第55話 遭遇、勇者パーティ
「さてと、じゃあ王様の毛皮を採取しますかね~。」
俺達はダンジョンに潜り最初の戦闘を見事勝利で飾りその戦利品採取を始めようとしていたところだった。
「雑魚の方はもうやったの?」
「ズタズタにしちゃった。」
「あ、了解です。」
ゼルに笑顔でズタズタとか言われるとちょっと怖い。
「この狼の毛皮はマントやローブに加工できるし、丁度ご主人が頭斬り落としてるんで血を抜いたらそのまま持って行っちゃいましょ。」
冒険者になって思ったがこういうとこはちょっと生々しいってかちょっとグロい…。
「悪かった、もう少し冷静に戦うようにする。」
「あの狼とあれだけやり合えるなら十分だよ。」
実際ガルアスは前衛として優秀なのだろう、ただ連携が上手くできないというだけで慣れてくれれば頼もしい存在だ。
「じゃあこのまま先に進もうか、このドームの奥にも道は続いてるみたいだし。」
「この先は強力な魔物が多くなっていくので他の冒険者もそうそう居ないでしょうから慎重にでございます。」
そして俺達はダンジョンをさらに深く潜っていく。
「ここも同じ感じだけど、特に魔物が見当たらないね…。」
通路を進み新しいドームに来たのはいいがさっきと同じような森林のエリアではあるが魔物、というより生物の気配が全くなかった。
「ん~安全エリア、というわけではないでしょうけど…。」
「なぁ、こっち来てみろよ!」
ロゼッタに呼ばれ木々の中に入っていく。
「これは、先客が居たってわけね…。」
そこには木々が折れ魔法が使われた形跡、なにより中央に巨大な猿のような魔物が力尽き倒れていたのだった。
「おかしいですね…。」
ムゥが死体を観察しながら呟く。
「ここの魔物なんですけど、剥ぎ取られたり素材を回収された形跡がないのでございます。」
「そういえば、死体が原型を保ってる…。」
「つまり素材に興味がないやつらに倒されたってことだな。」
「勇者パーティ…。」
冒険者はここにお金を稼ぎに来ているようなものだ、自分たちの倒した魔物の素材を回収しないなんてありえない肉にしろ皮にしろ何かしらは絶対に金になるからだ。
「この迷路のなか同じ進行方向にぶつかってしまったようですね。」
「魔物より会いたくないなぁ…。」
絡まれるとさっきのチンピラ冒険者よりめんどくさいのは確実だし、正直こんな場所まで来て人間に邪魔されたくない…。
「とりあえずいらないっていうならうちらでこの素材貰っちまおう、見た感じ強そうだしいい値段するんじゃね?」
「そうしましょ!」
ムゥとロゼッタはそう言うと放置された猿の解体を始めるのであった。
「エルダーバブーンですね、知能が高く魔法を扱える強力な魔物でございます。」
「採取目的で倒されてないからあんまりいい状態じゃなかったけど、骨とかは回収できたな。」
「とにかく目的地は下層だし、下に向かおう出会わないことを祈って。」
ラドレス王国の件もあるしあんまし勇者に対して印象は良くない、できるなら絡まないことが望ましいのだ。
「でも下への道は一つしかないし追いかける形になるなぁ…。」
「…。」
ガルアスの一言で気が重くなった…。
「とりあえず、行こう…。」
正直嫌な予感はあった、巣の構造上下に行けば行くほどドームが減り逆三角形のような形になっている可能性があったからだ、昔図鑑で見た蟻の巣はそんなこと無かったが割と一本道で繋がっているという印象があったのだ。
「森林が無くなったな。」
次についたドームは荒野のような空間が広がっているがやはり生物の気配が全くなかった。
「狼と戦ってから全く敵に会わなくなったな。」
「もう蟻が餌として持って行ったか…。」
「勇者達の後を追っているせいか。」
「とりあえず油断せずに進もう。」
こうして俺達は慎重にしかし確実に下へ向かう通路を進んで行き、ついに追いついてしまったのだった。
「ご主人、何か聞こえます!」
耳を澄ますと剣だろうか?なにかがぶつかり合う音が響いてきた。
「皆、慎重に。」
気配をなるべく消して慎重に先へ進んで行く、ドームに差し掛かるとそこはまさに巣穴というような状態で食べた魔物の骨などがそこら辺に散らばっていた。
「グルァァァァアア!!」
大きな雄叫びが響き渡り巨大な何かが翼を広げドーム狭しと暴れまわっていた。
