第2話

ぎゅうぎゅうに廊下に詰まった人は

詰まったままで,

動きもしなかった.


切り抜かれた窓の外を

ふと見やると,

毒ガスマスクを着けた同じような群れは

一列に並び…

外のぎゅうぎゅうになった人たちを

切り付けた.

赤い血が飛び,

なすすべもない人たちが

銘々崩れ落ちた.


やばい.

このままじゃ,

こっちまで

殺られる.


外の人の群れは

気が付いた.

危険な事を.

だけど,

あの人々の集団を

かいくぐって

動けなさそうだった.


まだ,外回り

人の群れが何十かある.

辿り着くまでに

どうにかしないと.


あのガスマスクは…

きっとお飾りではない.

何か,

有毒なガスを使うつもりなのだろう.

この建物内は

一気に殲滅させる算段なのだろう.


廊下の人々は

まだ気が付いていなかった.

気が付いていないのか,

動けないだけなのか.

周囲を気遣う余裕すら無くなっていた.


動かない頭を働かせ,

どうにかしないとと思っていると,

急に腕が引っ張られた.

父だった.


「行けっ.」

そう言われた.

残して行けない.

「一緒にっ.」

そう声掛けたが,

壁と人の固まりの間に押し込められた.


石造りの建物を外から見た時に,

2階があった.

2階に上った所で逃げ場がない.

ガスは充満するだろうし,

ガスマスクの集団は銃を手にしていた.


反対側は…

どうなっているのだろう.

壁伝いに進み,

空間に出るが,人の群れは

空間内に相変わらずで

ぎゅうぎゅうのままだった.


また,

壁伝いに進み,

小さなくり抜き窓を見つけた.

小さい視界の範囲では

砂漠しか見えなかった.


反対側は地獄だ.

行くしかない.

少し厚めの空間を,

体一つ漸く通るような状態で進む.


外に顔を出した際,

少し眩しく,

砂のにおいが少し落ち着きをくれた.

せめて,

砂嵐があれば自分が隠れたのに.

手をかけて,

体も横穴から出して地面に着地する.


振り返らず,

走れ!

耳から,

自分の鼓動だけ聴こえた.

命の衝動に忠実で,

他の人の事なんて考えられない.

死にたくはない.

こんな所で.


砂に足を取られながらも,

必死に走った.


「止まれっ!」

背後から声が追いかけてきた.

建物から離れた気は全くしなかった.

緊張感のある声…


カチリ…

機械音も聴こえた.


…これは,

まずい.


後ろを

ゆっくり振り返る.


銃を構えた青年.

若い…

1人なら何とかなる…

訳がない.

銃を持っている.


ゆっくり近づいてくる…


ガスマスクは着けていなかった.

金色の髪と目,色白だ.

黒の民ではない.

でも,

「止まれっ!」

の言語は黒の民のものだった.

なぜ…


銃を構えながら,

手を上げろと

ジェスチャーをする.


お望みとあらば…

手を上げる.


銃の側面で

右手の握った手をコンコンとされた.

そうだった.

コインを握っていた.

そのまま,

手を開くと

コインが1枚重力通り落ちて行った.


私が使えなかったコインは

拳の中で1枚だった.


銃を構えていた青年は

大声で笑った.







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