第57話 範囲指定召喚

「とりあえず、マサト君痛みは大丈夫そう?」

「はい、痛み止めも飲みましたし手当てもしてもらって大丈夫です。」

 なんと言うか、心が強いのだろう、腕を失っても人のために動こうとしている。


「貴方、地球人ですよね?あのパーティ全員召喚人ですか?」

 ムゥの質問にマサトはぎょっとした表情して見せた。


「なんで、それを?」

「あたくしとご主人はそっち系の関係者なのでなんとなくわかりますよ。」

 それを聞いて彼は俺の事を見つめてきた。


「…俺はタカユキ・ヒグサ、元日本人だよ。」

「僕達以外にも召喚された人って居たんですね。」

「結構居るみたいよ?」

 そこら辺は何も聞かされていないようで驚いてるようだった。


「あ、僕の仲間ですよね?そうです、皆日本人で同じ召喚人です…正確にはクラス全員がこっちに召喚されたので全員で32人居ます。」

「わお…。」

 思った以上に大人数だった。


「あ~わかりました、範囲指定系の召喚でこっちに連れてこられちゃったんですね…ご愁傷様でございます。」

「ムゥ、どういうこと?」

 ムゥの反応が急に雑になったというか、くだらないというような感じになった。


「範囲指定系は勇者となりうる候補が居るエリアを大雑把に見つけて囲んで、その範囲の生命体を丸ごと転移させる最も雑な異世界召喚でございます。」

「じゃああの派手な鎧の子一人を呼ぶために31人が巻き込まれたってこと?」

 とんでもないとばっちりだ。


「勇者一人のためにっていうのは正解ですけど、あれが勇者かは定かじゃないのでございます。」

「見た感じ明らか勇者だったじゃん、あの中では普通に強そうだったし?」

「どうせ転移してきた集団の中で中心に居て一番目立ってたのを勇者様とか言い出したんじゃないです?」

 マサトはキョトンとした顔でムゥの方を向いた。


「そうです、優斗…ユウト・タチカワは文武両道の学年トップの人気者でしたし実際困惑してる皆の中で落ち着いて状況を把握しようとしてました。」

「やっぱり…どうせそれを見てその人こそ勇者様ですねとかどうとか言って担ぎ上げられたんでございましょ。」

 なんだろう、ムゥ的には不満…というより楽しくなさそうな感じだ。


「転移者は基本的に能力が強化されますのでこっちの一般人より強いのは当たり前、装備やセンスにもよりますけどだいたい強力なのでございます。」

「確かに俺がこっちに来る時も言われたなぁ…。」

「つまり集団を召喚すると全員が強くなってるので勇者が誰かよくわかんなくなるのでございます。」

「あれは勇者じゃないってこと?」

「基本的に地球もですけど世界に合う合わないがございます、例えばご主人は地球に居る時なんで生きてるのか分からなくなっていましたよね?」

 確かに、ただ仕事して食べて寝るだけの詰まらない人生だった…。


「それは歯車が世界と噛み合っていないということなのです、そういった人間をこっちに連れてくると偉業を果たす英雄になったりするのです。」

 俺はつまり英雄になる可能性があるからこっちに連れてこられたということなのだろうか?


「逆に向こうの世界に噛み合ってる人間を連れてきた場合、能力があるので上手く立ち回る人は居るでしょうけど根本的に噛み合いが無いので限界がすぐやってきて崩壊するのがほとんどでございます。」

 こっちの常識と地球の常識、感覚が噛み合わなくなるということだろうか?


「ユウトは勇者ではないと?」

「さぁ?ですが向こうで充実した生活をしていたなら噛み合っていない可能性が高いかと?」

 確かにリア充、パリピ、ドキュンとか陽キャと呼ばれる人種は向こうの方が生きやすいだろうとは思った。


「仮勇者はともかく残りの人間は一通りの武器や魔法を使わせてその人が扱いやすそうとか趣味、好みで選ばせてその中でもトップで強いメンバーを集めたのがあの8人だったのでは?」

