第53話 頼む!(再び)

 戦闘でもないのに全速力で屋台の合間、人の合間を駆け抜ける。視線を気にしつつどうにか馬車のある場所まで戻ってくることができた。


「はぁはぁ…ったくムゥの奴…。」

 別パーティの冒険者に絡まれてそれを賭け事にされた挙句変に悪目立ちしてしまいそそくさと退散してきたところだ。


「おいでっ。」

 俺は馬車からサラマンダーを連れてきて魔力を与えながら焚火に火を付けてもらいながら椅子を引っ張り出してきてドスっと腰かけて体を預ける。


「出発前から疲れたぁ…。」

 サラマンダーを撫でながらぐったりと一息つくことにした。


「お待たせ~。」

「災難だったな!」

 しばらく休んでいるとゼルとロゼッタがいろいろな物を抱えて笑顔で帰ってきた。


「おかえり。」

「いろいろ買ってきたよ~。」

 ロゼッタがテーブルを持ってきてそこに勝ってきたものを並べ始めた。


「イノシシの串焼き、山菜串、たこ焼き、ジャガバター、おにぎり、フルーツ盛り美味しそうなのいっぱいあったよ。」

「美味しそう、早速食べよ!」

「あ、あとこれ、すごいの!コウラ?っていうんだっけ?シュワシュワなのに酔わないんだって。」

 ゼルからそう言われ受け取った飲み物をゴクっと飲んでみた、少し味は違う気がするがまぎれもなく地球で飲みなれた炭酸飲料その味だった。


「コーラだ!」

「そうコーラ、のど越し抜群でも酔わないってすごく人気だったよ。」

 まさかコーラが飲めるなんて、こっちの世界に来てもう二度と飲めないと思っていたのに…先輩転生者が開発して布教したのだろうか?感謝しかない。


「肉も美味しいしジャガバターもホクホク、そしてコーラがある!幸せ~。」

「大げさだな~。確かに美味しいけどな。」

 三人で美味しく楽しく過ごしているとムゥが大きな袋を抱えて戻ってきた。


「ご主人~ただいま戻りました~。」

 俺は立ち上がりムゥの正面に近寄っていく。


「お~ま~え~なぁぁぁぁ!!!!」

 ムゥの頬を摘み思いっきり引っ張ていく!