「あれは、グレイキマイラだ…。」
グレイキマイラ、それは獅子の体を中心に蝙蝠のような翼が生え、背中の辺りからヤギの頭が生え、尾の部分も蛇の頭をしているまさにファンタジー作品に出てくる合成獣キメラという姿だった。
「あんなのも居るのかよ…。」
「滅多に居ませんよあんなの。」
キマイラと相対しているのは白を基調に金の装飾と派手派手な鎧を身に纏う少年が水色に光る剣を振るい戦っていた。
「あれが勇者か…。」
「とりあえず様子をみよう。」
俺達は勇者達の戦いを陰から見守ることにした。
「くっそ、優斗こいつつえぇよ…!」
短刀二振りに黒い皮鎧の目付きの悪い少年が弱音を吐く。
「戦いに集中しろ誠司、健吾!羽を撃ち抜いてくれ。」
優斗と呼ばれた勇者であろう少年が指示を出しながらキマイラと斬り合う。
「わかってるんだけど、硬くて貫けないんだっ。」
健吾と呼ばれた少年は緑の皮鎧に弓矢と典型的な後衛で羽を狙い矢を放ち続けているがキマイラのそれは硬くことごとく弾かれていた。
「翔子、エンチャントをっ!!」
「無理言わないで!優斗への障壁で手一杯でそんな余裕ないわよ!!理恵そっちは?」
翔子と呼ばれた少女は魔法使い、付与術師なのだろうか勇者への攻撃を防ぐ壁を張っているようだった。
「ダメ、ヤギの頭が魔法への障壁を張れるみたいで健吾と一緒で攻撃が通らないっ。」
理恵と呼ばれた少女は紫のローブに眼鏡が印象的だ、杖を掲げて魔法攻撃をしているみたいだ。
「澪は下がっててくれ、君が俺達の命綱なんだから!」
「わかってる!」
澪と呼ばれた少女は青と白色のローブの神官という雰囲気だった。
「おい雅人!テメェはこいつに攻撃できねぇんだからしっかり守ってろよ?」
「わかってるよ!!」
雅人と呼ばれた少年は盾と剣を持つクルセイダーだろうか?澪と呼ばれた少女を守るように立っていた。
「くっそ、あたしも攻撃が届かねぇ…。」
もう一人、少女も居るが格闘家らしく攻撃できずにあぐねいていた。
「苦戦してるね。」
どうやら勇者パーティは優斗を中心に誠司、健吾、翔子、理恵、澪、雅人、格闘少女の8人構成らしい。
「くっそ、おい、こいつは無視して先に行こうぜ!めんどくせぇよ!!」
誠司と呼ばれた少年はもう諦めて逃げることを考えているようだった。
「だがこの状況じゃ逃げることすらっ!」
なおもキマイラの猛攻は続いていた、勇者達は実際強いのだろうが相性が最悪らしい。
「グアァァァァ!!!」
「ぐあっ!?」
急にキマイラが吠え、急降下し勇者を前足で殴り飛ばし澪と呼ばれた神官少女に急接近し襲い掛かる。
「澪、危ないっ!!」
雅人と呼ばれていたクルセイダーの少年が割って入りキマイラの攻撃を受け止める。その時、誠司と呼ばれた少年が笑った気がした…。
「澪今のうちにこっちにこいっ!」
キマイラの攻撃を受け止める雅人と澪の間に誠司が入り込み澪を連れて距離を取るその間際だった、どさくさに紛れて雅人の膝に後ろからナイフを投げつけていた。
「うっ!?」
関節でしかも装甲の無い裏からの不意打ちに雅人はバランスを崩しガクンと膝が折れた次の瞬間、キマイラの牙が彼の右腕を食いちぎった。
「ああああああああああああああああ!?」
「雅人!!!」
澪が叫んで雅人を助けようと駆けだすのを誠司が抑える。
「アイツはもうダメだっ俺達だけでも今のうちに先へ行くんだ!!アイツの命がけの時間稼ぎを無駄にするなっ!!」
「そんな、嫌ぁぁ!!」
暴れる澪を誠司は抱え上げ無理矢理に走り去っていく。
「くそっ…すまないっ!」
優斗の一声に全員が従うように雅人一人をその場に残し、7人は洞窟の奥へと消えていった。
「うっ…。」
痛みに、ただ一人見捨てられた雅人は絶望の中自分の腕を喰らい今にもトドメを刺してこようとするキマイラを仰ぎ見ながら…ただ茫然と死を悟った。
ズドーン!!
その時だったキマイラがものすごい勢いで横に吹き飛び正面に巨大なハンマーのような武器を持った白い鎧の戦士が立っていた。
「大丈夫、お前は死なせない。」
俺はキマイラを叩き飛ばし雅人をかばうように立ち向かっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます