砂の上を踊る

食連星

第1話

気が付いたら,後部座席にいた.

後ろは頭が横たわっていて,

隣には男性.

前は,多分父と男性.

オープンカーと言ったら何だか

高級だけれど.

高級とか程遠い

使い古された壊れかけた

おんぼろ車で.

ガタガタした埃っぽい道を,

気分だけは逸る様な,

ワクワクした気持ちで,

一同が包まれていた.

だって,定員オーバーだもの.

真ん中よりに乗っていたのも,

左の人が身を隠して乗ってるだけ.

すぐには分からなかったけれど,

多分,そう言う事なんだなって思えた.


1~2時間位,

走行して,

人がごった返す街に着いた.

誰がどこに行ったのかも分からない.


紙幣を握りしめて,

コインに換えてくれるのを待った.

ぎゅうぎゅう詰めで,

手だけにゅっと伸ばして,

自分の番を待つ.

これ,渡した後,

本当にコインが自分の元に戻ってくるのだろうか…

次第に,息苦しくなる.

怒号と急く声と,猫なで声と.

誰もが我先にと手を伸ばす.


自分だって同じ.

気持ちと.

周りの人たちと何が違うのだろう.

大人しくしているだけで,

同じ.

押さないで.

言った所で,

私も押してる.

流れに身を任せるしかなかった.

大人も子どもも,

こんな場所では意味が無い.


お姉さんか,おば…さんか,

よく分からない位の赤い紅をさした

女性が,

私の紙幣を前から受け取った.


「自分です!」

思わず口から出て,

女性と目が合う.

あちらも黙ってウインクをした.

ちょっと…

照れてしまった.


本当に私の手に,

コインが戻って来た.

何枚かは覚えていない.

周りと違う枚数だったら詐欺だとか.

そんな悠長な事を言ってもいられない.

そもそも使えなかったのだ.


コインを握りしめ,

交換所を後にする.

人の群れが,流れが,

物凄かった.


コインを手にした後,

何かをしようとするのだ.

石造りの建物に吸い込まれるように入る.

もう,どこに行くの?

とか,

何をするの?何を引き換えるの?

とか言ってられなくて,

流れに身を任せるしかなかった.

本当に身動き一つとる事が出来ないのだから.


慌ただしい群衆は,

押し退けて暴れる人とか,

2階の窓から入ろうとして

人の群れに足をかけて登ろうとする人とか,

もう,

散々だった.


それほどの何かを見てみたい.

辿り着いてみたい.

ただ,それだけで,

何も分からない私は突き進んだ.


ようやく,石の建物の中に入る.

廊下だった.

廊下も人が詰まっていて,

動きは緩慢だった.

石の壁は窓も大きくくりぬかれていて,

それほど,

雨も降らないし,

気候も一定なのだろう.

そう,判断した.


道路は少し建物より上にあるらしい.

目の前を乗り物が通った.

不思議な事に,

防毒マスクをした人々が,

ぎゅうぎゅうに乗った乗り物だった.


怖い…

何かが起こりそうな気がした.

この人ごみの中,

逃げられない.


いつの間にか

一緒に来た人が何人か近くにいる事を想った.



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