「いひゃいうぇふ!ほふぅひぃんしゃふぁぁぁ~!!」

「お前のせいで変に悪目立ちしちゃったじゃないかよ、どうすんのおバカ!!」

 構わずムゥの頬をグリグリと引っ張り回す。


「うひゃ~~~。」

 バチンと引っ張ていた手を放すと頬を擦りながらムゥがこっちを向いてくる。


「酷いじゃないですか~あたくしが機転を利かせたおかげでご主人の一歩的な暴力がこんなにお金を稼ぐネタになったんですからぁ!」

「なんか言い方悪くない??」

 そう言いながら袋いっぱいのお金を見せてきた。


「ご主人の実力は折り紙付きですけど正義感の強い新人のひよっこっぽく見せてくれたおかげでございます~。」

「それ全然褒めてないよなお前?」

 ベチっとデコピンをするとイデッとすこしのけ反るような動作をしながら舌をペロっと出してなんともイラっとするあざとい行動をとってくる…。


「こいつ…。」

「それに目立ったって意味ではもう大丈夫かと?」

「どういうこと?」

「ご主人の喧嘩の後白いド派手な馬車の一団が乗り込んできてそっちの方で大騒ぎだったのでございます。」

「そういえば騒いでたね、どっかの国から来た勇者のパーティとか言ってたよ?」

「そうでございます、おそらく勇者達に経験を積ませるって名目で隙あらばクィーンを討伐してダンジョンを機能停止させようとしてるのでしょうね。」

「アルメアがダンジョンで潤うのは隣国にとって美味しい話じゃないしなぁ~。」

 確かに利益的にも損得で考えても潰せるなら潰してしまいたいのだろうとは思う。


「ダンジョンができるかどうかは蟻さんの気まぐれでございますからね。」

「じゃあ俺らが行く前に狩られつくしちゃうのかな?」

「それは無いと思いますよ?そんな大人数ではなかったですし何よりダンジョンアントをバカにしちゃいけないのでございます~。」

「そうなの?」

「アントの中には精鋭や特殊能力を持つ強力な個体も何匹か存在してるのでございます、中でも知能が高くコミュニケーションの取れる者をアンティオンと呼んで亜人族分類もされてるのでございますよ。」

「中には群れから独立して冒険者のように生きているはぐれ個体も居るらしいよ。」

「体系も人型に近い姿に進化していて武器なども使いこなすとか、コミュニケーションが取れる分敵としても倒しにくいというのもありますね。」 

 どうやら人のように進化したエリート蟻も存在しそうとう強いらしい。


「とりあえず、勇者が来たところでそう簡単には討伐できるもんじゃないのね。」

「そうでございます、ちょっと冒険者と行動基準が違うので揉め事は増えるかもですけど…。」

 ちょっとヤな予感がした。


「誰だ?」

 そんな時だった、ムゥの後ろから誰かが近づいて来ている気配がした。


「わりぃな、盗み聞きするつもりじゃなかったんだが…」

 そう言いながら2メートルはある体躯に白い毛並みの虎頭、背中に大きな斧を背負った男が歩み寄ってきた、先ほどギルド前で揉めていた彼だろう。


「あんたは?」

「俺はガルアス・グローネスついさっきまでパーティに入ってたんだがいろいろあって離脱してな…。」

 知ってます、見てました。


「さっき三人組を一人で八倒してたのお前だろ?」

 見られてた…。


「単刀直入に言う、頼む!!俺をパーティに加えてくれ!!」

 そう叫ぶとガルアスは頭を深々と下げてお願いしてきた、どこかで見たことあるような展開だとロゼッタの方を向くと本人は任せたとそっぽを向いていた。


「ちょっと待ってくれ、なんでうちなんだ?理由を教えてくれ。」

 ガルアスは言い難そうに頭を掻きながら話し始める。


「なんていうか、前のパーティを離脱した理由が俺だけ経験値が違うというか戦い方が合わなかったんだ…だから個人が強いお前らのパーティなら一緒に戦えるんじゃないかって…。」

 どうする?とムゥ達を見やると皆お任せしますと笑顔をして見せた、完全に丸投げである…。


「流石に一人で潜れるほど自分が強いとも思っていない、でもどうしても行きたいんだ、頼む!一緒に連れてってくれ!!」

 再び頭を下げてきた…。どうしようかめちゃくちゃ困ってしまった…。


「そんなにダンジョンに行きたい理由が?」

 聞くとガルアスは頭をあげて答えてくれた。


「行方不明の親父と、うちの家宝を探してるんだ…貴重品を集める蟻の巣は手掛かりが見つかる可能性が高い、だから…。」

 ホントにどっかで聞いたことあるような話だった。


「わかったよ、丁度うちにも同じような話で加わったのも居るしガルアス、俺はタカユキ、よろしく!」

「ちょ!?」

 ロゼッタがビクッとしていたが事実だししょうがない。


「ありがとう、恩に着るっ!!」

 俺はガルアスと握手をして笑ってみせた。


「こっちからムゥ、ゼル、ロゼッタだ。」

「よろしくね。」

「よろしく~。」

 ムゥは無言でひらりとスカートをなびかせお辞儀をして見せた。


「とりあえず、腹ごしらえも終わったし準備したら早速潜ってみようと思うんだけど準備はいい?」

「おう!」

 こうして新たに仲間が加わり、準備もできた、蟻が作り上げたダンジョンにいよいよ突入だ!!

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