ロードストライカー～いまさら王道冒険譚～

第56話 キマイラスレイブ

「なんだ！？」

「アイツ今、味方にナイフを！？」　

「あの子を逃げるための囮にしましたね。」

　俺達はひそかに様子を窺っていたがとんでもないものを見てしまった、仲間を守るために立ち向かった少年に味方が攻撃を仕掛けて囮として切り捨てたのだ。

「あれは、ダメだろ！！」

　俺は我慢できずに飛び出した、ブレスレットからドボルガッシュを呼び出し全力思いっ切りキマイラを殴り飛ばした。

「大丈夫、お前は死なせない！！」

　急に吹き飛ばされたキマイラは怒りを露わにこちらを唸りながら睨みつけてくる。

「ご主人は結構お人好しですよね。」

「俺はそういうの好きだぜ。」

「私も好き。」

「ったく、あの要塞ニャンコどう攻略するんだ？」

　勇者パーティは飛行能力に翻弄され、ヤギ頭の防御能力、本体と蛇頭の攻撃力に太刀打ちできてなかったが俺達にはそんなの関係ない。

「単純だよ、あいつらは前衛に火力が無いから苦戦してた。」

「つまり？」

　ロゼッタの質問に答えるように俺はキマイラに正面から殴りかかった。

「正面から殴り倒す！！」

「ハハ！そりゃわかりやすいわ！！」

　キマイラを正面から殴りつけ、本体がダメージを受けてフォローしようと攻撃してくる蛇頭をガルアスが斧で弾き飛ばす。

「ジャイアントボーンパンチ！」

　ゼルの魔法で呼び出された骨巨人の腕が地面からメキメキと現れ、更に追撃で殴りかかる。

「ロゼッタ、彼を！」

「わかってるよ！」

　ロゼッタは雅人に手を貸し安全な場所へと移動を始めていた。

「グガァァ！？」

　キマイラは飛び上がり勇者達を苦戦させてたように攻撃を避けようとしていた。

「空中戦はさせないよ、ムゥ、ゼル！！」

　俺は二人を呼びドボルガッシュをムゥに投げ渡し、骨巨人の手に飛び乗る。

「お任せを！」

「うん！行くよ～！」

　骨の腕は俺をキマイラ目掛けて思いっきり投げ飛ばす。

「うらぁぁ！！」

　俺はディスペリオンを呼び出し、空中に居るキマイラの翼をすれ違いざまに斬り落とす。魔法を撃ち消すディスペリオンの前に防壁魔法など関係ないのだ。

「ガルアスさん肩借りますよっ！！」

「ぐおっ！？」

　バランスを崩し落下し始めるキマイラにガルアスを踏み台にムゥが飛び上がり、ドボルガッシュで背中を思いっきり殴り地面へと叩きつけた。

「グルルルルッ！」

　怒りを露わに立ち上がるキマイラ、翼一枚無くなったくらいではまだまだ平気らしい。

「しぶといなぁ！」　

　着地しキマイラへと向き直りディスペリオンを構えなおす、そして俺が駆けだすのと同時にムゥとガルアスも動き出す。

「なんかくる！」

　キマイラの動作を見ていると何かをしようとしているのがわかった、危険を察知して俺達が正面から逸れたその時だった、獅子の口から火炎放射を吐いてきたのだ。

「ダメ！」

　ゼルは杖で骨巨人の腕を操り獅子の頭を鷲掴みにして無理矢理火炎放射を止めてしまった。

「ナイス！」

　俺はそのうちに恐らく魔法担当であろうヤギ頭に向かう。

「どおぉりゃ！！」

　妨害しようと迫る蛇頭をガルアスが抑えに行く。

「脳天直撃ですよ！！」

　ムゥは顔を鷲掴みにされて身動きのとれない獅子頭の脳天をドボルガッシュで思いっ切り叩きつけた。

「貰った！！」

　ムゥの一撃でよろめいた隙に俺はディスペリオンを両手で構え全力で振り抜きヤギ頭を吹き飛ばした。

「グゥルルルル…。」

　蛇頭もガルアスの一撃で吹き飛びほぼライオン状態の満身創痍という状況でも立ち上がろうとしてくる。

「これで終わりにしよう。」

　俺は立ち上がろうとするキマイラの正面に行き、剣を振り上げ縦一線に振り抜いた。ドスンと音を立ててその巨体は力尽き崩れ落ちた。

「お疲れさまでしたと。」

「ロゼッタ、そっちは？」

　戦いのケリは付いた、怪我人を任せていたロゼッタの方を向く。

「大丈夫だ、止血はした命には関わらないと思う。」

　俺達はロゼッタの方へと歩いて行き、隣にいる失った右腕を押さえながら下を向く少年の下へと歩いてきた。

「あの、ありがとう…ございます。」

　彼は上を向きお礼を述べた、明らかに大丈夫じゃないのに大丈夫かい？というのは悪趣味だろうし何て話しかけよう…。

「とりあえずその状態じゃ何もできないでしょうし、足を直しますね？見せてください。」

「あ、はい…。」

　一番最初に話しかけたのはまさかのムゥだった、いつもめんどくさがって黙ってるのに…。

「こんなとこで歩けないお荷物なんて抱えていけないのでございます！」

「お前っ…。」　

　実際その通りなんだけど、はっきり言いやがった！！

「すみません…。」

　案の定また落ち込んでしまった…。

「あぁ、えっと…とりあえず、君のことを教えてもらってもいいかい？」

　頑張っていたのに仲間に裏切られ大怪我を負いもうボロボロだろうし見ていたから状況はわかる、それでもまずは会話をしないと、助けるに助けられない…。

「僕は…僕は柏木雅人…マサト・カシワギと言います、助けていただきありがとうございます。」

「ムゥ、キマイラから腕を回収したら繋ぎ合わせることは？」

「無理です！そもそもぐちゃぐちゃでもう再生不可能でございますよ！！」

「ダメかぁ…マサト君、俺らが今できるのは腕の止血と足の手当てだけみたいだ。」

「十分です、ホントはさっき死ぬはずだったんですから。」

　やはり仲間に見捨てられたのはショックだったのだろう、だけどこのままのんびり立ち直るまで付き合うわけにもいかない…残酷だけど聞かなければならない。

「マサト君、君はこれからどうしたい？」

　とりあえず外に脱出したいなら手を貸すしそれ以外でも…。

「僕は…澪が心配です…。」

「ミオ？」

「僕の幼馴染でずっと一緒だった…大切な友達なんです…。」　

「その子も助けてくれってことか？」

「いいえ、僕は皆に追いつきたいです。」

「そんな体で？」

「盾くらいなら扱えます…。」

　この少年は絶望的な状況で折れていなかった。その少女のためなのかわからないが譲れない何かを持っているのだろう。

「わかった、目的地は多分一緒だし君次第だけどついて来るかい？」

「行きます、絶対に邪魔はしませんので！よろしく、お願いしますっ！！」

「ご主人甘いんですからぁ…。」

　ムゥに嫌そうに文句を言われたがとりあえず衝動的とはいえ助けてしまったのだし最後まで面倒は見ようと思った。