第58話 救助

 しばらくしてムゥ達がキマイラを解体して戻ってきた。


「ご主人がメインの頭を縦に真っ二つにするから回収しにくかったのでございます~。」

「悪かったよ、ライオンにはちょっと嫌な思い出があるから…。」

 トドメを刺す時ふと頭を過ってしまい思いっきり振り抜いてしまったのだった。


「とりあえず、先に進もうか。」

「うん。」

「おう。」

 俺達は準備を整え再び下を目指して歩みだした。


「マサト君、言いたくなかったらいいんだけど、残りの7人のこと教えてもらってもいい?」

 マサトはこっちを向き、少し険しい顔をして見せた。


「…それは、戦うことになるから情報が欲しいということですか?」

「一応、知っておいたほうがいいかなって、言いたくないなら別にいいよ。」

 正直知らなくてもどうにかできると思う…あのキマイラに苦戦して撤退を選んだ奴らだし、たぶん一番強いであろう人物は今ここに居る。


「まず、勇者と呼ばれているのがユウト…聖剣レクテスと光系と炎系魔法が得意です。」

 マサトは黙々と自分の仲間達について語りだした。


「弓を使い遠距離支援をしているのがケンゴ、黒い鎧の二刀剣士がセイジ…かっこいいし便利ってことで投げナイフも使います。」

 自分を殺そうとした張本人だ、思うこともあるだろう…マサトはグッと拳を握っていた。


「…ショウコはエンチャンターで仲間を強化したり結界を張って守ったりできます、リエは眼鏡の女の子で攻撃魔法、特に風、氷系が得意です。」

 聞いてる感じバランスは悪くないが前衛が薄く感じる。


「次はユキ、格闘士で自身を強化する魔法も扱えますそして…。」

 少し言いよどむ。


「ミオさんだっけ、治療士だよね?」

「はい…僕の幼馴染です…。」

 心配なのだろうか俯いてしまった。


「話してくれてありがとう、参考にするよ。」

「できれば、殺さないで…ください…。」

 マサトは絞り出すような声でお願いをしてきた。


「セイジも?」

「…はい。」

「甘いですね。」 

 いろいろ考えた結果なのだろうがムゥがバッサリと切り捨ててしまう。


「お前なぁ…努力はするけど、相手次第だってことはわかってほしい。」

 これが俺達の精いっぱいの譲歩だ、他人のせいで仲間を危険にさらすなんて絶対に嫌だ。


「ムゥ、彼に前使ってたマントを。」

「わかりました~。」

 そう言うとムゥはカバンから前に使っていたマントを取り出しマサトに差し出す。


「一応それで顔を隠しておいてほしい、君が生きていることは知られないほうがいいだろうしね。」

 向こうに無駄な混乱を与えてめんどくさいことになるのは避けたかった。


「わかりました。」

 察してくれたのか素直にマントを纏いフードで顔を隠してくれた。


「なぁ、反響してるけど何かがこっちに走ってくるぞ。」

 少し先行してたガルアスが何かを聞きつけ伝えてきた。


「確実に近づいて来てる…。」

「戦っているというより、逃げている?」

 走る音に金属のぶつかる音、何かが爆発するような音も混ざって聞こえてくる。


「結構広い通路ですけど隠れられる場所がないのでございます。」

「迎え撃つしかないかな…皆!」

 俺達は臨戦態勢で近づいてくるものをその場で待ち受けることにした。


「待て!!」

 声が聞こえてきた、あの勇者の少年の声だ…次第に何かを追いかける彼らが見えてくる。


「貰った!」

 弓が逃げている者の足元に当たりバランスを崩し転倒した、それは直立し胴が太く人に近い姿をした蟻だった。


「助ケ…救助、求ム…。」

 それは迫る勇者の剣の中どうにか助けをと目に入った俺達に手を伸ばしていた。

 

 ガキン!!

 

 俺は声を聞いた瞬間飛び出して勇者の剣を弾き飛ばしていた。


「お前たちはなんだ!?」

 驚くユウトの横をすり抜けセイジが蟻目掛けて飛び込んでくる。


「もらっぁ!?」

 その動きに合わせてセイジの剣も弾き飛ばしそのまま膝でセイジの鳩尾を蹴り飛ばし壁に叩きつけた。


「お前らこそ何してんだ!」

「アンティオンは亜人族であり魔物じゃねぇぞ!」

 ガルアス達も追いついてきて勇者達に怒鳴りつけた。


「そんなことあるか!この国はこの蟻共のせいで苦しんでると、俺達はそれを助けに来たっ!!」

「そもそも困ってなんて居ないんだよ!お前らがやってるのは他国の妨害だ!!」

 やはり認識していなかったようだ、妨害と言われキョトンとしていた。


「それは、どういう…?」

「お前らは他国がダンジョンで儲かるのが面白くないから潰させるために送り込まれた妨害者なんだよ。」

 戦意が無くなったみたいだったので俺達も武器をしまった。


「無事か?」

 俺達は追われていたアンティオンを見やる、足に怪我しているようだが他は無事そうだ。


「感謝スル、オ陰デ命拾イシタ。」

 アンティオンは槍ともう片方の手に何かを大切そうに抱えていた。


「それは?」

「姫…女王陛下ノ最後ノ卵。」

「つまり二代目クィーンの卵ということですね?」

「然リ、我ラハ今危機ニ瀕シテイル…助ケテ、欲シイ。」

 俺達は顔を見合わせ、アンティオンに向き直る。


「詳しく教えてもらっても?」

 アンティオンは頷き話し続ける。


「女王ガ死ニ最後ノ姫ヲ育テナケレバイケナイノダガ、女王ハ生キテイルト傷ヲ癒ス為ニ道ヲ封鎖シテシマッタ。」

「それだとしても時期に死に気づいて解決するのでは?」

 彼?だろうかアンティオンは卵を見つめながら首を横に振った。


「問題ガアル…姫ノ成長二奥ノロイヤルシロップガ必要、姫ノ孵化ハ間モナク…時間ガ無イ。」

「要はこの先で道を塞いでる女王生存派を黙らせればいいんだろ?俺達がどうにかしてくる。」

 黙って話を聞いていた勇者達がそう言うと奥に向かい歩き出した。


「後ろのキマイラは倒した、そんなことしなくても安全に帰れるぞ?」

「ふざけるな!ここまで来て何も無しで帰れるか!!」

 そう言うと勇者達は奥へと向かって行った、セイジは蹴り飛ばされたせいか思い切り睨んできていた。


「ガキでございますね…。」

 ムゥはボソッとそう吐き捨てた。


「とりあえず貴方の手当てしましょう。」

「感謝スル…。」

 そしてムゥはアンティオンの怪我の手当てを始めた。


「我ガ名ハ、ソルド・スピア・コマンド…女王ノ親衛隊ダッタモノダ。」

「ソルド、手当てが終わったら案内頼めるかい?」

「感謝スル、シカシ女王ノ間ニハ最強ノ近衛ガ…。」

「名前は?」

「ジェネラル・クワッド・ソード。」

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