「そうかもしれない、でも、他の人はともかく僕はそんな強くないですよ…。」

「盾役ができるのが貴方しかいなかったんじゃないんですか?それかあの8人の誰かの推薦とか。」

 確かに味方を守るために敵の正面に出る盾役は怖いだろうしやりたがる人はそうそう居ないだろう。


「ではご主人、勇者パーティの成り行きもなんとなくわかりましたしキマイラをバラシてくるのでございます~。」

「任せるよ。」

 ムゥはお任せを~とさっさとキマイラの方に行ってしまった。


「タカユキも転移者だったんだな。」

 ロゼッタがこっちを向き聞いてきた。


「ごめん、言ってなかったね。」

「いや、異様に強いくせに常識や知識、経験が極端に少ないなと思ってたんだけど納得した。」

 そう言うとニヤっとして見せた。


「あたしもムゥを手伝ってくるよ。」

 そう言うとロゼッタもキマイラへ向かって行った。


「私はタカユキについていくって決めてるから、過去とか気にしないよ?」

 チラっとゼルを見たら空気を察したのか先制で言われてしまった。


「ありがと。」

「うん!」

 ゼルはニコっと微笑んで見せた。


「いいパーティですね。」

「俺は新人だけどな!」

 マサトの言葉にちょっと仲間外れ感を感じたのかガルアスは不満そうだった。


「これからだよ、まだ始まったばかり!」

「…おう。」

 ちょっと照れくさそうなガルアスに笑いながらしばしの休息をとるのであった。


「あの黒い装備の子は、君とかに絡んでくるめんどくさい不良モドキみたいな奴?」

「え?あ…はい…、ほっといてくれればいいのになぜか絡んで来てました。」

「そういう奴居るよね~。」

 いじめの延長線だろうか、どうしてもそういうのは居るししょうがない、でも異世界だから平気で囮にして見殺しは異常気がした。


「向き合うしかねぇだろ、気に入らないっていうならぶつかるしかねぇよ。」

 ガルアスはそう言うがなかなかできないのもわかってしまう、学生の難しいところだろう。


「これからの話をしよう、マサト君は自分の身を守ることに専念してくれて構わない、俺達が戦うことがあっても陰で隠れててくれて構わない。」

「そんな、僕も盾くらいにはなれます!!」

「右腕を失った君を最前線に出す程俺達は困ってないし、君の仲間が敵になる可能性だってあるんだ…。」

 そう、今後の動き次第では勇者パーティとやり合う可能性だって十分ありえるのだ。


「それは…。」

 仲間と戦わせるのは酷だろうし、向こうを彼が助けようとしたら俺達は…。


~同時刻~


「なんで!!なんで、雅人が死ななきゃいけなかったの!!どうして!?」

 澪は雅人を置き去りに逃げたことが納得いかず仲間達を問い詰めていた。


「澪、もうあの状態ではああするしか方法はなかった、腕を失ってでも守ろうとしてくれた意思を無駄にするわけにはいかなかったんだ。」

 優斗は澪をなだめようと説得を続けていた。


「盾が使えて前に出れるのがアイツしか居なかったってだけで連れてこられたんだ、しょうがねぇよ。」

 雅人が死んだのはしょうがないと吐き捨てる誠司を澪はギッと睨みつけた。


「そんな言い方ないでしょ、彼が居なかったら澪はやられてたんだし…。」

「でもよぉ…。」

「仲間同士で言い合っててもしょうがないよ、澪も落ち着いて。」

 翔子と誠司の言い合いを理恵がなだめる。


「今は先に進むしかない、せっかく雅人が作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。」

「帰りに遺品くらい回収できればいいけど…。」 

 優斗はどうにか前に進もうと考えてる、翔子は澪の気持ちを尊重したいらしい。


「またあのキマイラと戦うの?無理だよ…。」

 健吾の言う通り、勝てなくて逃げた相手に再び挑むのは無謀なことだった。


「それよりも先に進んで、クィーンを倒して別の通路から外に戻る方が安全だしアイツの死も無駄にならないだろ…。」

 雅人を囮にしたことをバレないよう必死に誠司は言葉を考えていた。


「そうよ、あの怪物は私達と相性が悪かっただけ…そう、悪かっただけなのよ…。」

「確かに飛び回って由紀の間合いに全然入ってこなかったもんね…。」

 由紀と呼ばれたモンクの少女は悔しそうにギュッと手を握りしめた。


「俺達は先に進まなきゃいけない、この国のためにも必ずクィーンを倒すんだ!!行こう!!」

 優斗の掛け声に仲間の死を飲み込んだ7人は更に深くへと潜っていくのだった。

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