第54話 ダンジョンネスト

 俺達は準備を終え、ダンジョンに早速踏み込んでいった。


「それにしても、仲悪そうだったなぁ…。」

「そりゃ他国の騎士団同士ですし、しかも勇者パーティなんてあきらかダンジョン潰そうとしてるやつらにいい顔するわけないじゃないですか。」

 ダンジョンに向かう途中広場に堂々と侵入し止めてある白い馬車群を中心に二国の騎士団がお互いを牽制し合っている険悪な空気が漂っていたのだ。


「ダンジョン内は思いのほか綺麗にされてるね。」

「危険な場所だけど国にとっても宝の山だからなぁ、ある程度は出入りしやすいようにしてんだろ?」

「それにギルドの隊員みたいな人も結構潜ってるみたいだね。」

「クリーナーだな、冒険者が倒した魔物の運搬、残骸の回収とかを依頼するとやってくれる便利やだ。流石に深部の方は無理だけどな。」

 周りを見渡しながらガルアスが教えてくれた。


「俺らはリスクはあるけど最初からなるべく下の方に潜っちゃおう、どうせ浅いところは混んでるだろうしね。」

「そうでございますね、ただ勇者パーティも潜っていますので気を付けてくださいね?めんどくさいのは嫌でございます~。」

「勇者かぁ、強いんだろうなぁ…。」

「さぁ?選ばれた状況次第ですがそこら辺の勇者ならご主人の方が強いのでございますよ。」

「凄い自信だな…、心強いがあっけなくやられたりしないでくれよ?」

「そんなつもりはさらさら無いよ。」

 ガルアスの心配もわかるがそうそう勇者と戦うことも無いだろうし、あの白いハイドラのような異常な化け物も居ないだろう、危険は極力避けながら利益が出たら撤退しよう。


「設置されてた松明が無くなってしばらく経つけど、結構明るいね。」

「見た感じ水晶や鉱石の反射やヒカリゴケのお陰で不自由のない程度の光量が確保されていますね。」

 しばらくダンジョン内を進んで行き人の手が入れられてないエリアにやってきた。


「これが蟻の狩場ってやつね。」

 そこはドーム状の空間が広がっていてなぜか木や草が生えていたり倒れた大木があったりと小さな自然が広がっていた。


「なんで植物が…?」

「プランターと呼ばれる植物を活性化させたり植え付ける蟻が居るんだ、狩場に誘導した生物が勝手に繁殖してくれるようにって。」

「なんでもありなのね…。」

「何でも栄養で無理やり繁殖させてるから少しバランスが崩れるとあっという間に枯れちゃうそうですよ?」

「太陽がない空間だもんな…。」

 やはり太陽は偉大だということだ。


「お話は後にしな、来るよ!」

 ロゼッタの声に全員の思考が切り替わる。


「デカいな…。」

「蟻を抜きにしてこの巣の中でも弱肉強食、食物連鎖が成り立っているのでございますよ。」 

 目の前の木の陰や岩の影から俺達に向けられる殺気、複数匹いるだろう。


「奥の方にデカいのが居るな…。」

 ガルアスは奥を見据えながら背中の斧を取り出し臨戦態勢へと入り、俺達も剣を抜刀し身構える。


「グルァァァァァーーーー!!」

 その大きな鳴き声に呼応するように潜んでいた狼達がゆっくりと姿を現していく。


「悪意の黒狼、マリスウルフですね…群れで行動して、残虐な性格で獲物を生きたまま苦しむ姿を見ながら食べるそうですよ。」

「群れの長はマリスケーニッヒって呼ばれて一際大きな体躯と圧倒的な残虐性を持つ危険な魔獣だ…。」

「そんなのも居るのね…。」

 群れの奥でケーニッヒが吠えると周りの狼が一斉に動き出した。


「ケーニッヒは俺が抑える、いくぞぉぉ!!」

 そう叫ぶと群れの奥目掛けてガルアスは突っ込んでいった。


「ちょ、ガルアス!!」

 止める間もなくガルアスの姿は奥に消えていき、狼達が一斉に襲い掛かってくる。


「初動はあたしだよ!」

 ギュイーンと音を立ててチャージされた三連バレルのスペルシューターを構えたロゼッタが戦闘に立ちバシューンっと撃ち放った。


「キャウンッ!?」

 弱々しい鳴き声と共にロゼッタの放った弾は拡散し正面に居た2匹の狼をズタズタに貫いた。


「次行くね、ボーンスパイク!!」

 ゼルが杖を振ると今にも飛び掛かろうとしていた狼達の足元から鋭い棘のような骨が伸びていき串刺しにしていく。


「ご主人はあのデカ猫の後を追ってください、雑魚はこっちで始末しておきますよ!」

 そう言いながらムゥは鉈を振り狼の首を落としながら片手で器用に魔法を放ち狼達を倒していた。


「おっけ~まかせたよっ!!」

 そう言いながら俺はハイドラの逆鱗から作られた白く煌めく二振りの剣で2匹の狼を口から横薙ぎに真っ二つに斬り裂き、奥に向かい駆けていく。


「うおぉらぁ!!」

 ガルアスの声が聞こえる、奥ではガルアスとケーニッヒが一進一退の攻防を繰り広げていた。


「ガルアス!!」

 声は届いて無いようでそのまま斧で斬りかかろうとした瞬間ケーニッヒがステップを踏み振りかざした斧が空を切った、次の瞬間狼の鋭い牙がガルアスの首に迫った。


「なんのぉぉぉ!!!」

 ガルアスはギリギリで踏みとどまり斧を無理やり持ち上げどうにか牙を受け止めた。


「ぬおぉぉぉぉぉ!!!!」

 そのままケーニッヒとの力比べを始めたが無理矢理体制を変えたせいか長くは持たなそうだった。


「ガルアス、そのままちょっと耐えてて!」

「ちょっ、ぐおっ!?」

 俺は援護に間に合った、ガルアスの肩に足を掛け思いっきり飛びあがり空中でクルリと回転し、ケーニッヒの頭目掛けて二刀を振りぬいた。


「大丈夫そうだね。」

 ケーニッヒの頭がボトッと地面に落ちるのと同時にスタッと着地し、足場にした拍子にこけたガルアスに向き直ると頭を擦りながら尻餅をついていた。


「急になにすんだよ。」

「そっちこそ急に突っ込むなよ、そんなことしなくてもこの位どうってことないんだから焦らないでいいよ。」

 俺は右手の剣を肩に乗せながらガルアスに言い放った、初陣で自分の力を見せたかったのだろうがそれで死なれたら元も子もないのだ。


「…。」

 ガルアスは少し考え込んでしまった。


「うちは元々どっかのご主人様が無茶苦茶な戦い方するので暴れる前衛の支援は慣れっこなのでございますよ。」

 そう言いながらムゥ達三人が歩いてやってきた。


「無茶苦茶で悪かったな!」

「ふふふ、こっちも片付いたよ。」

「まかせとけ、ドラ猫が暴れようがしっかり支援するから。」

 考え込んでるガルアスを見ながらロゼッタは笑いながらフォローしていた。


「お前ら、ホントに強いんだな…。」

「伊達に修羅場は越えてないのでございます。」

 こうして俺達のガルアスを加えた新パーティの初陣は完勝で幕を閉じたのだった。

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