線が,

面倒なものを拾ったというような,

早く捨てて来いよというような,

もう…

頭抱えて,

叫びたくなるような,

そんな気持ちにさせる視線と

よく分からない言語と,

何かが

口の中から出てきそうな感じだけど…

カラカラな口からは,

ただ,

息が出たり入ったりするだけで,

この期に及んでも,

生きてるための意識せずに皆が続ける

営みを続けるしかなかった.

出来る事は,

それだけだったんだ.


ずっと黙って聞いていた青年は,

「エメラル.」

って呼びかけた後,

また,よく分からない言葉を羅列して,

私に嫌悪の目を向ける人物に話した後,

私の肩を抱いた.


「友だち.」

って言いながら…






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